表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】日雇い勇者と1ゴールドの聖女  作者: HAL
偽聖女と期間限定契約賢者
21/22

番外編4. 真実と仮初の賢者


お久しぶりです!

他の短編からこっちの作品を見つけてブックマークして下さる方が沢山いらっしゃって…なのに更新止まっててすみません(汗)

色々と無かった設定を盛りすぎて矛盾してるように見えなくもないですがきっと大丈夫……(祈り)

いつも誤字脱字引用不適等、報告して下さる小人さん達、有難う御座います!

指摘は心が折れない程度にしてやってください。割と凹みます…


【重要】

※今回、ある人物について書かれている内容に、皆様がショックを受ける可能性がちょっとだけ?あります。心を強く持って下さいネ!(え



「ご、ごはん…白いご飯……!」


 マリエラが目を輝かせてテーブルの上のご飯に釘付けになっている。いや、泣いてる…?目が潤んでるよ、マリエラ…

 熱い視線を感じたのか、遠征から戻って食事をしていた健は、並べられたおかずのお皿も含め、すすっと自分の前に寄せた。それを見て「ああぁっ…!」と貴族令嬢に相応しからぬ声を上げるマリエラの表情が…ぷぷ、声が出そう。

 いや、笑っちゃいけないんだけどね。


「だめ。これは俺の」


 そう言ってもぐもぐ食べ続ける健を、マリエラはヨダレが出る勢いでガン見してる。

 もー、仕方ないなぁ。


「よかったら少し食べてく?残り物だけど」

「!!!食べるっ!食べます食べさせて下さい!!」

「いや、土下座しなくていいから、マリ姉…」


 未来の王妃様がドレス姿でご飯欲しさに土下座なんて。


「こんなとこ、アンリに見られでもしたら「何をしてるんです?」っひゃあああ!」

「ひぃあああ!!」


 音もなく現れた声の主に、私とマリエラは驚いて部屋の角まで逃げ出した。勿論、健は平然とご飯食べてたけど。


「二人とも、流石従姉妹ですね。リアクションが同じだ」


 クスクス笑うイケメン王子。

 いや、騙されちゃいけません、と隣でマリエラがブツブツ言ってる。てか、従姉妹だからって中身が同じではないのよ?!どっちかと言えば、マリ姉の方が貧乏くじ引くタイプだし。

 

「ななな、何でアンリ様がここに…」

「君の方こそ。茶会の指定場所はここじゃ無かったはずでは?」

「私は…少し時間に早いので、美菜ちゃ、いえ、聖女様に会いに」

「私も似たようなものだよ。健にちょっと用があってね」


 健がモグモグと咀嚼しながらこっちを向いて頷く。

 今朝まで行ってたお仕事関係の話かな。

 健は昨日の朝、騎士団の人達とお仕事へ行ってさっき帰ってきたばかり。お風呂の後ご飯にしてたらマリエラが遊びに来たんだけど、そうか、今日アンリとお茶する日だったから登城したのね。


「まぁまぁ二人とも。とりあえず座って?アンリもご飯食べながら報告聞いたらいいよ」

「ミーナ、いつもすみません…」

「〝弟〟が気にしないの!おねーちゃんに任せなさい!」


 何を任せるのかは置いといて、申し訳無さそうに微笑むとアンリは健の向い側の席に着く。マリエラはこっそり離れた場所に座ろうとしたけど、アンリに視線で促されて彼の隣に座らされた。顔には悲壮感が漂っていたけど、見なかったフリよフリ。


「予想通り、バランスが崩れてた。〝賢者の不在〟が原因かどうかは不明」

「やはり……魔素溜まりはどうだった?」

「今のとこは騎士団でも問題無いレベル。ただ、報告件数が増えてる」

「浄化石は足りそう?」

「このままだと、もってあと半年…いや、3ヶ月?」

「厳しいな」

「そうだね……って。えー、と?何で美依菜はジタバタもがいてるの?」


 仕事の話で真剣に議論するイケメン二人を見て、私とマリエラは静かに盛り上がっていた。こ、心の中で団扇を振ったりしてたけど!決っっして!決して怪しげな挙動はしてなかったはず!なのに、心の悶えっぷりが滲み出てたのかな。


「眼福です」


 拝むように手を合わせる。携帯で撮れないのが辛い。


「何に祈ってるの?」

「どうぞとうぞそのまま続けて下さい」


 尊いわ…なむなむ。

 ちょっと呆れ顔の健に対し、アンリはというと、ここぞとばかりにマリエラに迫っていた。


「ふーん?貴女はこういうのが好みですか?」

「ひぃっ!ぃ、いいえ!滅相もございません!!!」


 両手を真っ直ぐ前に伸ばしてアンリの攻めを防いでるけど、それって逆効果じゃない…?

 アンリは迫るのをピタリ、と止めて言った。


「ああ。こちら(・・・)の方が良いですか?」


 と、あろう事か、反対側に回って健をギュッと引き寄せたではないの!えー!?


「ぎゃああああぁぁあ!アン(攻)✕タケ(受)…!!」


 は?

 マリエラはBLもびっくりな二人の絡みを見て大興奮し、鼻を押さえて―――ひっくり返った。いやぁ…うん、刺激強すぎるわこのイケメン達。てか、うちの健はノーマルですよ?カワイイ妻がここにいますからね?

 分かってやってるアンリの笑顔はなんとも腹黒さが滲み出ていて。あーこの子、情報収集して逃げ道無くしてから落とすタイプか、と、ちょっとマリエラに同情した。

 あと、マリ姉。

 こっちでBL本布教してないよね…?


「美依菜、おかわり」

「あ。はぁい!」


 そんな中でも変わらない健に癒される。

 やっぱりうちの子が一番ね!

 気絶してるマリエラはアンリが客間に連れて行って(お姫様抱っこする本物の王子様だ)介抱してるんで、私は愛しの旦那様におかわりのご飯をよそって渡す。


「ところで、二人が話してた〝賢者の不在〟って」

「むぐ……うん、結界が消えてから、なんていうか……空気の流れが変わったっていうのかな、魔素の吹き溜まりみたいなのが出来るようになったみたいで。それのせいで、山深くだけじゃなく、人里近くにも狂化した動物―――魔獣の出現報告が増えてきたんだ」

「魔素を吸収する結界、が無くなったから…?」


 フェルドニアではかつて、魔素が増えた事で魔導回路の弱い人々が魔障病にかかり、沢山の命が失われた。魔素を吸収していた結界だったけど、もう大気中の魔素は薄まったんじゃなかったの?それで結界を解いたのに……


「大気中の魔素が極端に増えた訳じゃないんだよね。上手く説明出来ないんだけど、溶けきれてないココアみたいな感じ?そのダマ(・・)が〝魔素溜まり〟だと思ってくれれば。結界のあった外側から流れて来たのかもしれないけど……美依菜の周りは浄化されちゃって気付きにくいと思う」


 あー、あのダマダマのココアね。よく分かるわ。


「美依菜の作った浄化石を設置すればダマは無くなるけど、何時何処に発生するか分からないし、圧倒的に数が足りない。騎士が派遣される前に人的被害が出ないとも限らない」


 聖女の私、ただ一人だけが作れる浄化石。

 例え今は数が足りたとしても、聖女頼みの力では私が老いていなくなった後、対応出来なくなる。


 この世界の平和はここの(・・・)人間が守るべきだ。

 もう異世界から喚ばせないと、そう決めて結界を解いたのに。


「例えば…前みたいに囲うものじゃなく、何箇所かに魔素を吸収する装置みたいなのを設置出来れば、対策も立てやすいと思うんだ。魔獣は定期的に騎士団とかで駆除すればいいし、街に近いとこなら冒険者に任せてもいい。ただ、ちょっと気になる事があって」

「何かあったの?」

「うん」


 味噌汁を啜りながら答える健。

 食べる姿までサマになってるとか、えー、CMみたい!

 心の中の私が健にわっしょいわっしょいしてるのを悟られないよう平静に言葉を待つ。そんな私をちょっとジト目で見る健。あらっ。ちょっと新鮮な…あー。はい。バレてますかね…バレちゃってる…?


「……よい、っしょ。で、続きなんだけど」

「〜〜〜っ!」


 健は立ち上がると、隣の席に来てそのまま腰掛けて。

 内緒の話なのかと息を飲めば、腰に手をかけられ、あっという間に太腿の上に横抱きにされた。

 は?え??

 降りようにもガッチリ抱えられてるし、みっ、み、みみみ耳の近くで、喋っ、喋らな、いでっ、こっ、こそばい!!


「た!っ、たけ…っ、健、こここ、降参するぅ…」

 

 半泣きで訴えて何とか許してもらった。

 ていうか、何でこんな目に…?

 いまいち納得いかないけど、藪をつついて蛇が出て来ちゃ大変なので私が折れましょう。おねーさんだし!ふん! 

 負け惜しみを心の中で叫んで話の続きを待つ。健は頭をポンポンしてきて、まるで子供をあやすように私を扱って「貸しとくね」って言って微笑んだ。

 はーっ!?なにそれなにそれぇ!!!

 こんの顔面凶器が―――っ!!

 もう完全白旗状態で下を向く。絶対顔赤いし。

 私が大人しくなったのを確認した健は再び話し始めた。


「救世主と呼ばれる召喚者はこの世界の神―――女神?に与えられるのか、勇者、聖女、賢者それぞれ異なる力を持ってるのは知ってるよね?言葉にすると、勇者は〝神力〟聖女は〝聖力〟賢者が〝魔力〟ってとこかな。賢者の持つ魔力はこの世界の誰もが皆持つもので、だからこそ救世主の中で賢者だけが結界を作り出すことが出来たんだ」


 そうか、賢者だけが魔素のコントロールが出来るから。

 私や健の力は一見魔法と同じ様でその性質は異なる。

 同じ清浄魔法を使っている風に見えて、実は魔力―――魔素を使っていない。便宜上、魔法って言い方をしてるけど、私の力の源は聖女の力だ。健の力の源は神様と同じだから、彼の魔法は天災級というか神罰的に見えるのよね。神の怒りだー、みたいに皆が怖がっちゃうやつ。ちなみに、誓約魔法は神様に対して誓うので、魔力を必要とせず、神様の神力が宿る感じ。

 源三さんが結界を越えても問題なかったのは、膨大な魔力があり、尚且つ魔導回路が極めて優秀な人だったからだろうか。


「俺とアンリが気にしてるのは、何故三つの力が必要だったのかって事。正直、賢者が結界を作って聖女が浄化すれば問題無い。勇者じゃなきゃいけない理由……〝三つの柱〟じゃなきゃ駄目な理由があるはずなんだ」


 そう言われると確かに。

 魔王を倒すとか、勇者じゃないと封印できないとか、何か理由があるよね。ただ戦闘能力が優れてるとか、そんな単純な理由じゃないだろう。でも、最初の召喚時に魔王なんて居なかった。

 そもそも『魔族』って存在は無いのよね。

 人が魔素で変質した姿を知らずにそう呼んでただけで。


「マリエラが話してた〝女神様〟って存在なら知ってるんだろうけど……」


『私ならここにおります』


「っひっ、ゃあぁぁ―――っ!!」


 突然、人じゃない気配と声にびっくりして超叫んだ。

 怖い怖い怖い怖い…!

 何故だか分からないけど体が震えてしょうがない。

 目も開けられずガッチリ健にしがみついてると、ポンポンと優しく背中を擦られる。


「大丈夫だよ、美依菜。ほら」


 健の声でやっと震えが止まった。

 健の心音が心地よくて安心する。

 恥ずかしい…私、子供みたいだ。


「顔、上げられる?女神様みたいだよ?見た目はアンリの婚約者だけど」


『貴方達とお話したくて、ちょっと彼女の身体をお借りしたのですが……。ごめんなさい、神気も魔力も持たない聖女の貴女は、神気への耐性が有りませんでしたね。抑えたので、もう大丈夫ですよ』


 言われてゆっくり顔を上げると、マリエラなのに纏う空気がまるで違って、別人になってしまった彼女が立っていた。

 エフェクトでも付いてるかのように、何だか神々しく光っている。でも、さっきみたいに恐怖を感じる事は無い。


『召喚聖女は魔力を持っていないのを失念していました』


「女神様、美依菜の心を壊すような事があれば……」


『い、いえっ!本当にもう大丈夫です!二度と!二度とまちがえませんから!!』


「今回だけですよ」


『ハイッ!!』


 ……ん?

 さっきまでの女神様と何か違わない??

 最初は怖い位の威圧感でどうしようもなかったのに。

 今はなんか……マリエラ、みたい、な?


『はい。ご想像通り、神気を抑えたので、今の私はこの体の持ち主の性質が強く表に出ています』


 あ、それで……

 突然ポンコツになったように見えたのか。


『ゴホン!ええと、私がマリエラさんの体を借りた理由は、』


「女神様」


『っひゃあぁあ!!はははいっ!ななな、貴方…!』


 突然後ろに現れたアンリに、マリエ…いや、女神様は驚いて真上に跳んだ(ように見えた)。

 神気抑えすぎじゃ……威厳がどこかに行方不明ですよ?


『眠らせた筈なのに…どうして立っていられるのです?』


 女神様は心底驚いている。

 でも見た目がマリエラだから、こう、なんか…コントみたいに見えるんだよね……

 そう思って隣を見れば、こくりと頷く健。アイコンタクトでばっちり意思疎通を図る夫婦です。ムフフ。


「先程の神気の中では、流石に意識を保てませんでしたが、今程度なら問題無いです」


『え、……えぇ?貴方どれだけ高魔力なの………ん?ああ!貴方、フェルドザイネスの王太子ね!次代の勇者候補だった子!ならそうね、耐性もあるわね』


 え。

 今なんつったこのポンコツ女神。


『ぽ、ポンコツ……』


「美依菜、口に出てる」

「う"っ!!」


 慌てて口を塞いだけど当然間に合ってない。

 マリエラの姿をした女神様はションボリと項垂れた。

 いやもう、マリエラに引っ張られすぎでは?


「じゃあ、ゲームの内容通り、ホントは私と健が死んじゃって、マリエラが聖女でアンリが勇者になるはずだったんですか?」


 そうだよね。

 よくよく考えたら、お母さんがわざわざ冒頭で私が死ぬシナリオを書くのはおかしいもの。源三さんにしたって、もっと自分を活躍させる話にしてもらおうとするはずなのに、あっちの世界ではサポートキャラだったって言うし。

 女神様が介入(・・)したんだ。

 でも、ゲームは今の歴史の後に作られたんじゃ…


『聖女、深く考えなくて良いのです。本来進むはずの未来は、別の世界での想像の物語(ゲーム)とする事で、存在しない歴史へと変わりました。私も貴女の言う幸せな物語(ハッピー)締めくくり(エンド)の方が好きなのですよ』


 そう言って女神様はマリエラの顔で微笑んだ。

 もしかして……あっちの未来のずっと先は……


『さて、勇者よ。貴方の考えているように、召喚されし者はこの世界にとって異物(・・)です。魔導回路を持たない勇者は魔素に触れすぎると体が侵され、死に至るか、狂化します。その為、魔素を浄化出来る聖女を必要としました。ですから、彼らは対でここに存在しなければならないのです』


 穢の状態の、あれね。健と初対面の時、物凄かったな。

 でも、それって本来なら勇者一人に対して、その相手の聖女も一人居なきゃダメだって事?


「じゃあ三田村が僕の聖女とかって言ってたのは…」


『そうですね、本来なら彼にも彼の聖女が必要だったでしょう。ですが、それを知らぬ者が次々と勇者を召喚しました』


 ぎゅ、っと手が握られたので握り返す。

 大丈夫、健の聖女は私だから。


「あの、もしかして―――初代の賢者は召喚者じゃなかったのでは?」

「ええっ!?」


 アンリの疑問に驚いたけど、いや、でもそうだ。

 魔力でいいなら異世界から賢者を召喚する必要はないはず。

 元々こっちの人で魔力が多い人とか選べばいいんだし。


『ええ。初代の賢者と呼ばれし者はこの世界の人間でした。いち早く原因に気付いた彼は、結界を張る計画を立てたのですが、中からでなくては結界は作れず、ですが内部に魔力が桁違いに強い彼が一人だと、万が一失敗して暴走した時に止める者がいない。そうして、策を無くした彼は神に助けを求めたのです。―――ですが、光ある所に影があるように、彼の強い魔力を活かすには、それを抑える対等の力がなくてはなりません。彼に匹敵する強さの、魔力と対極にある力を持つ存在が』


「それが、召喚勇者―――」


『そうです。勇者は魔力を持たない代わりに、強い神気―――我々と源を同じくする力を与えました。魔導回路の無い異世界の人間を勇者にしたのは、単純に、魔力の混じらない純粋な神気である方が力が強いからです。賢者と勇者の力が等しくある事が、世界の理―――バランスを保つ事になります』


 えーと、整理すると…

 賢者は魔力のべらぼうに高い人。

 で、その賢者の力が暴走しないように、同じ位の強さの神気を持つ人が必要で。賢者は魔素が平気だけど、神気だけの人間は魔素にやられちゃうから、その人を浄化する人間が必要―――って事かな。


『賢者、勇者、聖女、と名付けたのは初代の召喚者達ですね。役職を言葉にしないと面倒が起きるから、と』


「どの時代も力の強い者は象徴にされがちですから」

「アンリが言うと説得力あるね……」


 アンリ、優秀すぎて王様の仕事まで任されてるしなぁ。

 弟くん達、早く成長してお兄ちゃんの力になってあげてね…


「……初代の勇者と聖女はどうなったんですか?」


 健が女神様に問う。

 握られた手が緊張でなのか、少し冷たい。


『勇者と聖女はずっと―――その生を終えるまで、共にありましたよ。誓約をかけている所もお二人は良く似ていますね』


 誓約、って事は…そうかぁ。

 そうだよね。置いていかれたくない気持ち、分かるよ。

 あれ?でもそうすると、何で勇者の国とかに分かれてるんだろう。子孫がバラけて建国したとか?


『初代勇者と聖女が婚姻を結び、フェルドザイネスが建国されました。結界をより見守り易くする為、後に三国に分かれましたが、真実は埋もれてしまったのでしょう』


「賢者も異世界から召喚していたのは、伝承が途切れたから、か」

「ティンパルシアはバドグランディオほど無茶な召喚はしていませんが、それでも、失われた命と理不尽に巻き込まれた異世界の方々を思うと、胸が痛みますね…」


 本当なら、この世界の魔力量が多い人が賢者になるはずで。

 でも、国が分かれた事で全てが中途半端に伝わったんだ。

 権力欲とかなのかなぁ…哀しいね。


「女神よ。此度の出来事は賢者不在により、勇者との力の均衡が崩れた事によるのでしょうか」


 アンリが問うと、女神様は少し考えてから頷いた。


『そう、であるとも言えますし、違うとも言えます。結界が無くなった直後は、大気の魔素の流れが不安定なのです。今まで結界が淀みを吸い取っていましたから。時間が経てば魔素の流れも安定し、異常な淀みは起こらなくなりますが……』


 そうか。

 いきなり結界が無くなって、魔素もテンパっちゃってる感じ?であわあわと漂ってるのか。子猫が突然親の保護を無くして独り立ちさせられる……みたいな?


「女神様。我々にその〝魔素の淀み〟を安全に集める物を設置する事は可能でしょうか?」


『……我々が関与した事で、異世界への道筋と、召喚者への力の付与が神を通さずとも可能となってしまいました。貴方がたは欲の為、異世界の者達の人生を弄んだ。それ故、我々がこの世界の人間を選び、使命を与えたのですが……我々もまた驕っていたのでしょうね……』


「私達は今後、如何なる事があっても救世主を喚び出さない。この世界の者が、自分達の力で解決していく為に、私は、その方法が知りたい。知らなくてはならないのです」


 アンリに強い眼差しを向けられ、女神様は問いかけた。






『―――貴方に世界を救う、その覚悟がありますか?』


「―――はい。アンリ・フォン・フェルドザイネスの名に誓って、この世界の為に我が力を捧げます」


『いいでしょう。では継承なさい、アンリ・フォン・フェルドザイネス―――次代の〝賢者〟よ』

 




 え??賢者?

 しかもなんかその口上、マリエラが言ってた女神様との誓いのやり取りみたいな感じじゃない?は?

 女神様が跪くアンリに手をかざすと、辺りが真っ白に輝き出し、眩しさに目を瞑った。

 というか女神様。

 どさくさに紛れてアンリの事、次代の賢者って言ってなかった??アンリって次代の勇者の予定だったんじゃ…いや、それは無くなったけど、まさかの賢者って??!


『最後の勇者タケルとその聖女ミイナ。魔素が安定するまでの期間ですが、新たな賢者と共に、この世界の安寧を頼みましたよ』


「え、そんなあっさり賢者決めちゃっていいんですか?!力の使い方とか色々こう説明とかは!?」


 その結界石みたいな物の作り方とか無くていいの?心得とか!そんなざっくり世界の安寧とかって!

 落ち着いてるアンリに代わって女神様に質問しまくる。

 でも女神様はにっこり笑うだけで私の質問に答えてはくれなかった。


『大丈夫ですよ。元々次代の救世主には異世界の魂の輝きを持つ者を選定していました。継承されるはずです』

 

 それでは、と言って女神様はあっさり帰ってしまった。

 呆然と立ち尽くすマリエラを放置して。

 いやいや、何か最後、聞き捨てならない事を言ってなかった?異世界の魂の輝き、って………え?そういう事?アンリも?

 

「あの……これ、一体どういう事ですか……?」


 あ、マリエラが意識取り戻した。

 彼女の記憶はBLモドキを見てぶっ倒れた直後だもんね。

 そりゃ混乱もしますわ。


「あー、まぁ、とりあえず勇者と聖女と賢者が揃ったって事で……お祝いでもする?」


 私の意見は男子達にすげなく却下された。




「……………」

「アンリ?」


 膝をついて跪いた姿勢のまま項垂れてるアンリ。

 声をかけても聞こえていないかのように、どんよりとした、物理的じゃあないけど、重ーい空気を纏っていた。


「……死なせて下さい……」

「えっ?」


 今、物騒な台詞がアンリの口から飛び出さなかった??


「美依菜と健に合わせる顔がない……ですが、賢者として成し遂げなければならない事があるので今は死ねない……とりあえず、急ぎ廃嫡してもらい神に仕える身となって、結界石を作り終えたら」

「なっ、なに言ってるのアンリ?」

「ど、どどどうなされたのですか!アンリ王太子殿下!」


「―――健、僕を(ピー)して下さい」


 ゆっくり顔を上げたアンリの瞳に光は無かった。


「せいっ!!」

「っぅ!」


 スパーンと聖女印の聖布で作った聖帯(硬くて幅のある包帯みたいなの)でアンリの頭に入れた喝は、思った以上に爽快な音を響かせる。殴…いや、喝を入れられたアンリは、突然の襲撃に後頭部を押さえて呻き、その場に沈んだ。


「マリエラ。アンリがおかしいよ。浄化しなきゃ」

「はいっ!」

「ちょっと待った」


 聖布を持ってハァハァする私の手を健がそっと押さえる。

 いや、止めないで。

 アンリが何かに取り憑かれたのかもしれないじゃない!

 聖女なら悪魔祓いも出来るかもしれないよ?!


「いや、落ち着いて?何も取り憑いてないから。その布で縛っちゃダメ。こっち寄越して。ほらそこのピンクの人も聖帯隠し持たない。見えてるからね?あー、美依菜、ニンニクも銀食器も意味ないから。それはドラキュラとか狼人間とかだっけ?王太子に塩かけたらダメだっていくら婚約者でもマズいから」


 私とマリエラの一生懸命はどうやら空回っていたらしく、全て健に却下された。


「二人共、少し落ち着いて。アンリは呪われてもないし取り憑かれてもいないから。ただ自分の黒歴史と戦ってるだけ」

「たた?くろ、……え?黒、歴史?」


 黒歴史?

 えー?アンリにそんな厨二病みたいな時期があったと思えないんだけど…

 どっちかと言うと、ルディ様の方が黒歴史持ってそう。アンリなんてザ☆為政者って感じするのに。魔法で空が飛べると思って箒に跨ったとか、そんな可愛いやつでしょう?


「そういう訳だから、記憶喪失になる位ぶっ飛ばさないと前のアンリには戻らないよ」


 いや、物騒!! 

 仲良しだったじゃない!

 何故急に宿敵みたいな事になってるの?

 何か前世であった、の………………

 

「前世っっっ!!!!」


 頭の中には前前前…とくり返す歌が流れまくるけど、いやそうでなくて前世ですよ奥さん!(誰よ)

 その言葉にビクッと身動(みじろ)いだアンリを見て確信した。思い出(・・・・・)した(・・)んだと。

 だって、私達の名前を日本語と同じ発音で呼んでたし!


「そんなに小っ恥ずかしい前世だったの?」

「…………」

「まぁほら!それを恥だと思ってるって事は、アンリは大人になったって事だよ!いやまだ子供だけど、えー、中身がね!うん。今の立派なアンリなら誰も責めないって!ね、マリエラ!」

「はい!」


 でも、そんな慰めも届いてないのか、この世の終わりみたいな顔してアンリは健に言った。


「健……記憶を消すくらいの衝撃で頼む」

「記憶を無くすの、石作ってからにしてね」

「ありがとう……」


 うおーい!

 待て待て待て!

 健は了承しないで!何故にそこまで!?

 アンリはマリエラの方を向いて力無く笑う。

 愛おしい者に向けるような、それでいて何かを諦めたような顔で。


「……ごめん、マリィ。新たな嫁ぎ先は王家が責任を持って選ぶか「源三、さん?」―――!!」


 えっ。

 

 それは、ちょっとアレ(・・)な名前……


 聞かなかった事にでき


「源三さん…っっ!!!会いた、かったぁ…!ふぇぇぇえん!」

「マリィ……」


 ませんよね、やっぱり。

 ていうかですね、マリエラがアンリに泣きながら抱きついてるんですよ目の前で。これは私達は席を外すべきかそれとも「二人って知り合いなのぉ?」とかっておちゃらけるべきなのか。


「どっちでもない。アンリ、説明」


 どうやらまた声に出ていたようで、ボケにセルフツッコミする前に健に制された。えへへ。


「説明、といっても…」

「人んちでラブシーン見せつけるのと前世の話するのとどっちにする?」

「前世の話でお願いします」


 た、健くーん。

 無茶苦茶ご機嫌ななめ、かな?

 笑顔の圧が凄……マリエラが失神しちゃうから弱めて…


「僕も女神の洗礼を受けてから思い出したというか、あの時、記憶の渦が頭の中に流れ込んできたんです。膨大な賢者の知識と共に、前世の―――支倉源三の記憶が」


 うん。

 アンリの口から聞くまで信じたくなかったけど、まさかの前世がアレ(・・)ですか……

 本当に不本意だって顔してるし、世を儚みたくなる気持ちもよーく分かる。分かるけど、この眉目秀麗文武両道の名を欲しいままにしてた子が〝アレ〟って……何の冗談なの女神様。


「はっきり思い出してる訳じゃないんです。記憶の中を探ろうとすると思い出せるというか、他人の記憶を見ているようにも思えて、少し戸惑います」


 映画とか映像を見てる感じに近いのかなー?

 この感じだと以前の性格に引っ張られる事は無さそうだけど、賢者としての力を使っていくうちに同化したりしないかな。


「アンリ…じゃなくて、源三さんは真理姉と顔見知り、っていうか、その様子だと二人はただならぬ関係だったの?」


 知り合いの生々しい話はちょっと聞くの躊躇うわ。

 何となく恥ずかしくなって赤面する私に、アンリは慌てて両手をばばーって、否定するように振って叫ぶ。


「ちっ、っ違います!!僕達はちゃんと、恋人で、夫婦だったんです!マリィが……あんなに早く逝ってしまうまでは……」


 そうだった。

 真理姉は若くして亡くなったって話してたっけ。

 まさか源三さんと結婚してるなんて微塵も想像してなかったけど。


「僕は……いえ、支倉源三はあちらの世界に戻った後、絵を描く仕事に就きました。名が売れだした頃、直斗君がSNS経由で連絡をして来て、あの世界のゲームを作るので僕にキャラクターデザインを頼みたいと、シナリオライターのお母様と―――声を担当する野々宮真理さんを紹介されたんです」

「源三さんは神絵師として界隈で有名でねっ、私もファンだったの。まさか、美菜ちゃんと知り合いだなんて、驚いたよ」


 キラキラした目でアンリを見て語るマリエラ。 

 昔っから推しに対しての愛を熱く語ってる人だったもんなぁ。源三さんをリスペクトしてた、ってやつだったのか。


「連絡を取り合ううち、気付けばお互い好きになっていました。そうして付き合い始めて一年後に結婚して、それから一年して彼女の病気が分かって。マリィの命の時間が尽きるまで、あっという間でした。別れの心構えも何も出来ないまま……幸せの絶頂からいきなり奈落に突き落とされたみたいに、僕は、マリィを失って自暴自棄になり、浴びるようにお酒を飲んで。その後の記憶が無いので、おそらくそのまま―――」

「っ、げん、ぞ……さん、ごめんなさい、置いて、行ってしまって……私も貴方と、ずっと、ずっといたかっ…た…!」


 泣きじゃくるマリエラを優しく抱き止めるアンリの顔は、とても穏やかで、幸せそうだった。

 少年の顔してたのにいきなり〝男〟の顔になってて、おねーちゃんは正直戸惑います!なんか照れる!


「僕が美依菜を婚約者にしなかったのも、二人を見て幸せな、安心する気持ちになったのも、きっと、マリィが心の奥深くにいたからなんだね。ただ………」


 二人はしっかり夫婦だったんだなぁ。

 纏う空気が今までのあのぎこちない感じとまるで違う。


「出来れば源三のあんな記憶は思い出したくなかった……」


 うわぁ。

 また闇堕ち顔(ハイライト無し)に戻ってる!!


「あんな、あんな自分は知りたく無かった……何故あんな……皆に迷惑をかけ、女性を追い回すあの言動…!節操が無さすぎる…穴があったら入りたい……いや、今すぐ深く掘って沈めてもらわなければ…!」

「はいそこまで」

「うっ、」


 健の手刀で今度こそアンリは気を失った。

 米俵みたいにアンリを肩に担ぎ、二つ折りにすると、さっさと客間に運んでベッドに転がした。

 ざ、雑ぅ……


「……真理さんは寂しいかもしれないけど、前世を思い出すとこの通り情緒不安定になるんで、暫くはマリエラとして接してもらえるかな」

「は、はいっ!」


 そうは言った健だけど、少し考えるようにしてからチラとこちらに視線を向ける。


「俺の別人格みたく分かれてたほうがアンリの為かもね」


 そうした方が本人の精神衛生上良さそうだけど、マリ姉がいるしね。折角前世の夫に会えたのに、思い出話も出来ないのは寂しかろう。


「まぁ暫くは様子見ましょ。どうしようもなくなったら―――魔力封じの鎖で縛っちゃえば」


 後ろの方はマリエラに聞こえないよう、健の耳元でこそっと囁く。彼女は気ぜ…眠っているアンリを甲斐甲斐しくお世話してるので、はなから聞いて無さそうだ。

 アンリはマリエラに任せて退室したけど、責任感のある彼の事だ、勝手に世を儚んだりしないでしょう。


「ふぁ…流石に僕も眠くなってきた。美依菜、お昼寝しよ」


 腕を上に伸ばして大きな欠伸をする。

 あー、夜通し調査の後だもんね。流石におねむかな。

 トロンとした眠そうな目がカワイイなぁ。


「ふふ。洗い物だけちゃっちゃとしちゃうから、健は先に休んでて」

「…んー……じゃあ手伝うから早く終わらせよ」

「ありがと!大好き!」

「……ボクも」


 そう言って、頬にキスされた。

 ふふー。新婚さんですからね!甘いのだ!

 そうして食器やなんやらを一緒に片付けて、宣言通り、二人でお昼寝する。

 夢をみる事も無く、ぐっすりと深く、私達は眠った。






2話分をくっつけたのてちょっと長かった…

完結まであと1話でいきたい。

アンリの正体は最近設定したので、自分でも「嘘だろ…」って感じです(笑)

源三さんは不治の病に侵されていて、生きる気力を無くしていました。そんな彼が召喚され、等価交換により健康体を手に入れたんで、まーはっちゃけたというか、弾けちゃったんでしょうね。厨二病の始まりです。

元の世界に戻った後は、流石に厨二病を卒業して現代社会に溶け込んでいたのですが、真理ちゃんに一目惚れして猛アタック。恋人から妻になった彼女にメロメロだった所、真理の病気が発覚。進行が早くてあっという間にこの世を去ってしまった真理への思いは行き場を無くし、源三も後を追うように亡くなりました。

女神が目覚めさせなければ、マリエラとの関係はアンリが強いままだったと思います。

今後は多分溺愛モードになるはず?(笑)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
久しぶりに読んだので、源三って誰だっけ? 読んでる内に思い出すかな〜最後まで読んでわからなかったら、過去の話読み返そうと思いながら読んでて、途中で気づきました(笑)ちょっ…!あいつか!(´゜∀゜)・:…
ひょえ~!! 更新されてるぅ♪と思って見に来てみれば、あまりの衝撃に口があんぐりでした。 いや、これはこれでアリなのか?アリでしょう。ええ。 ・・・ちょっともう1周してきます。
[一言] 更新来てるなーと読みに来たら マジか…(素で驚愕 キャラ違いすぎますやん…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ