第一章:第1犠牲者
この作品は、私の処女作となります。
大変読みにくかったり、間違いもあるかと思いますが、よろしくお願いします。
(1)
刑事二人は、この暑さに正直うんざりしていた。いや、暑さでは無く事件にうんざりしているのかも知れない。
「椎葉君、何か分かりましたか?」
そう言ったのは、刑事課唯一の女性刑事、夏目詩乃。胸まであるストレートの綺麗な黒髪で、スラッとした体型はブラックのパンツスーツがよく似合う。
「はい。被害者は近くに住む柴田綾芽、19歳。星和女子大の一年です」
椎葉と呼ばれたこの男は、最近刑事課に配属されたばかりの新米刑事、椎葉雄介。きれいな顔立ちに、178cmと高身長のイケメンだ。
「それで、死因は何ですか?」
夏目は、後輩でも誰にでも丁寧な言葉遣いだ。
「被害者は、ヒモの様なもので首を絞められています。詳しい結果はまだ分かりませんが、頸部圧迫による窒息死かと思われます」
椎葉は手帳を見ながら、自分で調べた限りの返事をした。
「目撃者はいましたか?」
「今のところ、まだいない様です」
「第一発見者の方は?」
「第一発見者は毎朝6時頃、この公園を散歩に来られる内田弘さん、52歳。あちらにいらっしゃいます」
夏目は、公園の入口あたりに座っている男を見た。
まだ時刻は午前7時。8月のこの時間は、やっぱり暑かった。
(2)
戸田亜由美と、堀川理絵はカラオケに来ていた。
「亜由美、ニュース見た?」
「見た、見た。あれって綾芽だよね?」
理絵は二回頷いた。亜由美が続ける。
「綾芽、殺されたんでしょ?また綾芽の事だから、何かやってたんじゃないの?」
「多分ね。じゃなきゃ、殺されたりしないっしょ。亜由美はお葬式行くの?」
すると亜由美は、急に嫌な顔に変わった。
「えっ行かないよ。卒業してから、一回も会ってないしね。理絵は行くの?」
「行かない。今更行ったてねぇ?」
「綾芽は自業自得だよ」
―トントン、ガチャ―
「失礼します。こちらコーラとメロンソーダです」
店員は、ドリンクを二人の目の前に置くと、速やかに退室して行った。
二人は飲み物片手に、真剣に選曲を始めた。理絵が選曲用のコントローラーをいじりながら、口を開いた。
「恭子にも久しぶりに会いたかったな〜」
「バイト抜けらんないみたい。そう言えば、唯行方不明みたいだよ」
「えっ?」
亜由美の言葉に、理絵は身を乗り出した。
「まぢで?何で?」
「さぁ?誰も居なくなった理由、知らないみたいだし。理絵は最後いつ連絡とった?」
「ん〜いつだろ?2、3ヶ月くらい前かな?唯、また変な男に捕まってなきゃいいけど」
「唯、男運無かったもんねぇ」
そう言って、亜由美は最新曲を入れた。
(3)
「では、いつも会社に行く前、この公園を散歩されてるんですね?」
夏目にそう質問された、第一発見者の内田は
「そうです」とだけ答えた。
「その時、不審な人物とか見ませんでしたか?」
内田は少し考え、首を振った。
「それでは、何か思い出した事とかあれば、何でもいいので、ご連絡下さい。ご協力、ありがとうございました」
内田はお辞儀をすると、疲れきった様子で帰っていった。無理も無いだろう。殺人現場に出くわしたのだから……。
「死亡推定時間は分かりますか?」
夏目は椎葉に聞いた。
「え〜、だいたい夜10時から夜中の1時頃だそうです」
「ありがとうございます」
夏目はそうお礼を言うと、公園内を見て回った。
「被害者の所持品は、どうでしたか?」
椎葉は夏目の後ろを、金魚のフンの様についてきていた。
「金品は一切盗まれてはいない様です。ただ、携帯電話が見つかっていません」
「と言う事は……」
(4)
「あ……あんた、今更何よ?」
「あら覚えてくれてたのね」
「来ないで……やめて……」
「アイツは私の事、覚えても居なかったわ」
「綾芽を殺したのも……」
「えぇ、私よ」
「やめて……謝るから……来ないで」
「ふふっ……もう遅いのよ……サヨウナラ!!」
「イヤッ!!!」
(5)
「椎葉君、目撃者は現れていませんか?」
犯行から1日以上が過ぎたが、これと言って手がかりらしいものは何もなかった。
「はい。あの公園は、半年くらい前に痴漢騒ぎがあってから、夜はほとんど人通りも無かった様です」
「柴田綾芽は何故公園に行ったんでしょうか?柴田綾芽は近所に住んでますから、痴漢騒ぎの話も知っていたはずでしょう?」
「多分、知っていたと思います。いつもバイト帰りは、バイト仲間と一緒に明るい大通りを帰っていますから」
夏目は手帳を睨んでいる。
「バイトはその日、22時まででしたよね?」
「はい。ですが、バイト仲間には約束があるからって、先に帰ったみたいなんです」
「約束……。誰と約束してたんでしょうね」
「さぁ。でも、彼氏は居なかったみたいです」
夏目は手帳を閉じ、珈琲飴を口に入れた。ほんのり甘く、ほんのり苦い飴は、夏目の頭を癒やしてくれる。
「携帯のGPSや発信履歴は調べましたか?」
「はい。ですが、もう壊されてる可能性が高いと思います」
「そうですか。では、聞き込みに行きましょう」
カバンを手にした夏目は、颯爽と署を出て行った。後ろから椎葉が、相変わらず金魚のフンのように、慌ててついてきていた。
(6)
夏目と椎葉は、綾芽の通っていた星和女子大前にいた。
「誰が友達か分かるんですか?」
「分かりませんよ」
そう言って、夏目は門から出て来た学生に話しかけた。
「すみません、ちょっとお聞きしたいんですが……」
女子学生2人は、夏目の左手にある警察手帳に、少し驚いていた。
「先日亡くなった、柴田綾芽さんご存知ですか?」
「あぁ、ニュースになってる子?確か経済学部って聞いた気が……」
「経済学部にお友達いらっしゃいますか?」
「あっ、あの子経済学部だよ」
1人の子が、ちょうど出て来た女子学生を指差した。夏目と椎葉はお礼もそこそこに、出て来た女子学生を追いかけた。
「ちょっとすみません。少しお話伺えますか?」
女子学生は、またまた警察手帳を片手にやってきた夏目に驚いていた。
「柴田綾芽さんをご存知ですか?」
「はい」
「お時間、大丈夫ですか?」
女子学生は頷いた。
(7)
夏目と椎葉と女子学生の3人は、近くのファーストフード店にいた。
「お名前聞いてもいいかしら?」
「溝口梨花と言います」
「私は刑事の夏目です。こちらは、後輩の椎葉君です。早速なんですが、アナタと柴田綾芽さんはどういうご関係ですか?」
「えっ?関係ですか……」
夏目の横に座っている椎葉は、メモに夢中だ。
「同じクラスの友達ですが、特別仲良しってわけではありません。一番仲良かったのは、美紀ちゃんですね」
「美紀ちゃん?」
「はい。広瀬美紀ちゃんです。今日はさすがにお休みしてました」
「そうよね。お友達が亡くなったんだから。それで、柴田さんは親しい恋人とかはいらっしゃらなかったのかしら?」
「たぶん。居なかったと思います」
「では、何か恨まれたりはして無かった?」
すると、急に溝口は俯き、黙り込んだ。
「どう?何か恨まれる様な子だったのかな?」
「……いや。特に思い当たりません。みんなとも、仲良かったです」
「そう。分かりました。ご協力、ありがとうございました」
溝口は、夏目と椎葉に一礼して帰っていった。
「椎葉君、どう思いますか?」
「どう?と言われましても……」
「何か気づいた事、ありませんでしたか?」
「……特にありませんでした」
夏目は、ファーストフード特有の薄いアイスコーヒーを、一気に飲み干した。
「まだまだ修行が足りない様ですね。たぶん彼女は、嘘をついてます」
「えっ?」
「椎葉君、1回署に戻りましょうか」