重軽破砕迷宮「グラビトン」攻略その5
アルカナの遺産とは、大アルカナと呼ばれる創造主と小アルカナと呼ばれる被造物が生み出したものであるとされている。
「おっほん、やあやあ挑戦者君。僕が力だよ」
「……」
「……」
「あれ?」
扉の奥からもったいぶって登場したはいいもののそれに応えるものは存在しない。クチナシとウツロウの両名はどちらも現時点ではほぼ死人であるためそれも仕方ない。
「そうだった、僕の設定のせいで死ぬまで戦うような人以外は駄目にしてたんだった。失敗失敗、じゃあちゃちゃっと生き返らせようかな」
力を名乗る老人が右手を振る、すると傷が瞬く間に塞がる。
「あーあ、ここ以外でもこんな事できたらなー」
「ご主人様、それは不可能です。ここはご主人様の能力を最大まで拡張する場所になっているから蘇生が可能なのであって、ここから出ればご主人様はただの亡霊です」
「分かってるよそんなこと。もー、カノジは融通が利かないんだから」
「ご主人様にそのように設定されていますから」
「僕がそう創ったんだけど、もうちょっと柔軟にさ」
「無理です」
後ろに控えている無表情のメイドとの漫才が一通り終わると力は倒れている2人を見る。
「はー、なるほど。愚者か、それにこっちは奇形?のヘカトンケイルだね。珍しい……ふうむ、遺産を持つのはこっちの女の子かな」
「寝ている少女の手に指輪を嵌めるとは、変態ですね」
「うるさいなあ!! そういうことばっかり覚えてもう!!」
「こちらのキメラのごとき少年はお眼鏡に適いませんか?」
「そういうわけじゃないんだどね、こっちの子は愚者の影響を受けすぎてて僕のとは相性が悪いね」
「そこまで、ですか」
「うん、愚者の奴が相当惚れ込んでるみたいだ。しかしまあ、僕の時代でも人造の龍なんて造ろうとはしなかったっていうのに……人の愚かさは止まることを知らないね」
「愚かさですか、その愚かさこそが人間の美徳だと思われませんか?」
「ははっ、言うなあ。愚かである事ができる唯一の存在と言うならば、愚者というのは誰よりも人間らしいと言えるかもしれないね」
「ご主人様、そろそろ目覚めるようです。お会いになられますか?」
「いいや、僕はもう生者に関わるべきではないよ。指輪の使い方は自分で覚えて貰おう、なにせ世にも珍しい2腕1頭のヘカトンケイルだ。すぐに理解するさ」
「ご主人様はこのヘカトンケイルを劣化とは考えていないのですか」
「何を言っているんだい、この子は逸材だ。ヘカトンケイルが100本の腕、50の頭を使わないといけないっていうのは酷く非効率でね。全部並列で動かしているかぎりは100%は出せない、それを1個に集約したらどうなるかなんて言うまでも無い。一撃で山を崩すことはできないかもしれない、同時に数百の事は考えられないかもしれない。だが肉眼では見えない精度で手を操り、1つの真理に直線でたどり着く。それは何にも代えがたい」
「左様ですか、時間です」
「ああ、それじゃあこの2人にアルカナの祝福があらんことを」
「アルカナの祝福を」
扉の中へと戻っていく力とカノジ、クチナシとウツロウが起きたのはそのすぐ後のことである。
「……ここがあの世じゃなければ、遺跡の中ってことになるな」
「ウツロウ……生きてる」
「死んだ気だったんだけどな、なんか大丈夫みたいだ」
「ウツロウ!!」
「待て、状況確認が先だ。周りを見ろ」
「うん」
あたりに散らばるのは山のようなゴーレムの残骸のみだった。動くものはもうなかった。
「訳が分からない……何がなんだか」
「あっ!?」
「どうしたクチナシ!?」
「これ!! ウツロウのと一緒!!」
「指輪……?」
クチナシの人差し指には力が直接嵌めた指輪があった。それは銀のリングに常に色の変わる宝石が着いたものである。
「力の円環!?」
「これがウツロウの欲しかったもの?」
「そう、そうだよ!! これが力の遺産だ!!」
「やった!!」
クチナシが両手を挙げて喜ぶと何かにぶつかるような感触があった。
「?」
「どうした?」
クチナシが不思議に思い見えぬ何かを掴む、すると一気に右手が重くなった。
「わわっ!?」
「右手に何かあったのか!?」
「ち、違うの。重いを掴んでる」
「……ん?」
「重いを掴んでるから右手が重いの、たぶんこれは力の遺産のせい」
クチナシが右手を正面に向かって振り、重さを投げつける。すると正面にあるゴーレムの塊が一気に砕けた。それは罠でゴーレムを破壊した際とまるで同じ現象であった。
「ウツロウ、これ。見えない力に触れるみたい」
「それは……すごいな」
「たぶんこういうこともできる」
クチナシがウツロウに触れ何かを掴む動作する。するとウツロウの身体がふわりと浮き上がる。
「浮い!?」
「ウツロウの重いを掴んだ、そうするとウツロウが軽くなる」
「なんだそれ!?」
アルカナの遺産、力の円環の持つ能力に驚愕するウツロウ。それからしばらくゴーレムの残骸を相手に試運転をするのであった。