15.勇者と泣き虫な賢者③
長らくお待たせ致しました!これにて完結です。
※日本の季節が冬なのに…って箇所があったのでその辺りを少し書き直してます。
「この幼稚園バッグにお弁当いれてるからね。おうちに入って誰もいなかったら、この番号に電話して。弟がでるから、美衣菜に頼まれたって言えば大丈夫。ママに会わせてくれるから」
「はーい!」
一つ一つ真剣に聞く様子が可愛らしい。
ナナちゃんは転移時登園前だったようで、幼稚園のリュックを背負ったままこの世界に飛ばされていた。
幸いというべきか、母親が万一の為にと入れていた可愛らしいキーケースに入った鍵のおかげで、冬の寒空の中一人待つ事態は避けられそうだ。
手首とリュックに聖女印のミサンガを結ばれ、キラキラした瞳で『ありがとう!』と笑うナナちゃんの頭を沢山撫でてあげると、擽ったそうにキャッキャと声をあげる。念の為に直斗への手紙もリュックに括りつけておく。
彼女の中ではきっとまだ長い一日の中で、朝、幼稚園に出発したままになっているだろう。魔法で眠らせたせいもあるが、夜という暗い時間を見せていないからだ。
いつもの幼稚園とは違う場所で過ごして、いつも通りに帰路につく。その帰り道が今なのだ。
比較的見晴らしのいい結界前に立ち、深呼吸する。
「ゲンゾウさん、お願いします」
「オーケ〜。じゃ、勇者クンと聖女ちゃん、出力の調整頼んだよ」
「―――はい」
「……勇者クン、頼むね」
私の返答までの間をどうとったのか、ゲンゾウ氏は健ご指名で頼み直してた。失礼な!と思ったけど、ほんとに何のことか分からなかったので健から教えてもらおうと思う。健は私とは違い意味を理解したのかコクリと頷いていた。悲しい。
私の心を置き去りにしながらも儀式は進んでいく。
もうすぐお別れの時間だ。
「じゃ、始めるよ―――展開」
魔障石に小瓶の血液がかけられると、石は血を吸収するように音を立てて煙をあげる。前に直斗がやった時と同じだ。
「血は祖なり。祖は異界の扉を開く鍵」
ゲンゾウ氏の言葉で地面が光を帯びて魔法陣が描かれ出す。
「我、扉を開く者。我らの道を照らせ、綴れ、この魔素を糧として。彼の地へ続く道を示し給え」
色が前と違う。優しい、緑の光。
悲しい対価を必要としない、送還の魔法。
二人の足元から光が上に向かって伸びていく。
ゲンゾウ氏の顔を見ればいつものふざけた表情と違って、吹っ切れたような、どこかすっきりとした顔つきだった。
「っ、ゲンゾウさん!これ、どうぞ!」
「ん?なんだ…弁当…?」
「貴方が頑張ってくれたおかげで、食事には不自由しませんでしたよ。そのお礼です」
渡したバスケットには炊き込みご飯のおにぎりとか卵焼きとか唐揚げとかしょうが焼きとかポテトサラダとか。定番のおかずをたっぶりつめたお弁当。
ゲンゾウ氏は面食らったような顔をしたが、やられた、とばかりに破顔する。例えお弁当の中身が見えなくても彼にはわかったのだろう。
大丈夫、ちゃんと。
ちゃんと貴方の頑張りは伝わってる。
「っは…!ありがたくいただくとするよ。偉大な賢者『支倉 源三』の名前、しっかり歴史に残しておいてね?」
光が空へ伸びる。
同時に、結界が物凄い早さで空へ吸い込まれていく。
出力の調整というのがよく分からなかったけど、健に取られて空へかざした手からビリビリとした何かを感じ取った。健が『そのまま一緒に』って耳元で囁くもんだから、色々となにかを失いかけたけども。
「ばいばーい!!」
「ナナちゃん、ママと仲良くねー!」
片手をゲンゾウ氏と繋ぎ、余った方で元気に手を振るナナちゃんの輪郭が段々と薄れていった。
この別れは悲しいものじゃない、希望の光。
弾けるように光が消えると、そこには誰もおらず、結界の魔力も重苦しさも―――この世界から消えていた。
「…いっちゃったね」
「うん」
私達は最後の召喚者として名を残すだろう。
戒めとしてでも何でも。
もう理不尽に命を捧げさせられる人が出ないように、歴史にしっかりと刻んでほしい。
「結界が失くなったことで忙しくなるな、タケル」
「………」
心底嫌そうにルディ様を見る健。
新婚早々、日雇い勇者は忙しそうだなぁなんて他人事みたいな感想だけど、新婚だからとべったりずーっとされてたら神経がすり減りそうなんだもん。推しに萌殺されちゃう。
「じゃ、うちに帰ろっか」
こくり、と頷く健と手を繋ぐ。
今後、異世界召喚は行われない。
私達が死んだあと何かが起こったとしても、この世界の住民だけで何とかしなくちゃいけない。ただ、それは向こうの世界でも、どこの世界だってそうだ。自分達の力で解決すべき事を、他の世界の人間を一方的に呼び出して託すなんて無責任すぎる。
異世界人は私達だけになってしまったけど、もう理不尽に何かを奪われたりしないから、そう悲観するものでもない。
ふと隣を見上げれば、目を合わせて穏やかに微笑んでくれる。健は人格が併合されて、なんかこう…クールになったというか、爽やか君どこいったの?って感じなのよね。
憂いを帯びたイケメン…やだな新しい扉が開きそう。
「…熱い視線は大歓迎だけど、家に着くまで大人しくしててね?それとも僕の属性から話し合っておく?」
それ、覚えてたんだ。
いえ結構です、と両手を突き出してお断りさせていただく。
憂いどころか変な色気があるから凶悪極まりない。
「勇者達は今後どうするんだ?色々と煩わしいんならうちの国に来るのもアリだと思うぞ。歓迎する」
城にある転移陣へ向かう途中、ゼクスがそう話す。
最後の召喚者である私達はきっと、引く手数多、良くも悪くも影響力は強い。結界の向こうの国だったフェルドニアが一番認知度が低い分、一般人として生きやすいだろう。それを踏まえてのスカウトなんだろうけど。
「…結界が失くなって、もう私達を縛るモノはないから何処へ行ってもいいけど…でも今はあの国に、フェルドザイネスに帰りたい」
今後どうなるか分からないけど、と付け加えながらそう言った。
帰りたい。
一年も住んではいないけど、もうあそこが私の家になってるんだ。
「我が国にも是非遊びに来て下さい。ゲンゾウが開発した彼の国の物が他にもありますゆえ」
エイルさん、それって食品関係ですよね…!
ティンパルシアでは流行らないだろうけど、私が、いえいえ、フェルドザイネスが国をあげて買い取りします。多分!
ちらりとルディ様に視線をやると、やれやれといった顔つきで首を縦に振った。やったね!
「…うちは、大手を振って二人を招待出来ない所が辛いな。でも、いつか…いつかバドグランディオにも来て欲しい。その日まで、君達に自分の国を誇れるように立て直しておくから」
リュート王子は苦しげにそう言った。
握られた健の手が少し冷たくなったけど、表情は変わらない。
「私は―――お花を供えに行きたいです。彼らの慰霊碑のような物はありますか?」
「っ、はい!事実が発覚してからすぐに作らせたので……ありがとうございます…っ」
彼らも救われるでしょう、と、下を向き、小さく呟くリュート王子の声は震えていた。
良かった。
なるべく早く行ってお参りというか、お祈りしたいな。
この世界にはお線香とか無いだろうから、何か代わりになりそうなもの探さなきゃ。
「健は無理しないでいいからね?私だけで」
「いや、僕も行くよ。美依菜がいるから大丈夫」
「…わかった」
冷たかった手は、いつの間にか温かくなっていて。
温もりを分けたように、辛さも分け合えたらいいな。
嬉しいこと、楽しいことは2倍に。
悲しいこと、辛いことは半分に。
私達は二人で一つの存在だから。
「お弁当、持って行こうね。健の好きなのリクエストして」
「それじゃ多すぎて食べ切れないよ。余った分はお供えしてあげようか。きっとみんな懐かしくて喜ぶ」
「…そうだね、きっと」
弔いは先にゲンゾウ氏に頼んだから、もう魂はあっちの世界に還っているかもしれないけど。
「さ、準備はいいか?帰るぞ。タケル、ミーナ」
ルディ様がフェルドザイネス用の帰還陣の上に立ち手招きする。他の面々もそれぞれの国への帰還陣の上に立っていた。
「はーい!お世話になりました!こっちにも遊びに来てね!」
「ああ、壁の確認が終わったら寄らせてもらう」
「ミーナ、また女子会なるものをしよう」
ゼクスとセレス。
「勇者殿、次こそは手合わせして頂けるのを楽しみにしております。そして聖女殿、あのリュックは無期限貸出としておきます」
エイルさん。
「近いうちにまたお会すると思います。恐らくルディ様の遠征で」
「……」
「ちょっとお兄様!余計なこというから勇者様からドス黒い気が!!あっ、ミーナ!女子会する時はちゃんと声かけなさいよ!抜け駆け禁止…いだっ!兄様痛っ!」
リュート王子とミエール。
「皆さんありがとうございました!」
帰還陣が光り、一瞬でフェルドザイネスの離宮近くにある転移陣へと戻ってきた私達。魔道具で連絡をしていたせいか、騎士団の人だけでなく、アンリや王妃様の姿まである。
「ただいま!」
元気よく敬礼してみせたけど、王妃様に泣き付かれて抱きしめられてしまった。
「色々と報告してたからな、義姉さんも心配したんだろう。安心するまでそうしてやれ」
ルディ様はそう言うけど、健ごと抱きしめられてるから距離がですね、ほっぺがくっついてしまってですね…!
とはいえ、文句も異論も漏らせないので黙っていると、アンリが近付いてきて『おかえり』と笑ってくれた。心なしか目が赤いけど、そこは黙っておくのがいい女、よね。
こうして私達の日常は戻ってきた。
結界が失くなって魔素が薄れた為に、フェルドニアでは魔障病の患者が急激に減少しているらしい。こちら側も魔物の被害は格段に減っているとルディ様が言っていた。
とはいえ、健の仕事も私の仕事も減る訳でなく、今日も今日とて時給1ゴールドで数時間仕事をこなし、大切な人の為にご飯を作る。最近は日本食ばかりでなく、こちらのメニューも取り入れてアレンジしたりしている。おふくろの味なんてものはないから、私と健の故郷の味は、『この世界の食材と調味料で私が作ったもの』になってしまうのだろう。
「だいぶ遅くなったけど…来ました」
かつてそこには結界が、壁があったとされる場所。
リュート王子に案内されたのは、バドグランディオにある森の奥深く。ひっそりとそれはあった。
「大きな慰霊碑は、王宮の奥にあった召喚の間を取り壊して作られました。この場所は…」
「勇者が廃棄された場所だ」
感情のこもっていない声で健が説明する。
日本の合葬墓くらいの大きさの慰霊碑には、沢山のお花が供えられていた。聞けば、近くの村にここを管理する仕事を依頼しているという。
石には何十人もの名が刻まれていた。
あの三田村の名前も。
従属紋で支配するために名前が必要だったから、歴代の召喚勇者の名前が残っていたらしい。名で縛り付けて自由を、人の尊厳を奪った奴らはもうこの世界には生きていないけど、健ただ一人がその地獄を見た生き証人だなんて…。
「…泣かないで、美依菜」
この世界で正しく私の名を呼んでくれる人も、また、ただ一人。
生きていてくれてありがとう。
生き地獄を耐えた貴方にそう言っていいのか、いつも躊躇うけど、でも。私が君に救われた分を返したいから。
「…聖女の遠坂 美依菜です。遅くなってごめんなさい。皆さんの遺骨は三田村という人が持っていたので、ゲンゾウさんに頼んで日本に持っていってもらいました。もし、まだ魂が、心がここに残されて困っているなら、あちらへ還れるように祈ります―――送還の歌を」
目を閉じて手を合わせる。
聖女の鎮魂の祈りは、代々、フェルドザイネス王家に伝わっていたもので、王妃様に教わった。でも。
「…夕焼け小焼けで日が暮れて」
歌の調べに乗せて聖女の浄化の光を降らせる。
誰もが知る、懐かしい、日本の童謡。
家へ帰ろう。
悲しみも憎しみも、痛みも苦しさも。
沢山、思いはあるだろうけど、今はもう、ただあなた方の魂が救われる事を祈るしか出来なくて。
「美依菜、見て」
人の姿をした光が空へ向かう。
異形の型をとっていた光も、人の姿をとると嬉しそうに空へと上っていく。
―――やっと帰れる…
―――もうどこも痛くない…
―――ありがとう
声が聞こえた気がした。
恨みの声を覚悟していたのに、聞こえるのは感謝の言葉だけで。
「聖女様、今の歌は?」
「私達の国の童謡…わらべ歌、です。なんとなく、家に帰りたくなるでしょ?」
夕焼けを見ながら家路につく、そんな情景を思い描きながら作られた詩だと聞いた。懐かしくて、寂しくなる歌だけど、彼らを送るにはぴったりじゃないかと思ってチョイスした。だけど、真面目に歌うのってちょっと、いや、大分恥ずかしい。
「さ、せっかく沢山お弁当作ってきたんだから、食べよ食べよ!
レジャーシートみたいに大きな布を広げてお弁当を広げ始める。早起きしてたっくさん作ったんだもんね〜。
「ちょっと、あんた本気でここで食べる気?それに…気付いたんだけど、さっきあんたがお供えした食べ物、あそこに無いんだけど…誰が食べたわけ…?」
お花はそのままなのに、何故か私の作ったお稲荷さんや海苔巻きなんかのお供えだけきれいに無くなっている事に気付いたミエールは体を震わせた。リュート王子がそんなミエールに何か耳打ちして、更に顔を青くした彼女にしがみつかれてニコニコと笑っている。何か、拗らせてるなぁ…。
「ミーナのメシは美味いからなぁ…幽霊でも食わずにはいられないんだろう」
そう言っておしぼりで手を拭いて海苔巻きをつまむルディ様。絶対お弁当目当てでついて来たでしょ。
まぁでも。
とても悲しい事があった場所で、こんな風に穏やかな時間を送ることが、逝ってしまった彼らの手向けになるんじゃないかな、なんて。
ホントなら、呪いを撒き散らしてもおかしくないのに。
「多分…無念さとかそういう負の感情はアイツが持っていったんだと思う。あいつの力の源になってたけど、それは美依菜が浄化しちゃったから。ここに残ってたのは帰りたい、って純粋な思いだけだったんだろうね」
「そっか…健は大丈夫?浄化したげよっか?」
健の中の辛い記憶も浄化して消せたらいいのに。
そんな気持ちで言っただけだったのに。
「ん?僕?僕は…美依菜が触れて浄化してくれてるでしょ?」
「え?そんなことしたっけ??」
自分では気付かぬうちに浄化してるなんて、優秀すぎじゃない?
…なんて思った私が馬鹿でした。
「ほら、こうやって、ね?」
健はたっぷりと色を含んだ笑顔を向け、唇を奪ってきた。
「〜〜〜〜〜〜〜!!?」
それは浄化じゃなくない?!
顔を真っ赤にして反論したけど、爽やかに笑って返され、続く言葉がでてこない。くっそー、イケメン!!ズルい!
やけくそになって食べたお弁当は、自画自賛だけど美味しかった。
それから毎年。
ここでみんな集まって、お弁当を食べた。
いつの間にか植えられた、日本の桜に似た木が花を咲かせ、目も楽しませるようになった頃には、私達だけじゃなく、他の皆の子供達の楽しそうな歌声も空に響くようになった。
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「君が、ナナちゃん?」
七海が送還されたのは、召喚時と同じアパートの部屋の扉の前。
そこに立っていたのは人の良さそうな笑顔を向ける青年。
七海は青年にさっきまで一緒だった女性の面影を見た。
「うん!むらかみ ななみだよ!おにいちゃんがみーなちゃんのおとうと?」
「…うん、そうだよ。これ、おそろいでしょ?さ、ナナちゃん。ママに会いに行こっか」
「うんっ!!」
安心させるため、美依菜が作ったミサンガを見せると、七海は『おそろい!』と嬉しそうに笑う。
手を繋いで階段を降りていくと、アパート前に停められた車から直斗の恋人である愛海が出てきた。
「妹のチャイルドシートがまだあってよかった。さ、七海ちゃん乗って。おねーちゃんと直君がママのとこに送ってくね」
「はぁい!」
三人は七海の母が入院する病院へと向かう。
「ママぁ!!」
「七海っ…!」
集中治療室から一般病室へと移動していた母親には問題なく会えた。病棟には子供は入れなかったが、看護師が車椅子で一階の外来まで連れてきてくれたのだ。
母親は娘の無事な姿を見てボロボロと涙を零し、七海を抱きしめる。そんな母親に、七海も堰を切ったように涙を流して泣き叫ぶ。
「ずっと我慢してたんだね…偉いね、ナナちゃん」
二人が流す安堵の、幸せの涙はしばらく止まらず、感動の母娘の再会は騒ぎに気付いた外来師長がとんでくるまで続いたのだった。
同刻―――日本最北端、最果ての地に男―――支倉 源三は立っていた。
強い海風と粉雪を受けて寒さに一瞬顔をしかめるが、その口元には笑みが浮かんでいる。
周囲に誰もいない事を確認し、背負っていた袋を下ろして中から小瓶と灰のようなものが詰まった大瓶を取り出した。
「狭そうで悪いけど、三田村が君らの残滓を一緒にしちゃったんで…勘弁してよね」
一人、旅をしてる途中。
全てどうでも良くなって投げやりに生きていた時、一度だけ彼に出逢った。激しい憎悪のこもった瞳の元勇者。互いに利害もなかったので一言交わしただけの遭遇。
バドグランディオを憎んでいたようだったので、復讐なら勝手にしたらいいと関わらずに去った。
あの時。
もっと言葉を交わしていたら、何かが変わったろうか…なんて、そんな事は思わないけれど。
「救済措置、だそうだよ。この世界でおやすみ」
ゼクスが三田村の欠片を封じた小瓶。
その蓋を開けると、キラキラと何かが宙に舞い、風に溶けるように海へと吸い込まれていった。
「さ、君達も。魂の方はきっと聖女ちゃんが救ってくれるでしょ」
粉のようなそれは、シュワシュワと煙のように立ち昇り、雪に交わり消えていく。その光景を眺めながら、源三は美依菜から渡された弁当を籠から取り出し、懐かしい故郷の味を味わった。
「…ちぇっ、あっちで作ったのに日本の味とかふざけてるなぁ聖女ちゃん」
異世界で自分が作り出した故郷の味が正確に再現されていたと、元の世界に戻ってから知るとは思わなかったが。
「さぁて。このままここにいたら凍ってしまうな。人生はまだこれからだし、センチメンタルな気分に浸ってる場合じゃないよねぇ」
リュックのような袋と弁当のはいっていた籠を持ち上げ、源三は海に背を向ける。そのまま歩きだした彼は、それから一度も後ろを振り返ることなく進んでいく。まるで振り向くことが未練でもあるかのように、歩みを止めずに。
著作権の関係で童謡になっていますが、私が無条件で泣ける歌は『明日への手紙』です。なんかわからないけど泣けてしまう…。