13.閑話〜同じ願い〜
短めです。
幸せになって欲しいと心から願った。
ぐしゃぐしゃの顔で泣いている。
ああ。
どうか、――――――
(何だろう、これは僕の声?)
(それとも誰かの)
「なっ、なんだお前は…!どこから現れやがった!?」
「えっ」
視界がクリアになった時、目の前にいたのは自分より十程年上の男。どこをとうしたのか、馬乗りになられ、手には包丁のようなものが握られている。
慌てて足で蹴り上げ、男の下から逃げ出す。
男は突然の出来事に油断していたのだろう、何の反応も出来ずにひっくり返った。
「あんたこそ、そんな物振りかざして!まるで人ご」
「…ぅ……」
側にうつ伏せの女性が倒れている。
背中には刺されたのか出血の跡があった。
まだ息はある。
急いで救急車を呼べは助かるかもしれない。
「…な、な…」
「すぐ救急車を呼びます。それまで頑張って!」
直斗は女性に声をかけポケットの携帯電話を取り出そうとしたが、びっくり返った男がいつの間にか復帰して刃物を向けてきた。
「お前は何だ!七海をどこへやった!」
一見ヒョロっとしているが実は柔道の有段者である直斗は、男の腕を取り、相手の勢いを利用して見事な一本背負いを決めた。続けて容赦なく急所を蹴り上げ、痛みで動けなくなった男を確認してから周囲を見渡す。
アパートの玄関先だろうか、扉は開いた状態で、騒ぎを聞きつけたのか他の住民が集まってくる声がした。
「すみません!誰か救急車を呼んでください!女の人が刺されてる!!」
ほどなく救急車と警察が到着したが、当然ながら直斗も参考人として同行する羽目となり、長い事情聴取から開放された頃には陽もとっぷり暮れていた。
『挙動の怪しい男が女性を尾行していたので、こっそり後をつけると女性の部屋に押し入る所が見えた為、確認しに行くと女性が刺されて倒れていたので男を投げ飛ばした』
と、嘘ともホントとも言えないような言い訳でなんとかやりすごしたが、女性が意識を取り戻さない限り男に何と証言されるか分からない。
痛む頭に顔をしかめて、ミュートにしていた携帯を手に取る。待機画面には恋人である佐々木 愛海からの着信歴が表示されていた。
久し振りの愛しい彼女の声を期待し胸が弾む。
だが、愛海からの開口一番は『おっそい!!』という怒号だった。
「戻ってきたならすぐ電話してよ!こっちはセフィロスが急に消えて、直君帰ってくると思ったのに全然連絡くれないし!」
心配したんだから、と涙声になっていく愛海に『ごめん』としか返せない直斗。
セフィロスって誰だろう、と一瞬だけ思ったが、すぐにゼクスの叔父であると予測がついて安心する。大人しく部屋に籠もっていてくれただろうかと多少の心配はしたが。
こっちはこっちで大変だったと言い訳できたのは、愛海の『異世界人遭遇記』を1時間延々と聞かされた後だった。
「愛海、わざわざごめんね」
現金がないので愛海に迎えに来てもらったが、顔を見るなりボロボロと涙を零して抱きつかれる。
直斗の代わりに部屋にいた男は、姿形は同じだが中身は異世界人。色々とやらかすセフィロスに翻弄されながら3週間過ごしてきた愛海は、心身ともに疲れてきっていた。
「ありがとね。愛海がいてくれて良かった」
「直君、おかえりぃぃ…ぐすっ」
愛海が落ち着くのを待って家路につく。
久し振りの自宅はセフィロスという住民がいた痕跡がちょこちょこ残っていて、何だか不思議な感じがした。
「姉ちゃんに会ったんだ。異世界で聖女やってた」
「お姉さんって、直君お葬式に行ってたよね?」
「うん。その姉ちゃんがさ、俺と同じように異世界に召喚されてたんだよ。マジか、って思ったよね」
結局、その姉に助けられて自分はこの世界に戻れた。
姉はこの世界に未練がないのか、もう死んだ身だからと、向こうで生きて行くことに前向きだった。
こちらの世界ではなかなかお知り合いになれないようなイケメンに愛され、幸せそうに笑う姉。
だから自分は安心してこちらに戻れた。
幸せになって、とそう願った。
ここに戻ってくる時に聞いた声も、そう願っていた。
もしかして。
賢者召喚だと分かってはいたが、姉への『幸せになってほしい』との思いが、同じ様に強く願っていた彼女とリンクし、あの場所へと引っ張られたのだろうか。
警察で少し聞いたのは、彼女を刺したのが元夫である事と、現場から彼女の幼い娘の姿が消えているという事。
おそらくあの感じからすると、直斗とその幼い娘が交換されたのだろう。
母から娘への思い。
異世界へ飛ばされた娘は元気でいるだろう。
なんと言ってもあの姉の元へ送られたのだから。
「愛海ちゃん、あの女の人が元気になったら面会に行きたいから、付いてきてくれる?」
「んっ?うん、もちろんだよ!」
直斗の携帯に映る美依菜達の結婚式の動画に夢中の愛海だったが、呼ばれて慌てて動画を止めた。
「綺麗でしょ、それ。多分、それ以上綺麗な結婚式見ることはないと思う。そう言ったら姉ちゃんに叱られたけど」
どこか寂しそうに笑う直斗の気持ちが分かるだけに、愛海は『私もそう思う』と肯定し、直斗を抱きしめた。
ナナちゃんのママは助かってます。
DV夫から身を隠していたんですが居場所がバレてしまい、ナナちゃんが殺されそうになった所へ直斗が交代で現れたのでした。
【以下書き直し】
本来なら賢者が召喚されるだけのところ、予定より直斗の魔力量が多くて足りなかったのと、戻った先にいるセフィロスの事をチラッと考えた、という理由でセフィロスも召喚されたのでした。(直斗とナナちゃんの住んでるとこが近い、ってするべきか…)