第一話 心の梅雨は、やむ気配がない
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雫が頬を伝う。
人の好奇心は最強だ。
それは天地がひっくり返ろうと間違いない。
天地をひっくり返した人が言うのだから間違いない。
しかし、世の中には探求してはいけないこともあるのかもしれない。
好奇心を発揮してはいけないこともあるのかもしれない。
知る人ぞ知る。
知っている人だけが実行すればいい。
知っている人だけが掌握すればいい。
裏を返せば、知ってしまった人は実行しなければいけないし、掌握しなければいけない。
知らぬ人が知るということは、知ってしまうということは、即ち、禁忌を侵すことに他ならない。
持たない者が知ることはつまるところ、己の無力さと向き合う義務を背負いこむことを言うのだろう。
不能な自分が再起不能になる前に、変化させなければいけない。
進化しなければいけない。
ただ、進化には時間を要する。
しかし、現状はそう待ち惚けてはくれないし、手をこまねいてもくれない。
鈍間のように待ってはくれない。
相手はその逆の超速の少女なのだ。
少女は正気の沙汰ではない。
正気ではなく、狂気であり、凶器だ。
そして、尋常ではない。
だが、俺にはどことなく、そこはかとなく、その表情が、その声音が寂しそうだと思った。
一方、彼女は右腕を腫らしている。
その事実は彼女のせいでも、少女のせいでもない。
言わば俺のせいであり、第三者のせいでもあるだろう。
俺が弱く、醜く、立ち向かうことができなかったからだ。
第三者が惨めで、未熟で、冷酷だったからだ。
だが、立ち向かったとしても、それは俺を引き裂いてしまっただろう。
一瞬の躊躇もなく、一瞬で引き裂いてしまっただろう。
やはり、自身の力量を知るべきだった。
持たないことを持って生まれた人間として、素直に逃げるべきだったのかもしれない。
あるいは、ここに来るべきではなかったのかもしれない。
答えはまだわからない。
唯一、理解していることは『それでもなんでも、彼女が鬼一口な事態に首を突っ込む姿を見過ごすわけにはいかない』という俺の気持ちだけだ。
このような状況で尚、彼女の声音は優しい。
彼女の声を聞いていると、不思議なことに心が包まれていくよう感覚へと誘われた。
俺もそうだが、少女もまたそうだろう。
とりあえず、ことの経緯を振り返ろうじゃないか。
これは例年よりも梅雨前線が停滞し、一日の中で必ず雨が降るといった妙な期間に始まった妙な物語だ。
Twitter:@shion_mizumoto
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