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旅立ち2

 口を閉ざさぬロジェームは何故か蘭から離れず、そんなロジェームに蘭は警戒を解くことなく一夜明けた。


「ランさんはどうしてこの森にいるの?」


 戦場稼ぎが如く蘭が斬った男たちの身ぐるみを剥いで目ぼしい金品を盗んでいるロジェームは蘭に問う。彼の黄色の髪が陽光に反射してキラキラ輝いている。眩しい。


「にぃさまを探している」

「お兄さんを、こんな森の中で……?」

「そうだけど」


 何か問題が? と堂々とした態度で返す。一夜かけて蘭の様子を見て性格を察したロジェームは苦笑する。


「人を探すならそれこそ街に行った方がよくない? 人が多ければそれだけ目撃情報だって集まるだろうに。というわけで護衛、してくれるよね」

「断る」

「えー、そこは了承するところでしょ。このままずっと森の中を探していたって場所が違ったらいつまで経っても見付からないよ」


 正論を返されて蘭は口を閉ざす。確かに一理ある。それに何といっても米が食べたい。肉や果実に飽きたわけではない。ない、が切実に米を食したい。食欲に突き動かされた蘭は渋々ながらも請け負う。


「ありがとう。ギルドに着いたらちゃんと報酬は支払うからそこは安心して。改めてよろしくね、ランさん」

「……よろしく」




 ☆ ★ ☆




「ぎる、ど?」


 山道に出て道なりに二人並んで歩く。道すがら蘭はロジェームの話の中にあった聴きなれない言葉について尋ねる。


「ギルドっていうのはね集まり、組織、組合。国に属さず独立した組織形態を確立している集団のこと。ギルドには二つあって一つは冒険者ギルド、もう一つは商業ギルド。今からオレたちが行くのは冒険者ギルドの方ね。冒険者っていうのは一つの職業で、魔物の討伐や薬草の採取、街住民の雑用や商隊の護衛とか……まあ平たく言えば何でも屋だね」


 ふーん、と気のない声を返す。己から聴いておきながら何とも興味のなさそうな返事だ。実際興味はないのだが。


「自分には関係ないって顔しているけどランさんは今からその冒険者になるんだよ」

「なんで」

「冒険者にはギルドカードっていう身分証が発行されるんだよ。それがあれば街の門にスムーズに出入りできるから旅をするなら必需品なんだよ」


 街の門ってなにと思ったが関所のことかと思い至った。そしてその答えはすぐに理解することとなった。




 ☆ ★ ☆




「なにあれ」


 木々の合間から街らしき場所が見えた。ロジェームによれば今見えている街が目的地のようだ。


「なにってズィーナスの街だけど……?」

「なんで壁で囲っているの」

「そりゃあ魔物が蔓延る大地でなんの対策も取らないなんてことはないでしょ。防衛目的でああいう風に街をぐるっと一周外壁で囲っているの。あと賊対策でもあるかな」

「あの列は」

「街に入るために順番待ちしている列だよ。門番が滞在理由だとか街に来た目的だとかを逐一尋ねるんだよ。他にも門があるけど街に入るためには必ず門を通らないといけないからああして列になるんだよ。列が長いほど流通が盛んだってことにもなる」


 今は昼下がり。申の刻になった辺りか。


「さあ、早く門に行くよ。門は朝から夕方までしか開門されないんだから。逃したら野宿になっちゃう」

「先に往ってて」

「なんで?」

「みぶんしょう? がないから小夜に潜り込む」


 蘭の一言にロジェームが固まる。


「…………いやいやいやいや。なに潜り込むって!? 普通に門から入ればいいんだよ。身分証がなくても一時的に滞在許可もらえれるような処置があるから。だから普通に門から街に入ろう。ね!」


 必死に云い伏せるロジェームに蘭は理解できないといった顔を向ける。コンコンと云い聞かせるので取り敢えず頷いた。




 ☆ ★ ☆




 門から伸びる列の最後尾に並びその刻を待つ。前に並んでいる人々が物珍しげにチラチラと蘭へと視線を向ける。しかしその視線に気付く様子もなく直立して目を瞑っている。前が進んだ分だけ歩くが最低限。その間に会話は一切なかった。


「次の者っ!」

「ランさん順番来たよ」


 目を開けてロジェームの後に続く。列に並ぶ前にロジェームから「オレに任せて。ランさんは門番からなにか尋ねられたときだけ口を開けばいいからね」と言われたので言葉に甘えることにした。


「身分証の提示を」

「はいどーぞ」

「あなたは……! いえ、失礼しました。身分証の確認は十分です。そちらのお嬢さんは?」

「彼女は田舎から来たばかりで身分証はまだないんだ。これから冒険者ギルドに登録しに行くつもりだから一時許可を貰いたい。ああこれ、通行料ね」

「そうですか。お嬢さん、慣例なのでお訊きします。ズィーナスにはどのような目的で?」

「……にぃさまを探すため」

「――そうですか。それではこちらの水晶に手を当ててください」


 云われた通りに水晶と呼ばれた丸い物体に手を乗せる。乗せた瞬間、水晶が白く光った。それに吃驚した蘭はすぐさま手を引っ込める。


「犯罪経歴はなし、と。はい、大丈夫です。ようこそズィーナスへ。あなた方を歓迎いたします。…………お嬢さん、兄君が見つけれるといいですね」

「……どうも」



 蘭たちの対応をした門兵は二児の父。ちょうど蘭と同じくらいの年齢――門兵の主観的判断だが――の息子と娘がいる。だからか少し感傷的な気持ちになってしまった。まだこんなに年若い娘が兄を探すためにわざわざ遠い田舎から出てきたなんて……なんて健気で兄想いの娘なんだ、と。多大な妄想が混じっているがあながち間違いはない。早く見つかりますように、と去りゆく背中を見詰めて心の中でそっと祈る。



 街の様子に蘭は驚愕し目を瞠る。


「どう? 街の感想は」

「色が……頭、お花畑みたい……」


 街並みは蘭の住んでいたところとは全く異なっていた。木造の平屋が主で大きい建物なんて城ぐらいしか存在していなかった。対してここは殆どが二階まであり石造りの建築物が軒並み構えている。


 だがそれよりも驚いたのは道ゆく人々の頭部、髪の色だ。蘭の知る髪色は黒色もしくは白髪ぐらいだけだ。なのに、なんだこれは。こんな色鮮やかなのは花畑でしか見たことがない。そう思っての先の発言だった。



 幸いにも小さく漏れた蘭の声を耳にしたのはロジェームだけだった。街の喧騒が蘭の声を掻き消してくれていた。


「頭がお花畑って変な誤解を生むような発言はやめてもらってもいいかな」


 口角をひくひくと痙攣させながら笑みを浮かべるロジェームは蘭を窘める。そんなロジェームの声は聴こえていないのかキョロキョロと忙しなく視線を奔らせ街を見渡す。その様子は門番に云った通りのまんま田舎娘だなとロジェームは思った。


「さあこっちこっち。はぐれないようにしっかりと着いてきてよ」


 先導するロジェームに周囲を見渡しながらもしっかりと後を追う。

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