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【完結】日雇い勇者と1ゴールドの聖女  作者: HAL
日雇い勇者と1ゴールドの聖女
12/22

10.勇者と結界の理⑦ 姉と弟

シリアスターン、抜けました。



「姉ちゃん!」


 え?健?

 隣の健を見るとふるふる首をふった。

 なに。かわいい。

 健が呼んだわけじゃないのか、って、そもそも私の事『姉ちゃん』って呼んだ事なかったわ。

 ……いややめよう。新たな扉が開いちゃう。

 健に呼ばれる妄想を振り切りつつ、声の出処を探す。


「あっち。直斗さん」


 見兼ねた健がぐりっと私の体の向きを変える。

 んー?

 直斗??

 目をキラキラさせた弟キャラがこっち見てる。

 …むっちゃ見てくるわ。


「あのね、健。私、弟とは十年以上会ってないの。正直、健が『僕が弟だよ』って言っても信じちゃうレベルで」 

「……お姉ちゃん?」

「ぅっ!」


 心臓にズキューンってくる。だめ破壊力ヤバい。


「こらこらこら。お前の弟はあっちだ」


 姉弟プレイは後にしろと王弟に言われた。失礼な。

 後でもう1回言ってもらおうと思ってたけども!


「えっと。私の弟って、直斗よね?久しぶり?」


 しゅーんとした顔がばあって笑顔になる。

 犬…?

 なんか耳と尻尾がみえたよ?

 幻かと目をゴシゴシしてたら、泣いてると思われてリュート王子からハンカチが差し出された。辛い。

 はっ。

 なんか健の視線が痛いっていうか圧が…いえいえ、弟属性とか興味ないです。私の推しは健ですから!


「久し振りの再会が姉ちゃんの葬式だったんだよ…」


 それは悪い事したな。

 でも会うの禁止されてたし、仕方ないよね。

 私は事故で死ぬ直前だったから、多分喚ばれなかったらこうして会うことも無かったけど。


「あんたは大きくなったね。で、まさか直斗も事故だったの?姉弟揃って異世界なんて」


 親不孝過ぎる、って言葉は飲み込む。

 健にはあまり聞かせたくないし。


「いや、僕はご飯食べようとしてたらいきなり。冬期休暇中だから良かったけど、僕と交代した人大丈夫かなぁ」


 呑気に人の心配してこの子は…ホント箱入り息子だわ。

 まぁいいトコのボンボンだしね。

 

「ナオ、お前顔色がいいな。やっぱり聖女の影響か?」


 ん?どゆこと?

 銀髪の魔王様がじっと直斗の顔をみてる。

 おねーちゃんは腐女子ではないけど、理解はあるつもりです。でも魔王の嫁は大変そうね、弟よ。

 生暖かい目で見守る私に、『そうじゃないと思うわよ』とミエールのツッコみが入った。


「多分、姉ちゃんがこっち側に来た時からだと思う。咳も出ないし、調子いいんだ」

「大気中の魔素量も大分落ち着いてたんだが、さすが聖女だ。まぁそもそもミタムラに魔素を入れられてたからな。人工魔王を作ろうとしてたみたいだぜ」


 今まではバドグランディオから追放された勇者が実験体に使われていた。健が『勇者の成れの果て』と言ってた魔族も、アイツが関与していたらしい。一部の勇者は救出されたけど、殆どが魔導回路が破損して魔素を排出することが出来ず、天寿を全うすることなく亡くなっている。今この国に残ってる勇者はいないそうだ。


「一応これ、付けときなさい」


 マジックバッグからミサンガの予備を取出し、直斗につけてやる。これで自動浄化装置発動よ。


「ありがとう、姉ちゃん」


 うん、なんだろ。

 ときめかない。

 そうよ、これが普通の弟よね。

 健に感じる可愛さは何なんだろう…いや、直斗だって見た目悪くはないけど、健のこう、内面から滲み出る弟属性が。


「とりあえず僕の属性は後でゆっくり話し合おう。転移陣で帰還するから早く」

「はい…」


 また心の声が。

 ふふん。

 そんな冷たい口調だけどね、ちゃんと手を繋いでくれてるの!あーもう、優しい。大好き。

 何だかさっきから健への気持ちが抑えられないというか。

 何かおかしい。

 私、こんなに好き好き言うキャラだった…?

 はっ。


「まさか健、私に魔法を…」


 転移陣にひょいと乗りながらジト目で見る。

 健は『また馬鹿な事を…』ってちょっと呆れた顔を私に向けた。


「そもそも美依菜、聖女だから罹らないでしょ」


 そうでした。

 うーんじゃあ何が原因だろう。

 足元の転移陣が光るのを見ながらあーでもないこーでもないと考える。

 

「大技、使わなかった?」

「大技?うーん、…あ!最大出力のアレ!」


 あの男(ミタムラ)に向かって浄化をブチかました時のあれかな。あの技が関係あるの?


「相当聖力を消費してるでしょ?生命維持、って訳じゃないけど色々リミッターが外れたんだと思う。さっきも僕から聖力吸ってたし」

「は…え?」


 吸う??健の聖力を………吸った?!私が!?


「魔力とか足りなくなると、5割増で感情の抑えが効かなくなる。今、ちょっと思考が変…ダダ漏れなのもそのせい」


 今、変態って言おうとした?!

 好きな人に向かって酷くない!?

 ウチに帰ったらイロイロ覚えてなさいよ!って、それより吸うって何よ、さっきのキスってあれ単なる栄養補給?!!


「あー、なんだ。盛り上がってる所悪いが、着いたぞ」


 魔王がきまずげに声をかけてきた。こちらこそ申し訳ない。

 皆待っててくれたのね。

 足元の移動魔法陣の光はとっくに消えていた。

 

 着いた先はお城の演武場みたいなとこで、私達は城の来賓用の部屋へと案内された。魔王によって。

 普通こういうのって部下にやらせるものでは?と言ったら、訳ありすぎて説明のしようがないので自分で案内する事にしたらしい。まぁ無駄が省けていいのかな?


「部屋なんだが…そこのチンマイの」

「は?ワタクシの事ですの!?」


 ミエールはレディに対して失礼すぎると憤慨した。


「危険はないって言いたいとこだが念の為だ。お前、誰と寝たい?」

「この歩く破廉恥が!!」


 言い方ってあるよね。うん。

 宝塚みたいなお姉さんに一発重いのをお腹に入れられた魔王はその場に沈んだ。


「それ、妹なので僕と同じ部屋に。いいね?ミエール」

「…むしろそれ以外の選択肢がありますの?」


 ミエールがリュート王子と同室、ってことは。

 え、私はどうしたら??

 むしろ私がミエールと同室でよくない?

 私が、と立候補しようと挙げた手はスッと健に降ろされた。邪気のない笑顔を浮かべて。


「僕も弟みたいなものなので同室で。一緒でいいよね」

「最後が疑問形じゃないとこが確信犯!!」


 なんだろう、なんか違う意味での身の危険がね!

 こう、ひしひしと迫っているというか。


「ミエール、後生だから一緒の部屋にして!」

「お断りしますわ。命が惜しいですの」

「裏切り者〜!ブラコン〜!」

「なんですってぇ!」


 ギャーギャー言い争う私には『バカップルの部屋は最初から決まってるぞ』という魔王の呟きなんて聞こえなかった。 


「姉ちゃん、僕の部屋に来る?僕、ソファーでも寝られるし」


 裏のない申し出に一瞬考えたけど、十年ぶりの弟でこんだけ成長されたらほぼ他人なのよね。

 身の危険は感じないけど…あれ、でもこの子。勇者なのよね、一応。

 提案に乗っちゃおうとした私に、健がツンと服を引く。

 振り向けば、俯きがちに上目遣いで見つめてくる瞳。


「…直斗さんのとこ行くの?」

「ほら、私と直斗、姉弟だし…」

 

 そうそう、実の姉弟なんだもん!

 部屋割りとしては普通よ、これが。

 でも、相手は私より数段上手だって事、忘れてた。

 

「…お姉ちゃん、僕じゃ、駄目…?」


 潤む瞳に、お姉ちゃん呼び。

 あ。

 もう駄目です。


「駄目なわけないじゃない!!」

「ホント?じゃ、いこ!」

「うんうん、いこっか!」

 

 はしゃぐ健に手を引かれ、充てがわれた部屋へと入る。

 後ろで皆が溜息をついていたなんて知らずに。

 



 翌日。

 

「よっ。起きれたか。おそよーさん」

「…王弟殿下…おはようございます…」


 目が覚めたら太陽はとっくに昇ってて、ようやく起きれた時にはもうお昼をまわっていた。

 昨日何があったかなんて聞かない所が皆大人よね…

 いや、確かに結界の意味とか、元勇者とか魔王とか弟までも出てきて、正直キャパオーバーではあるけども。

 聖力の使いすぎで感情の制御が出来なかったというか、色々垂れ流して恥ずかしいったらない。色んな衝撃が吹っ飛んじゃったよ…なによもう、お姉ちゃんって…。私のバカーっ!


「まぁあんま気にすんな。聖力も戻ったみたいだし、良かったじゃないか」 


 その戻し方が問題なんですってば。

 エイルさん、興味津々って顔してるけど絶対に教えませんからね?これだから魔法オタクは。

 

「飯はどうする?」

「健が…甲斐甲斐しくですね」

「いや、言わんでいい。胸焼けしそうだ」

 

 お互い遠い目をしながらメイドさんが入れてくれたお茶を飲んだ。なんだかホッとした。


「全員揃ったようだな」


 そこに、魔王が健と直斗、あと男装の麗人みたいなお姉さんを連れて現れる。

 健は私を見つけるとすぐ側に来て、『体は大丈夫?』と聞いてきた。心配するくらいなら手加減して下さい。色々。

 

「まあ座ってくれ。話はそう長くないが、結論だけ先に言う。我々の賢者召喚の儀に協力してもらいたい。結界からの開放の為に」


 


 ええ…これ、絶対話長くなるやつじゃん…



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