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腕が2本しかなくても、頭が1つしかなくても  作者: ニイ
始まりの冒険は力試し
8/13

重軽破砕迷宮「グラビトン」攻略その3

 アルカナの遺産が眠る遺跡にはそれぞれにテーマがある。今ウツロウたちが潜っている「グラビトン」のテーマは重力を始めとした目に見えぬ力を知れというものである。その割にゴーレムや謎の球などで直接的に殺しに来ているが、それはその程度で死ぬのなら資格はないという意味である。言い換えれば、ゴーレムや謎の弾を攻略できるのであればそれは挑む資格ありということになる。


「ウツロウ、どうしてこれの粉を塗ってるの?」

「それはなクチナシ、この玉が罠を発動させないもので出来ているとすれば粉を塗ればもう罠を気にしなくて済むだろう?」

「っ!? そうなの!? ウツロウすごい!!」

「あー、待て待て。羨望の眼差しは嬉しいんでだけどな、まだ仮定だから。本当に罠を遮断できるかはまた別の話」

「どういうこと?」

「試してみないと分からないってこと」


 ウツロウが球を削って得た粉をそこらの石にまぶし終えると、床にある罠めがけて投げる。石は砕けることなく転がった。ウツロウの推理は正しかったようだ。


「……よしっ!! これで罠を気にせず進めるぞ」

「ウツロウすごい!!」

「ははは!! そうだろうそうだろう!! これが探索の年季ってもんだ!!」


 高笑いしながら靴に謎の球の粉を塗りたくるウツロウ。それとともに不穏な雰囲気が高まり始めていた。


「うはははは……ん?」


 ウツロウの勘が叫ぶ、これ以上続けると確実に何か良くないことが起こると。何か、してはいけない禁忌を破りつつあるように感じ始めていた。それを裏付けるように愚者のサイコロの絵柄は2つの砕けた髑髏のみになっている。


「どうしたの?」

「止めた、これは駄目だ。これをすると何かとんでもないことが起きる気がする」

「とんでもないこと?」

「ああ、下手すれば俺とクチナシが即死するような何かがおきる」

「そっか、分かった!!」


 ウツロウが感じ取った危険はまさしく遺跡の禁忌に関することであった。この遺跡のテーマは見えぬ力、そして見えぬ力の代表として重力の罠が仕掛けられている。そして、その罠の影響を受けない謎の球。球の正体はただの鉱石にあらず。この球は、遺跡と同じものでできている。つまりは遺跡の一部、靴とはいえ遺跡の一部になることはそのまま遺跡の浸食を受けることを意味する。遺跡と同化して最後には壁や床の一部になるのである。ズルとも言えるこの方法は見えぬ力に背を向けることになり、その瞬間に挑戦者は資格を失い遺跡に喰われるのである。


「でかい扉、鍵穴はなしか」


 謎の球とゴーレムによる襲撃をさばきながら進む2人の前に大きな扉が現れた。それは遺跡とは正反対に新品同様の輝きを放つ。まるで時間が止まっているかのような見事な扉であった。その表面には古代文字が刻まれている。


「クチナシ、読めるか」

「えっと……もん、ばんはおのれとしれ?」

「門番は己と知れ、どういう意味だろうな」

「分かんない……クチナシが門番なの?」

「自分に打ち勝てとでも言うつもりか? んなのどうしろってんだ」


 2人が頭を抱えていると、背後よりガシャンガシャンと大勢の足音が聞こえてくる。その足音は1つであればはもはや聞きなれたものである。ゴーレムの大群に切れ目は見えず、無尽蔵であることを悟るのに時間はかからなかった。


「……この量のゴーレムを倒しきれって言うんじゃないだろうな」

「ウツロウ、どうするの?」

「逃げ場はなし、勝ち目もなしと来たか、久しぶりの修羅場だな……」


 規則正しき足音は絶望のリズムである、必ずやってくるゴーレムは必ず襲い掛かり、そして体力の尽きたウツロウとクチナシを押しつぶす。これは決定事項であった、覆すことのできない絶対的な状況。死が目の前に迫ってきていた。


「クチナシ、できれば見ないで欲しい。俺は今からとても醜いことをする、それは見なくていいものなんだ」

「ウツロウ……?」

「できる限りの事はする、それでも駄目だったら」

「クチナシはいつまでもウツロウと一緒が良い」

「ああ、一緒に死んでくれ。あの世で楽しくやろう」


 全てを悟ったような顔で笑うクチナシを背にウツロウは上着を脱ぎ棄てた。その体にはまばらに黒い鱗が浮き、心臓があるはずの位置にはただ空洞だけがあった。


「虚ろなり、我が臓腑。虚ろなり、我が眼窩。虚ろなり、我が心。黒き掃きだめにたかる蠅こそが我なり、淀みの底の澱こそが我なり。生まれ出ることなき龍の残り香は腐り果て、我が身を貪った」


 肉が腐った匂いが立ち込め、ウツロウの胸の空洞からは夥しい量のナニカがあふれ出す。やがて四肢は腐り落ち、肉体は黒い肉塊になっていく。


「ウツロウ……!!」


 クチナシの呟きに呼応するように黒い肉塊が脈動を始める、瞬く間に膨張する肉塊は一つの形になる。それは龍のカタチ、神族と並ぶほどの力を持つ上位存在。しかし、今顕現した龍はそのような神々しさなどは微塵も備えていなかった。腐り落ちた翼、ツギハギの体、まとわりつくナニカの羽音はひどく耳障りで、とても威厳などはない。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」


 ウツロウだったツギハギの龍は不快な咆哮を上げゴーレムの大群へと突撃する。






ドラゴンゾンビのようなものだと思っていただければだいたい合ってます。

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