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腕が2本しかなくても、頭が1つしかなくても  作者: ニイ
始まりの冒険は力試し
11/13

黄昏の明星

「何にせよ、力の円環が手に入って良かった。ありがとうなクチナシ」

「うん、でもウツロウが使った方が良いよ」

「それはない。俺のサイコロが全力で拒否してるからたぶんまともに使えない」

「ウツロウなら使える」

「無理、クチナシが選ばれたんだからな。俺はクチナシがアルカナの遺産に選ばれて嬉しいぞ」

「そ、そう?」

「ああ」

「えへへ、じゃあ持ってる」


 このような会話を何度かしながら、クチナシとウツロウは遺跡の入り口まで戻ってきていた。久しぶりに出る外は夜明けであり、温かな光が心地よい。


「はぁ、これでひと段落だ」

「そうはいかないよ☆」


 巨大なトゲ突きの鉄球がウツロウに向かって飛んできていた。


「なっ!?」

「止めるよ」


 頭に直撃する軌道だった鉄球はクチナシによって止められる事となった。こちらに向かってくる力を掴んだことで鉄球が地に落ちる。


「あはっ☆」


 耳障りな声とともに鉄球の主が姿を表す。


「キラリと登場☆ ステラちゃんだよ☆」


 輝く金色のドレスに星をあしらったものを着た少女が、自らの頭部よりも大きな鉄球を持って横ピースを決める。ドレスと頬に返り血らしきものが付いているので非常に猟奇的である。よくみると染み付いた血の染みらしきものもそこかしこに存在している、年季を感じさせる深い黒はその血が長年かけて染みこんでいいったものであることを示していた。


血塗れ星(ゴアスター)のステラ!? 何でそんな奴がこんなこところに」

「やーだなぁ☆ ステラちゃんのことはちゃんと綺羅星(トゥインクルスター)って呼んでくれなきゃ☆」


 2投目がウツロウに迫る。今度はウツロウも警戒していたため回避行動が間に合った。


「よくできました☆ でもでも(スター)の輝きはこんなものじゃないぞ悪党☆」

「……誰に依頼された? 傭兵に暗殺依頼を出されるほどのヘマをした覚えはないぜ」

「教えないよ☆ 傭兵の契約だからね☆」


 3投目は先ほどまでの直線軌道とは異なる投げ方であった、山なりに飛ぶゆっくりとしたもの。ステラの意図を計りかねたウツロウが視線を上に向けた瞬間。


「身に余る輝きをプレゼント☆」

「しまっ!?」


 瞬きほどの間に4投目が3投目の鉄球に向かって投げられていた。


「ぐおぉおおおおおおおおお!!?」

「きゃああああああああああ!!?」


 鉄球どうしがぶつかった時、あたりの全てを白く塗りつぶすような圧倒的閃光が放たれた。これはアルカナの遺産である星の輝きの能力であった。両目を光で焼かれたウツロウとクチナシは、目を押さえて身体を丸めることしかできなかった。


「あはは☆ あっけない☆」


 コツコツとわざとらしい足音をさせながら、ステラはウツロウに近づく。そして鉄球を振りかぶると、そのまま振り下ろした。


「バイバイ☆」

「ぶしゅう」

「っ!?」


 ウツロウの頭を砕くはずの鉄球は、なんとも頼りない手応えとともに空気の塊を撫でたのだった。ウツロウだった空気の塊が急速に萎んでいく。


「おいおい、俺が何者か聞いてないのか? 俺はペテン師だぞ、嘘の専門家が傭兵程度の嘘を見破れないとでも思ってんのか」

「……へぇ☆」


 ステラの背後を取ったウツロウはその背にナイフを突きつける。


「アルカナの遺産である星の輝き、もう1つの呼び名は黄昏の明星。くろがねのかがやきがかさなりしとき、すべてをましろにかえすという記述がある。ぶつかって光を放つのを予測するのは簡単だった」

「物知りだなぁ☆ まあ、どうでも良いから早く刺しなよ☆」

「刺さない、俺は俺以上の悪人以外を騙さないし傷つけない」

「さっき騙したじゃん☆」

「あれは騙したうちに入らねえ、勝手にお前が勘違いしただけだ」

「ふぅん☆」

「お前は、俺以上の悪人じゃない」

「えー☆ そんなことないよ、いっぱい殺してるしね☆」

「お前が傭兵やってるのは、妹食わせるためだろ」

「……スタラの事をなんで知ってるのかな☆」

「さあ、なんでだろうな?」

「うーん、なんか思ってたのと違うな☆ 今日はこれくらいで許してあげようかな☆」

「何を言って……」

「じゃあね☆ 死んだことにするならもう少し慎重にやった方が良いよ☆」


 ステラのドレスに付いている星が光を放つ、鉄球がぶつかった時ほどではないが不意の目くらましには十分だった。


「……逃げられたか、にしてもこんなに早く【底】の連中に気づかれるとはな」

「う~……眩しかった。ウツロウは平気なの?」

「ああ、俺は目を瞑っていたから。クチナシはまともに食らったみたいだな、少し目を見せてくれるか?

「目? うん」


 ウツロウがクチナシの顔に手を添える。


「っ!?」

「冷たかったか? ごめんな」

「ち、違うの」

「そうか、なら良いけど」


 ウツロウの手が触れた場所から電気が走るような感じがしたのだが、なんだか気恥ずかしくなってしまいクチナシは口ごもったのだ。


「血は、出てないな。それに損傷があるようにも……」

「う、うう」

「瞳孔も正常か……」

「うう……」

「いや、もう少し慎重に見るか……」

「ウツロウ……もう良いでしょ」

「いや、クチナシの目に後遺症があったらいけない」

「ち、近いの」

「へ?」

「近くて、ここがドキドキするから、苦しいの」


 クチナシが押さえているのは胸である。


「動悸か……強い光で何かが狂ったのかも、触ってみても良いか?」

「駄目!!」

「お、おう……分かった。あんまり苦しい時はちゃんとした医者に行こうな」

「……むう、分かった」

「あれ、怒ってる?」

「怒ってない!!」


 すっかり拗ねてしまったクチナシに、ウツロウはただ謝ることしかできないのであった。






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