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【完結】日雇い勇者と1ゴールドの聖女  作者: HAL
日雇い勇者と1ゴールドの聖女
13/22

11.勇者と結界の理⑧ 姉と弟02

誤字報告有難うございます!

物凄い変換になっててお恥ずかしい…



「結界を無くす為には、勇者・聖女・賢者の3名が必要だ」


 魔王の説明によるとあの結界の目的は2つ。

 ①外界の過剰な魔素から内界の人間を守る

 ②大気中の過剰な魔素を吸収して結界を維持する

 というもの。

 ただ、千年という長い時間によって大気中の魔素が正常まで戻った現在、結界周囲の濃厚な魔素が生態系に悪影響を及ぼしたり、魔障病を引き起こす原因になっているのだと。

 ちなみに魔障病というのは、私達が『狂化』『魔族』と呼ぶ状態になった人の事で、こちらの世界でも不治の病とされていた。


「千年前、魔素の中でも生き残れる奴らだけがこっちに残ったと言われてる。恐らく魔導回路が優秀だったんだろう。だが、今じゃ結界がある事でお互いによろしくない状況になってる」

「それならば無くしてしまおう、というのが我々の意向だ」


 魔王の説明に男装の麗人さん(名前はセレスさん。さっき自己紹介してくれた。魔王の妹なんだって)が付け加える。

 攫われてた私は知らなかったけど、皆は結界に関してさらっと話を聞いてたみたいで、びっくりしてるのは私だけだった。

 仲間外れ感…。


「今まで賢者を召喚したのは記録上二人だけだ。確かに少ないと思っていたが、そもそも作り直すものでは無かったからなのだな」


 前回喚ばれた賢者さんは十年前に召喚されたけど、私が喚ばれる数ヶ月前に忽然と姿を消したそうだ。

 結界の修復をしようとして真実に気が付いたとかそういうやつかなぁ。メモ、残してた位だし。なんで皆に真実を伝えなかったのか分からないけど。


 でも。

 賢者を召喚するって事は、また誰かが犠牲になるって事で。

 世界の為だって分かっていても簡単に割り切れない。


「魔王は、さ」

「魔王はお前の旦那!あとここは魔界でもなけりゃ、俺達は魔族でもないからな?!ここははじまりの国フェルドニア。で、俺達は単なる魔法に秀でた人間!あと俺の名はゼクスだ!一応国王なんだぞ…」


 そんなに魔王呼び、駄目なのか。

 息をきらして熱弁する魔王を見る。

 隣に目を向ければ私と目が合いニコッと笑う健。

 

「どう見てもあなたが魔王よね?」

「悪かったよ悪人(ヅラ)で!」


 いや、顔というより、銀髪ロン毛で胸の開いた服着てピチッとしたズボン履いてれば…


「その衣装が問題なのではなくて?」

「!」


 ミエールが珍しく助け舟を出す。いや、この場合追撃?


「そのマントも『いかにも』感が半端ないですわ」

「くっ…」

「いいではないか。愛称が『魔王」でも。強そうだぞ?」

「俺のセンスは放っといてくれ!」


 魔王は涙目だった。どうやら打たれ弱いらしい。




「マオーさんはさ、何を犠牲にするか分かってて賢者召喚するの?」


 あの人達を見ても、それでも必要だと言い切れるの?

 誰かの犠牲の上に成り立つ幸福。

 みんなそうなのかもしれない。でも、わかってて、分かってるのに繰り返す理由はあるんだろうか。

 私のその問いに魔王は。


「ああ。ちゃんと分かってるぜ。賢者召喚の対象者はナオだ。こいつを送り還す」

「帰す…?直斗を?」

「そうだ。ナオは勇者だ。等価交換で魔力が足りなくなる事はないし、こいつ自身、何でもない所から召喚されてる。危険は少ない。こっちへ来て間もないし、戻っても言い訳しやすいだろう」


 直斗が戻れる…。


「あのクソヤローのおかげで分かったとか、ホント、癪なんだがな」


 私達はずっと、死と生の交換だった。

 でもそうじゃない方法もあったんだ。

 三田村はここを壊して還るつもりだったのかな。

 あんなに帰りたがってたもんね。


「来てもらう賢者には申し訳ないとしか言えねぇが、そいつも事が済めば還す。叔父貴と交代でな」


 これで最小限の犠牲で済む、と魔王は言った。


「後はもう、異世界召喚は禁忌の術として後世に残さない。これでやつらが報われるとは思わないが、連鎖は止まる」


 賛同してくれるか?と魔王は私と健を見る。

 おそらく、私達は最後の犠牲者としてこの世界に残ることになるだろう。戻ったところで健は独りだし、私はお葬式をあげられてるし。向こうで二人、生きてくのもありかもだけど、それもまた、誰かの犠牲が必要だ。

 だったらもういいか。生きる術やら諸々考えると、二人一緒なら何処でも生きていけるってなっちゃう。


「私は」


 健の手を取る。


「この人と一緒なら、どこでだって幸せになれます」

 

 我ながら楽天的すぎるなーとは思うけど。

 ね、と健を見ればぼろぼろと滝のように涙を零している。


「えっ、えっ?なに、嫌だった?っ、わぷ!」

「美依菜…っ!」


 感極まって、といった感じで立ち上がった健にぎゅうぎゅうと抱きしめられた。当然ながら椅子は大きい音を立てひっくり返ってる。


「僕っ、絶対に美依菜を幸せにするから…!いっぱい稼いでくるし、浮気も賭け事も借金もしない。毎日愛してるって言う!だからずっと一緒にいて…!」


 好き嫌いもしないから、とさめざめ泣いている。


「…まるで捨てられる男だな…」

「捨てないわよ!」


 誰よ健に変なこと教えたの。碌でもない男の条件。

 王弟は『俺はほぼそれを実行してるぞ』と、どうでもいい情報を教えてくれた。犯人はお前か。


「姉ちゃん、健君とそういう仲だったの?!」


 そして弟(本物)はとっても鈍かった。

 うわー、うわー、と目を輝かせてこっちを見てるし。


「姉ちゃん」

「な、なに」


 は、犯罪じゃないわよ?

 健はこう見えても18歳なんだから!合法!!


「おめでとう!こんなイケメン、あっちじゃ捕まえられなかったね!健君、アイドルみたいだもん」


 直斗はそう言って、指でグッジョブと親指を立てた。

 そうだけど、はっきり言われると腹が立つわー。

 直斗の頭をぴしゃりと叩いてやった。


「んじゃ、二人は納得してくれたって事でいいな?あとは三国の意向を伺いたい。フェルドザイネス王弟ルディ・ロード・フェルドザイネス殿下、バドグランディオ第6王子リュート・イベル・バドグランディオ殿下、ティンパルシア第4王子エイル・ツェート・ティンパルシア殿下」


 名前が呪文のようだわ…。


「あー、いい、いい。堅苦しいのは苦手なんだ。ルディ、で構わん」

「了解した。俺のことはゼクス(・・・)と呼んでくれ」


 あ。名前強調しましたね?

 意外とちっさいな。


「僕もリュートとお呼びください」

「私は王位継承権を放棄しているので、民間人と何ら変わりありません。お好きに呼んでいただいて結構です」

「いやいやお前なんなら一番王族っぽい顔してるぞ?」

「…そう、なのですか?」

「そうだよ!」


 エイルさん、見た目派手だからなぁ。わからなくもない。

 おっと、話がいつの間にか戻ってるわ。集中集中。


「俺は賛成だ。まぁ一応国に戻って陛下の承認を得ないとだが」

「僕も兄上に報告しなければなりませんが、僕自身は賛成です」

「この件に関しては私が一任されている。そもそも私の目的が今回の件と合致するので問題なかろう」


「では、そのように。準備もあるだろうから調整して…」

「あ、あのっ!」


 ゼクスの言葉を遮ったのは我が弟、直斗だった。


「ナオ、お前納得してたんじゃ?」


 訝しげに問うゼクスに、直斗はええと、と、しどろもどろになりながら答える。


「…僕は…もうじきこの世界からいなくなります。姉ちゃんとも、今度こそほんとに会えなくなる。だから僕が居なくなる前に」

「直、…」

「姉ちゃんと健君の結婚式を挙げてもらえませんか!?」

 

「は い?」


 え、っと。

 結婚式ってあの結婚式?

 将来を誓い合うあの??私と健が?結婚???


 ブワァって顔が、全身が火照るのが分かる。

 絶対顔も真っ赤っかだ。

 

「おー、それいいな。その式典でトップが集まれば話も早い」

「私の結婚式が会談の隠れ蓑に…」

「まぁまぁ。おめでたいことですし、いいじゃないですか、結婚式!」


 心の準備もないままこんな騙し討ちみたいな式でいいのだろうか。いや、別に結婚式に夢とかもって無かったけど。

 そうかぁ、ついに人妻になるのかぁ…。

 健が旦那さん……なんかにやけちゃう。戻れ私の表情筋。


「美依菜」


 健の声。

 ふ、と目の前に影が出来て、あっ、と思ったらもう唇が重なっていた。触れただけですぐに離れる熱。


「ありがとう」


 そう言って笑った健の顔が、顔がっ…!


「ぃ……っケメンが眩しすぎる…」

「……いい加減慣れようよ?」


 全く慣れる気がしない。

 完全に二人の世界に入ってる私達に『どなたかあのバカップル、止めて下さらない……?』と震えるミエールの言葉は流された。




 そうしてフェルドザイネスに戻って一週間が過ぎ。

 結界の事、外側の世界の事、異世界召喚の事、そして犠牲になった勇者達の事ーーーー沢山の出来事と今後の話し合いについて色々と調整されたりなんだりがあった。

 そんな中、私はといえば。

 

「まぁっ!まぁまぁまぁ!本当に綺麗よ、ミーナ」

「…フン、まぁまぁ見られるじゃないの」


 王宮の侍女さん達が準備の為、慌ただしく動き回っている。

 私は白の、いわゆるウエディングドレスというやつに身を包んでいた。


「ミーナの世界では結婚式は白の衣装だと聞いて準備させたけれど…花嫁さんにはぴったりね!」

「はい、王妃様。今後、流行になる事は間違いありません」


 ドレスは何色がいいか聞かれたから、無難に向こうと同じ白にしたのに、まさかの流行の発信元になるとか恥ずかしすぎ。


「何もがいてるのよ…いい加減覚悟を決めなさい?」


 ミエールは今日も通常運転だ。

 ちょっとホッとする。


「だぁってぇ〜。絶対健の方が花嫁よりキラキラしてるのよ?花婿に霞む花嫁の自分を思うとさぁ〜」


 絶対あの子は私より目立つ!

 あんなにもイケメンなんだから!!

 結婚式は花嫁が主役なのにぃ〜、とグダグダ言う私に呆れたように返すミエール。


「貴女の夫が勇者で見目がよくっても。……今日は絶対に貴女のほうが綺麗ですわよ」


 今日限定ですけどね!と付け加える所がミエールらしい。


「聖女様。お時間です」

「さぁ、ミーナ。あちらで待っていますよ」

「はい、王妃様!ありがとうミエール、頑張ってくる!」


 手を振り部屋を出て別室に通される。

 暫くすると扉をノックする音がして、健が入ってきた。

 目が合うと顔を真っ赤にして、片手で口を抑えて何やらモゴモゴ言ってる。


「…美依菜…すごく、綺麗だ…どうしよ、僕、緊張して」


 私からすれば貴方のほうがよっぽど美人ですけどね。

 感動か感激なのかわからない健にそっと手を差し出す。


「エスコート、よろしくね」


 私の勇者さま、と付け加える。


「はい、僕の聖女」



 私達の式は想像以上に規模が大きかった。

 大きすぎて気後れとかどっか行っちゃうくらいに。

 私達は勇者と聖女って立場なので、お偉い人達への挨拶とか面倒なくだりは全部すっ飛ばさせてもらい、パレードの代わりにちょっとした余興で国民に挨拶させてもらうことにした。


「癒やしの光よ!」


 キラキラと降り注ぐ光の花が風に舞う。

 風は健が魔法で起こした。浄化と違って魔法は解除されない。同じ聖女の力だというのに不思議なものだ。


 遠い城下町から歓声が聴こえる。

 届いたんだな、と嬉しくなって健の手を握った。

 握れば同じ熱で握り返してくれる。


「契約を」

 

 アンリがやってきて台座に嵌った2つの指輪を差し出す。

 証人って言ってたけど、確かに聞いてたけど、まさかこのタイミングとは思わなかったわ。


「黙っててごめんね?」


 してやったり、の顔のアンリも天使。赦そう。

 

「ーーー健やかなるときも」

「ーーー病めるときも」


「「共に終わりを迎える日まで永遠の愛を誓います」」 


 婚姻の契約。

 どちらかが死す時、もう一方の命もまた尽きる。

 名実共に一つの命となる。

 今では行う者はほぼいない、古の魂の契約。

 指輪をお互いに嵌め合い、誓いの口付けを交わす。

 すると、足元から光が湧き上がり、噴水のように弾けると魔法陣を描き出す。シュルシュルと放物線を描くその光景は幻想的で、この世のものとは思えない、そんな感想しか出てこないほど綺麗だった。


「姉ちゃん、本当におめでとう。きっと僕の生涯で見る一番の結婚式だと思う」


 タキシードみたいな服を着た直斗が駆け寄ってくる。


「直斗…ばかね、自分の時を一番にしないと未来の奥さんに叱られるよ?」

「それは大丈夫。こんなの見せたら、きっと同じように思うって!」


 ん?

 見せたら??

 ていうか、あんた、その手に何を持って…?


「あ、これ?召喚された時、ポケットに入ってたんだ。充電できないし使えないと思ってたら、健君が魔法で充電してくれて。凄いよね!さすが勇者って感じ!」


 勇者ならお前もだろう、というツッコミは置いといて。

 見慣れた、非常に見慣れた携帯電話を持つ弟、直斗に向かって私は叫ぶ。



「ちょっと、それ、あんた誰に見せるつもり?!早く消して!ほら、今すぐーーーーっ!!」


 


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