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【1】幼馴染みは恋人未満 1

 西暦二〇五X年。

 兄貴が消えたのは、僕が高校に入って二度目の初夏のことだった。


 皇都・東京からやや南西、神奈川県の三浦半島に横須賀という町がある。

 軍港と軍学校とカレーが名物の街。


 でも僕ら思春期の男女にとっちゃなんら面白味のない、そんな街に僕、南方威(みなかたたける)と、隣家の一人娘で幼馴染みの(たちばな)みなもは住んでいた。


 横須賀港から歩いてちょっとの住宅街に、僕の家があるんだけど、今は半分居候として橘一家と家族のように暮らしてる。

 きっかけは、それまで同居していた海軍籍の兄夫婦が、遠い南の島「ニライカナイ」に転属してしまったからなんだ。

 だから、橘夫妻は僕の身元保証人であり、親代わりでもある。


 僕の実の親はといえば、遠い北にある海軍基地の司令官やってて、まず横須賀に帰ってはこない。

 というか、何年も会ってないから、いきなりあったら俺のこと分からないかもしれないな。


 さて。幼馴染で同い年のみなもは、軽く電波の入った粗暴だけどカワイイ奴だ。

 細身でボーイッシュ、髪型はショートボブを後だけ伸ばしてカブトガニの尻尾みたいに三つ編みにしてる。

 それから睫毛が長く、黒目が大きくて「目力」が強い。睨まれると恐いほどだ。

 だけど僕はみなもを愛してる。


 僕の外見はというと、中肉中背で、ちょっと色白。顔は普通くらいだと思うけど、みなものおばさん曰く古風で凜々しいらしい。

 髪は、訳あって銀髪を黒く染めているんだ。あんまり学校で目立ちたくないし。

 野郎の容姿なんか興味ないだろうから、これ以上詳しく語る必要もないだろう。


 僕は高校を卒業して就職したら、橘家の婿養子になって、みなもと所帯を持つつもりだった。

 なのに、兄貴のせいであんなことになるなんて、思いもしなかった。


 ――これは、僕と幼馴染みと初恋の人とその他もろもろの、心の救済の物語である。



     ◇



「みなも、こっちで……宿題やってくか?」


 僕は学校からの帰り、みなもん家の手前にある自宅の前で立ち止まり、みなもに声をかけた。


「フン、宿題なんかする気あるの?」


 みなもは僕に侮蔑の眼差しを投げてくるが、まんざらでもなさそうだ。

 彼女の言うとおり、宿題が目的なら橘家ですればいい。


「バレたか」

 僕の魂胆は、愛しいみなもさんとイチャコラしたかったわけで。

 まあ、さすがにみなもの家で乳繰り合うわけにもいかないから、そういう時は俺んちに行く。


 しかし、そんな濃厚な関係なのに、どういうわけか、僕のことをいつまでたっても恋人認定してくれないんだ。

 もうさ、同居もすることもしてんだし、恋人通り越して実質結婚してるようなもんなのにさぁ。


 俺としては就職して、こいつんちの婿養子になって普通の人生歩む気マンマンなんだけどさ。

 一体どーしたら恋人認定なり婿認定なりしてもらえるんだか分からない。


 ただ、原因はなんとなくわかってる。

 あいつは僕の愛情の形が気に入らないんだ。

 みなもは、『ちゃんと好きになってくれなきゃダメ』って言うわけよ。


 ……しらんがな。


 お前の『好き』って何なんだよ? って聞くとさ、胸がドキドキして苦しくて、のどがつかえたり、頭がぼーっとしたり、他のことが一切考えられなくなったり、死ぬほど自分のものにしたくなったり、少しでも離れてると不安でたまらなくなったり、…………らしい。


 それって、ぶっちゃけ病気じゃん? みなもは、僕に病気になれっていうの?

 別にそれってさ、みなもを想う気持ちの強さや深さには、一切関係ない気がするんだ。

 俺そのものの気持ちとは全く関係ないわけよ。みなもがそういう病気みたいな気分になる必要があるらしい。


 つまり、『ないものねだり』なんじゃないのかな?


 僕がズボンのポケットから自宅の鍵を引っ張り出していると、背後から声がした。



南方(みなかた)さーん、お荷物です!」


 それは、いつもここいらで配達している“猫のマークでお馴染み”の宅配業者のお兄さんが放った、やたら威勢のいい声だった。

 ゆっくりと振り返った僕の目に飛び込んできたのは、オレンジ色に染まった夕日とお兄さんの抱えた『電子レンジでも入ってんのか?』ってぐらい大きなスチロール箱だった。しかも、ホワホワと白い冷気をまとっている。みなもも不思議そうに箱を見ている。


「やあ、威君」

「こんにちは、難波さん」

「今日の荷物は生鮮品だから、早めに冷凍庫に入れるんだよ」

「わかりました!」


 お兄さん、顔なじみでガタイのいい彼は難波さんという。

 結局僕の家でイチャつく計画はお流れになり、僕らは荷物を受け取ってそのまま橘家の玄関に入った。



     ◇



「なん……じゃ、こりゃ」


 難波さんの去った後、僕らはちょっぴり涼しくなった玄関先でビミョーな気分になっていた。

 常軌を逸したデカいクール便の中身……。


「危険生物や南極の氷を通販した覚えなんかねえぞ」

 僕は、どうしても恐い想像しか出来なかった。


「何だろ。やたらでっかいけど……どっから?」とみなも。


「んー……どうやら兄貴からなんだけど、えーと、生鮮食料品って書いてあるな」

琢兄(たくにい)からヒトガタ? ニンゲン?」

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