7. ピアノ
この学校には,防音練習室というものがあるらしい。
オリエンテーションで案内された,離れの校舎に足を運ぶ。
通りがかる中庭には,相変わらず桜が咲き誇っている。
たどり着いたその場所は最近建てられたのかとても綺麗で,たくさんの防音室が扉を開けて待っていた。
全ての部屋に,小さめではあるが,立派なグランドピアノが鎮座している。
「へぇ……」
私の家に,グランドピアノはない。あるのは,せいぜいおさがりのアップライトピアノくらいだ。
鍵盤をひとつだけおさえてみる。ポーン,と,丸みを帯びた音が鳴った。
身体の奥が疼く。ドアを閉めて鞄を置き,ピアノの蓋を開けて譜面台を立てた。
椅子に座る。コンクールや発表会でしか座ったことのない,縦に長い椅子。そして,鍵盤に指を乗せる。
トーン,と,第1音目が鳴る。深みのある音。入試で弾いた,ショパンの幻想即興曲だ。
流れるような音の波が,自分の身体から生まれていく。アップライトピアノよりも如実に伝わる,ハンマーが弦を叩く感触。
心臓が,強く動悸している。あぁ,この音を聴くために私はここにいるのかもしれないな,なんて思う。
縦長の椅子ってなんだよ! と思ったんですけど,他に良い言い回しが思いつかなくてそのままになりました。「背もたれ ピアノ椅子」ってググってもらえると出ます。すみません。背もたれないやつが横長なのが悪い。良い言い回し思いついたら差し替えます。