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見渡す限りの白雪が眼前に広がり、吹雪の音だけが響き渡る。信仰心の無い者ですら死の山、神住む山と恐れ慄くこの地は、今まで誰も登ったことがないと言われている。


人どころか、動物も虫もいない。肺も凍りつく寒さの中、如何なる存在にも耐えられないその地を只管に歩き続ける女がいた。


頭巾のついた外套と襟巻きで寒さを凌いではいるものの、とても極寒の地を歩く装備とは言えなかった。

時には山の頂きにたどり着き、遥か彼方まで続くと思われる山々を眺め、時には吹雪が吹き荒ぶ中を歩き続けた。


その全てが女には無意味な事だった。女に目的は無く、ただ極寒の地を彷徨った。


女は眠らなかった。

食事も必要が無かった。

女は死を知らない肉体を持つ者だった。

神が住むと言うならば、もしかしたら死ぬ事が出来るかもしれないと僅かばかりの望みを持ったが、それも叶う事は無かった。


本当なら凍傷を起こして手足を失っていてもおかしくは無いだろう。だが、負傷したところで、女の傷は直ぐに癒えた。


だが痛みは有る。刺すような冷気も、焼ける様な足の痛みも、感じていないわけでは無かった。


痛みを覚える度に、生きているのだと、女に実感させた。

それでも、女は目的も無く山に止まり続ける事を選んだ。


女に行く当ては無かった。故郷に戻る訳にもいかなかった。

途方も無い雪山の中、誰もいないその地で生きる事だけを望んでいた。


どれ程歩いた頃だろうか、吹雪は徐々に静まっていた。深々と雪は降り続けていたが、耳元に響いていた音は無くなり、無音の世界が広がるばかりだった。不気味なまでの静寂に辺りを見渡し、ふと足を止めた。奇妙な気配が何処からか感じられた。


何かいる。


女は身構え、帯刀していた短剣に手をかけた。何が現れるかと警戒して、辺りの気配を探った。


そして、それは突如として目の前に現れた。


白い景色の中にはっきりとわかる存在感を放つそれは、白銀の龍だった。白光を放つその身に目を奪われ、ただ呆然と立ち尽くしていた。


女は目の前の存在が本当に龍かどうかは分からなかった。本の挿絵でしか知らないその存在に、自分は幻でも見ているのかと疑った。


龍に敵意は無く、金色の瞳が見入るように女を捉えていた。


龍に喰われるのだろうか。それならば、死を迎えるのだろうかと、女は考えていた。


だが予想に反して龍は何もする事なく、まるで霧の如く消えていった。


また、吹雪が強くなった。轟々と響く音に飲まれる様に、女は現実に引き戻された気分になった。


龍が現れた意味も分かるはずも無く、女はまた歩を進めるだけだった。



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