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腕が2本しかなくても、頭が1つしかなくても  作者: ニイ
始まりの冒険は力試し
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重軽破砕迷宮「グラビトン」攻略その2

「あー、しんどい。なんなんだ、さも門番でございますみたいな顔して降ってきたやつが一定間隔で落ちてくるんじゃねえよ……同じやり方で倒せるから別に良いけど疲れるな」

「クチナシもなんだかふらふら」

「クチナシは俺の何倍もよく見えるからな、その分疲れるのは当然か。よし、休憩にしよう」

「きゅうけい?」


 重力操作の罠に加えてゴーレムの襲撃という三重苦に苦しめられることで2人の体力は急激に削られていた。特にクチナシは一切気を抜かずに罠とゴーレムの索敵をしていたために頭痛まで始まっていた。


「動くのやめて身体に優しくしようってこと、ずっと動いてると動けなくなるからな。水も飲め、ほら」


 背負っているバックより水筒を取り出す。この水筒は旅人必携のアイテムの1つであり見た目以上に水を入れることのできるうえ重量も軽減するものであった。必携とはいえ良いものでは軽く家くらいは建つ代物である。


「ありがとうウツロウ、でもウツロウから飲んで?」

「大丈夫だ、簡単にはなくならない」

「……そうじゃなくて、ウツロウが飲んだのが良い」

「うん? 毒なんざ入ってないのにな、じゃあこれで良いか」


 目の前で水を飲んでみせるウツロウ、その姿をじっと見るクチナシ


「(ああ、使い方が分からなかったのか。先にそれを教えるべきだったな、あまりにも優秀だから忘れてた)」

「(ウツロウの飲んだ水は少しのウツロウが溶けた水。それを飲んだらクチナシも少しだけウツロウと同じになれるかな?)」


 両者の思っていることは全く違っていた。しかし、それを指摘する者もいないので水筒はそのままクチナシの手に渡る。


「こくっ、こくっ、おいしい!!」

「そうだろ? 探索してる時の水ほど美味いものはあんまりないんだぜ?」

「また飲みたい!(ウツロウの飲んだ水を)」

「次の休憩の時にな。(今度からは俺が飲んでみせなくても大丈夫だな)」


 次の休憩時にクチナシがウツロウの飲んだ水を求めている事が発覚し、ちょっとした問題が起こるがそれはまた別の話である。


「さて、今はどれくらい進んだのか。ああ、クチナシも座って良いぞ」


 そう言ってウツロウが指さしたのは何やらもふもふとした物体であった。ウツロウはすでにもう一個のもふもふに身体を埋めながら地図を書いているようだった。


「愚者のサイコロはこういうこともできる」

「ふかふか!!」


 空気にもふもふの毛の質感を与えることでクッションの代わりをさせているのだった。硬い床の上で休むよりも休息の効果が高いだろう。


「かなり降りてきたような気がするんだけどな」

「えっとね、入ってきた時よりクチナシ10人分くらい下にいるよ」

「……それ本当か」

「どれくらい下がったか覚えてるから」

「本当にすごいなクチナシは、もしかして今までの道なりも全部覚えてたりするのか」

「うん、分かる」

「はぁ、俺のマッピングはなんだったのか。まったくもってありがたいよ」


 思いがけないクチナシの能力に驚きっぱなしのウツロウであった。苦笑しながらクチナシを撫でるとクチナシはくしゃっと笑った。


「ウツロウに撫でられるの嬉しい」

「はは、そう言ってくれると俺も嬉しいよ」


 2人が束の間の休息を過ごしていると天井からの圧力を感じた。ゴーレムよりもはるかに大きな気配はとても隠せるようなものではない。


「ゴーレム、じゃないな」

「うん。何か大きくてつるつるみたい」

「ん? 大きくて、つるつる?」

「そう」

「ここは結構傾斜があるな」

「けいしゃ?」

「こう、斜めってるってこと」

「分かった、地面と同じ平べったさじゃないこと」

「それでな、傾斜のあるところで大きくてつるつるって言ったらそれはもう一つしかない」

「なに?」

「鉄球だよ!!」


 轟音を響かせて落ちてきたのはウツロウの言う通り大きな丸い球であった。しかしそれは鉄ではなく、もっと別の鉱石のようであったが。


「走るぞクチナシ!!」

「分かった!!」


 踏んだら即死のトラップを避けながらの全力疾走が始まった。幸い謎の球の速度はそこまで早くはない。しかし、速度が乗り切ったら別である。そこまで加速されたなら2人は床の染みになるほかない。


「ああ、どうするかな!! こういう装置が1番嫌いだ!!」

「ウツロウ、困った?」

「ちょっとだけ! 見る限りこいつはゴーレムと違って罠を踏んでも影響を受けないからたちが悪い」

「クチナシがやっても良い?」

「やる!? 何をだ!?」

「拾ったこれであれを止める」


 クチナシの手にはゴーレムから頂いた剣が10本ほどあった。


「はあ!? そんなこと……できるのか?」

「できる、と思う」

「よーし分かった、やってみてくれ。それで駄目だったら俺が策を出す」

「ありがとうウツロウ」


 クチナシが謎の球の正面に立つ、通路にジャストサイズの球は依然として転がり続けている。


「ここと、ここ」


 クチナシが投擲した剣はそれぞれ天井と床に突き刺さる。そこはちょうど重力が増す罠の部分であり一気に剣が重くなる。速度が乗り切っていない謎の球は急激に重くなった剣がつっかえることでその回転を止める。しかしそれは一時的であり自らの重みに耐えられない剣はいずれ自壊する。


「そしてここ」


 剣の自壊の前にクチナシが投擲した剣は今度は横の部分で謎の玉につっかえる形となる。少しでも謎の球が動いていれば即座に砕かれるはずであるが、運動が0になった謎の球ならば止めることが可能であった。


「これでもう動かない」

「……うそだろ」


 愕然としたウツロウは開いた口が塞がらない。何をどう計算すればこのような芸当ができるのか想像もできなかった。


「どう?」


 クチナシが褒めて欲しそうに振り返る。


「上出来だよクチナシ」


 これ以上ウツロウにできる事といえばクチナシを褒めて撫でる事だけである。


「そんじゃ、その球少しだけ削ってみるか」


 いきなり変なことを言い出したウツロウにクチナシは首を傾げるばかりであった。



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