落葉0枚目 終わりと始まり
俺は今、部屋で一人モニターの前に座っている。
モニターに映し出されてるのは、ここ最近ずっと気に入っていたオンラインゲームだ。
初めはとりあえず触ってみるつもりで始めたそのゲームは、初めのうちはラグやなんやで戦闘について行けなかったそのゲームだが、あるマップにいるうちに楽しさが沸き上がってきた。
このゲームには音楽を演奏する機能がある。
音楽の作り方などほとんど知らなかった自分だったが、皆が楽しそうにしているのを見て、自分も仲間に入りたくて頑張った。
ここで多くのフレンド達にも出会った。
その結果、ライブイベントを主催したりするほどにもなれた。
そうしてここまで、約1年の間続いてきたわけだ。
連日連夜のイベント。楽しい日々の終着駅。
モニターには今、その思い出のマップに200人以上がひしめいている。
今日、そのゲームがサービスを終了する。
ある者は、その場を盛り上げることに尽力し、またある者は最期の時まで音楽を奏で続ける。仕事で仕方なくゲームを離れる者もいるにはいるが、平日の昼間とは思えない様相を呈していた。
ボイスチャットを繋げ、最期を見届けようとしていた俺は演奏勢として祭に参加していた。
終了予定の時刻を2分ほど過ぎたとき、ボイスチャットから「あ。」という声が聞こえた。
そして数瞬、自分のモニターに映る画面もフリーズしたように固まり、そしてタイトル画面が映し出された。
『サーバーメンテナンス中です』の文字が浮かび上がる画面から終了のボタンを選択する。
するといつものようにゲームを本当にやめるのか、と問いただされた。
何度か『まだ遊ぶ』のボタンを押して、ゲームを閉じる。
「終わったなぁ・・・。」
部屋で一人呟くと、先程まで賑やかだったのが急に静かになった事も相まって、寂しさが込み上げてきた。
「寝るか・・・。」
夜勤明け。帰宅してから正午にゲームのサービスが終了するまで起きていた。
そろそろ寝なければ。
ボイスチャットはそのままにしておこう。まだ話し声が聞こえるそれまで閉じてしまうと、完全に繋がりを失った気分になってしまう。
そう思うと、もそもそと布団に入って目を閉じた。
-----------
男は目を覚ました。
ほとんど睡眠に時間は取れないと思っていたのに、なぜかぐっすりと眠れた気がする。
しかし、何か違和感がある。
床が固いな、と思い体を起こしてみる。
「?、ここは?」
見渡せば固いブロックのような場所に寝ていたようだ。
何故こんなところにと、ぼんやりする頭で考えてみる。
「あれ?」
さっきまでは覚えていたように思うことが思い出せない。
昨日は何かしていた。重要な何かだった気がする。しかし思い出せない。
ここは何処だ?それどころか自分はこの世界の住人だったか?いや、違う。それだけはわかる。
しかしそれ以外がすっぽりと抜け落ちてしまっている。
自分が誰なのかさえ。
自分の体を見下ろしてみると、どうやら自分は女なのだなということは判った。
それでどうなるというものではないが。
さて、どうしたものかと考えると、頭の中に声が響いた。
『←↑→↓キーで移動してください。』
「は?」
突然聞こえた声は、ゲームのような訳の判らない内容だった。




