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腕が2本しかなくても、頭が1つしかなくても  作者: ニイ
始まりの冒険は力試し
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重軽破砕迷宮「グラビトン」攻略その4

 人造龍計画、そのように呼ばれる計画があった。愚かな者どもが始め、そして失敗した馬鹿な夢である。目的は簡単、人の手で龍を造り神を引きずり下ろすこと。その後は龍を駆る人間の時代を始めるという夢想だった。夢想であれば良かった、無謀であれば良かった、しかし、それを可能にできるかもしれない存在を彼らは見つけ出してしまった。


「おお……これが……!!」

「はい、これが龍の子です」


 龍の子と名付けられた者に四肢はなく、ただ這いずる事しかできぬ有様である。その身には爬虫類のような鱗がところどころに生成されており龍の因子を持っていると言われればそのような気がしてくる程度のものだ。実際には龍の子はその身体的特徴ゆえに不作の際に二束三文で売り払われた者だった、つまり親は人間であるので龍の血が入る余地などない。だが、愚か者たちはその形と皮膚の硬質化程度の鱗を龍の因子と認めた。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

「煩いな」

「仕方ありません。龍に近しいと思われるモノを片端から入れていますから、肉が腐るのは耐えがたい苦痛でしょう」


 龍に近いモノとして最初に入ったのは蛇であった。それが効果なしと分かれば次は飛翔する鳥、続いて虫と龍と少しでも共通項のあるものは全て見境なく龍の子の体内へと入れられた。龍の子は日ごとに傷む身体が激痛を訴えるのに耐えるしかなかった。


「くはははははは!!!! 成功だ!! 見たまえこの姿を!! 少々不格好だがこれは確かに伝説の龍の姿ではないか!!」

「やりました!! 全てはここから始まるのですね!!」


 龍の子は驚くべきことにその身を不格好な龍へと変じていた、節操なく入れられた生物の因子がどう作用しものか愚か者達にも分からなかったがある日突然龍の姿を得たのである。しかし、それを保っていたのはたったの1日であった。翌日には不格好な龍は腐り果て、ただの黒い肉塊と化していた。


「これはどういうことだ!!」

「わ、分かりません。ですがっ」


 愚か者の片割れの言葉はその先まで続く事がなかった、既に死んでいたのである。


「っ!?」

「腐れ外道が、さっさと死にな」


 突如として訪れた終わりの日はたった一人の女によってもたらされた。総勢100名を越える愚か者共は1人の例外を除いて全員死んだ。人造龍計画はこの日をもって終わったのである。


「胸くそ悪い」


 女は黒い肉塊に近づく、そして油を振りかけた後に火をつけた。


「一片の残さずに消すから迷い出るんじゃないよ」


 肉塊が微かに蠢く、火の中にある肉塊から腕が生える。


「っ!?」


 火が瞬く間に消え肉塊が収束を始める。


「なんだい……こりゃあ……」

「あ、ああ、ああああ」


 肉塊が収束した先には胸にぽっかりと穴の開いた龍の子が居た。無かったはずの四肢は腐った肉で補填され、ただ呻いて涙を流している。


「こんな、こんな事があるっていうのかい……」

「は、はは、ははははははははははははは!!!!」


 突如として龍の子は高笑いを始める、背筋の凍るような狂気を含んだ笑いは表情1つ変えずに100人以上を殺戮した女の表情を恐怖に歪めさせた。


「オロカナリ、オロカナリ、カクモオロカナ、ニンゲンヨ、オロカシサノアカシヲ、ココニ、オロカシサヲオソレヌモノヨ、オロカシサニイカサレシモノヨ、セカイヲモトメヨ、ソノサキニ、オマエノ、ノゾムモノガアル」


 人間ではない声が龍の子から発せられる。龍の子の手には光と共に1つずつサイコロが握られていた。


「愚者の……サイコロ……」


 神殿の暗殺者であったダウが、孤児院への配属となったのはこの後の事である。虚ろな瞳をした龍の子にウツロウと名付け他の孤児と同じように生きる術をたたき込んだ。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」

「大人しくしな!!」

 

 ウツロウは発作的に肉体を龍に変ずる事があった、ダウはそれを力尽くで押さえ込んだがウツロウの成長に伴ってそれは難しくなりつつあった。苦心した結果ダウはウツロウに一種の催眠術を仕掛ける事に成功した。それは特定の文言を言わなければ龍にならないと信じ込ませるものである。なるべく長く、なるべく難しく、なるべく忌避するような言葉で。その後、鍵となる言葉がなくてもウツロウは勝手に龍になることはなかった。しかし、ウツロウは確信していた。この言葉を言えば自分はまた醜い龍の出来損ないに変わると。


「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 結果は予想通りであった。クチナシを守るため鍵を使ったウツロウは醜い龍となりゴーレムを蹴散らし始める。その勢いたるや、本物の龍に迫るものがあった。だが、数と質をそろえたゴーレムを前にして長く保たせることはできなかった。傷が次々と増え腐った肉体は刻まれていった。


「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……!!!」


 醜い龍は地に伏せた、力尽きたことを示すように龍の姿はウツロウに戻る。


「ウツロウ……」


 駆け寄ったクチナシがウツロウを抱え上げる。


「眠っちゃった?」


 迫るゴーレムの剣を視界にも入れずにクチナシはウツロウに話しかける。答えはない、鼓動もない。冷たい身体に抜けた力。


「えへへ、ちょっとだけ待ってね。クチナシもすぐに」


 ゴーレムの剣がクチナシの首に向かって振り下ろされた。プログラムであるがゆえにブレのない一撃であったが、クチナシの首を切り落とすことはできなかった。


「あ、あれ、おかし、いな、クチナシ、は、クチナシは、■■■■は」


 クチナシの周囲に幻の腕が浮かび上がる、それと同時に瞳のようなものが宙に浮かんでいた。


「いや、いやだ、嫌だ!! もっとウツロウと一緒に居たい!! もっと褒められたい!! もっと、もっと、もっと、こんなところで死にたくない!!!!!」


 一撃でゴーレムを破壊する腕と360度の視野を確保する瞳、それらをもってすれば大群であろうが何の問題でもなかった。どれだけ迫りこようが、腕を振り続けるだけで処理できる。死角など存在しないためにどれだけ巧妙に回り込もうが関係ない。


「はぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 ゴーレムを砕いた数が3桁を越えた頃、クチナシの身体に急激な負荷がかかる。体重が10倍になったかのような負荷である。クチナシは自らの足下を確認するが罠を踏んだわけではない。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 死力を尽くして腕を振り続ける、しかし、その時は訪れた。


「あっ」


 反応が遅れた一瞬でゴーレムが殺到する。首が斬れないことを学習したのか腹部への突きへと戦法を変えていた。何本もの剣がクチナシの腹を貫く。


「う……つ……ろ……う」


 腕と眼が消え、クチナシが倒れ込む。


「はー、根性座りすぎだよ。僕のゴーレムをえっと……250体も倒すなんてね。こりゃ合格を出すしかないね」


 天から聞こえる声を微かに聞きながらクチナシは意識を失った。






 








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