第四話 路地裏にぽつりと少女
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校門を出る頃、空には綺麗な橙色が広がっていた。
ちらとグラウンドの方を見ると、土まみれになった野球部がトンボを出して整備を始めているところだった。部活組も下校が迫っていた。
無事に第一回目の補習を終えた後、夏希先輩とは一緒に二年の教室を出たが、すぐに解散をした。
どうやら夏希先輩は職員室に用があるらしく、そちらへ続く廊下へと消えていった。
単なる推測だが、俺の担任に補習の様子を報告しに行っているのかもしれない。
まあ、夏希先輩の用事はさておき、意外なことがあった。第一回の補習が楽しかったのだ。
なんとなくだが、夏希先輩は教師を目指さないだろう。それでも『この人が教師ならどれだけ授業が待ち遠しくなるか』とまで思うくらいには楽しかった。
ただ、当惑したこともあった…………目のやり場だ。胸元の辺りが無防備すぎる、不用心すぎる。
男子高校生を相手にしているのだから、少しは気に掛けてほしいものだ。俺も気にしすぎだから、そこは反省するとして。
今日は気分が悪くない、寄り道でもして帰るか。特にふらっと立ち寄るような店があるわけではないのだが。
行きつけがない以上、いつもとは違う道から家を目指すことにする。
路地裏に入る。過去、ここに来たことはない。
奥に進んでいくにつれ、先ほどまでの橙色は消え失せ、途端に辺りが暗くなっていった。
最後に使用されたのは何年前かと思うほど変色した蓋付きのバケツ。道を塞ぐようにして倒れている自転車。それが盗まれぬようにと付けられたのだろうが、開錠を試みても開かないのではと思うくらい錆びたワイヤーロック。スプレーで不気味なイラストを落書きされたシャッター。その一つ一つに不穏さを感じた。
自分で選んだ道だが、心が騒ぎ出しそうだった。
クエスチョンマーク。
正面に少女がいた。
何故こんなところに。
少女は俯いていた。
制服を着ているが、うちの高校と同じ制服ではない。
別に無視してもいい。いつもなら無視していただろう。だが、今日の俺は運の悪いことに気分が悪くなかった。
「どうかしたのか」
「…………………………」
無反応。
俺の声は少女に届いているのだろうか。
俺は女性に嫌われるという宿命でも背負っているのか?
いやしかし、幼気な子をこんなところに放っておけない。
「こんなところにずっといたら危険だぞ。用事がないなら、早く家に帰った方がいい」
「………………」
「うーん。それとも本当に用事があるのか。できる範囲なら手伝うし、それが急を要することでなければ明るい時間帯に改めるべきじゃないか」
ウンともスンともしない。
折角こちらが話しかけているのだから、スンくらいはしてほしい。まあ、ウンでもいいのだが。
いやはや、どうしたものか。
「君が嫌じゃなければ家まで送るし、その間なら話も聞いてあげられるが」
「…………テ」
少女はなにかを呟いた。
しかし、それは通行人の話し声や自動車が通過するものとは違う喧騒でかき消された。
ただそれは『かき消されたから聞こえなかった』では済まなかった。そうは問屋が卸さなかった。
「なにを言っ……」
「タスケテヨタスケテタスケテテテテテテテタスケテタスケテタスケテタアアアアアァァァアアアァァアァアアアアアアアアアッ!」
絶叫。
鼓膜が張り裂けそうなくらいの叫びに、尋常ならざる状況に、恐怖で勝手に後退りしてしまう。
「おい………………」
返事はなかった。
突如、少女は驚異のスピードでこちらに向かってきた。
Twitter:@shion_mizumoto
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