異世界召喚されちゃいました
あけましておめでとうございます。
寝正月を過ごしていたらネタがなんとなく浮かんだので書き始めました。
掻きながらキャラクター設定が増えていく感じになります。
よろしくお願いします。
「じゃあ、ここの問題をユウキ!」
講義室の中に響く声。
「えーっと……わかりません」
教師の問いに起立して答えたのは黒髪の青年。
まだ若い。学生であれば当然とも言えるが、講義室の中にいる他の学生と比べても極めて若く見える。
「おいおい、次元航法論の基礎だぞ。試験にも出るからよく勉強しておくように。着席していいぞ」
「すみません」
じゃあ次、と教師が講義を続ける。教師の注目が外れたことに気付いた、黒髪の青年:ユウキは窓の外を眺めていた。
一瞬、大きな影が目の前を過る。
緑色の皮膚を持ち、翼を広げて大空を舞う。古来、創作物に登場する最強の魔物との呼び声も高いその生き物、ドラゴン。
「今日は隣のクラスが屋外演習だったかな……」
ドラゴンに乗る少女の姿に見覚えがあったユウキは、隣のクラスの時間割を思い出していた。
また、影が窓の外を過る。
金属の皮膚を持ち、翼は両側に広がる固定翼。大空を舞うことはないが、高速度飛行を可能とするその物体、飛行機。
ドラゴンと飛行機が空中演習を広げるその景色もユウキにとっては見慣れたもので。
「どうしてこうなったんだっけか……」
ユウキは、自分が何故ここにいるのか、その始まりとなる2ヶ月前の出来事を思い返していた。
空中演習は、ドラゴンが戦闘機を撃墜して終了した。
暗闇の中。ユウキはそこにいた。
「ここは……」
昨夜。確かにいつも通りユウキは就寝した。
両親に挨拶をし、最近夜更ししがちな妹に扉越しに声を掛けて就寝した。
何も変わらない、普段と全く変わらない行動だった。
「夢、か……?」
ユウキは周囲を見渡した。
周囲には何も見えない。
一寸先は暗闇だった。正面にある巨大な扉を除けば。
「痛っ。夢じゃなさそうだ」
古典的な覚醒手法である、頬つねりで夢じゃないことをユウキは確認した。
「ここに入れ、ってことか」
扉からは光が漏れ出している。
扉が、誘っているようだった。
ユウキが恐る恐る扉を押し開けると、目を潰さんばかりの光が飛び込んできた。
「うわああああ」
思わず腕で目を隠すユウキ。
よく前が見えないまま歩いていると、足元の感触が不意に変わる。
これまでの雲を踏んでいるような踏み心地から、柔らかい絨毯のようなものの上を歩いている感触。
「おお! 召喚に成功したようだぞ!!」
気がつくと強い光は収まっていた。
恐る恐る腕をどけると、目の前には3人の男女。
金縁の豪華な椅子に座る、かなり年配の老人。
その右側に立つ腰に剣を、全身に甲冑を装備した偉丈夫。
椅子を挟んで反対側に立っていたのはユウキが見たことのないくらい綺麗なドレスを着た少女。
「時間を掛けた甲斐がありましたわ」
そう、得意気な表情をした少女が言った。
ユウキが視線を向けると、それに気付いたのか少女が笑みを浮かべる。
(か、かわいい……)
思わず見惚れてしまったユウキ。
ぼーっと呆けてしまったユウキに、中央の椅子に座った老人が声をかける。
「うむ、よく来た異邦の者よ。歓迎するぞ」
「これは異世界召喚ってやつだ!」
ユウキは思わず叫んだ。
「異邦の者よ、名を何と言う」
「お、臣塚ユウキと言います。ユウキが名前で、臣塚は家名です」
「ユウキ殿か。改めて言うが、よくぞ我が国に来てくれた。私はこの国の王、カグラという。早速だがルドルフ、あれを」
ルドルフと呼ばれた甲冑の偉丈夫が、ユウキの下へ歩いてきた。
「王国騎士団長のルドルフと申す。突然ですまないが、この指輪を嵌めてもらえるだろうか」
そういってユウキが渡されたのは、装飾は何も付いていない指輪だった。
「こ、これは?」
困惑した素振りのユウキに答えたのはカグラ王の横に立つ少女。
「それは能力判定の指輪よ」
「の、能力判定?」
そうよ、と返した少女が続けて言った。
「その指輪を装着すると、装着した人の基本情報が参照できるようになっているの。
魔力がいくつあるのかとか、筋力がいくつあるのかとかね」
魔力、その言葉を聞いた時にユウキは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「魔力! この世界では魔法が使えるのか」
指輪を嵌めるユウキ。
途端、ユウキの周りに文字が浮かび始めた。
「こ、これはなんて書いてあるんだろう」
白文字のそれは、ユウキには読めなかった。
「暫く待っていてね、その指輪が貴方の情報を読み取っているわ」
言われたとおりユウキが待っていると、やがて文字が消えた。
その様子を確認したルドルフが指輪を回収し、少女に渡す。
「ふむふむ……、お祖父様、彼は普通の人です!」
「おお、そうか……普通の人か」
カグラ王が言う。
「魔力はありません。筋力は多少ありますが、年齢相応です。ユウキ、貴方は16歳で間違いないわね?」
「そうですけど……」
ユウキは落胆していた。
異世界召喚。最近の創作・文芸界隈で1ジャンルとして整いつつある新しいテーマ。
異世界に召喚された主人公は大抵の場合高い能力を付与され、召喚先で力を奮い勇者として世界を救うのが定番だ。
そういった主人公に憧れる所があった彼は、それが果たされなさそうな状況に落胆したのだ。
(いや、でもまだ内政チートとか現代知識とかでやっていけるよな)
高い能力が付与されていなくても、召喚先の世界より技術が発展しているところから来ていれば、その知識を活かして召喚先の世界で活躍することが出来る。
ユウキは若干元気を取り戻した。
「王様、皆さん、どうやら僕は皆さんのご期待には応えられなさそうです」
だから他の勇者を呼んでください、と続けようとしたユウキだったが、ルドルフに遮られた。
「ユウキ殿、我々は勇者を喚んだわけではないのじゃ」
「えっ……召喚をしたんですよね? 勇者召喚を」
少女が言う。
「違うわ、あれは我が国の技術省が開発した新技術を使って試したゲートなの」
「元々あのゲートは、無作為かつ不定期に異世界と接続される力を持つものなのじゃ」
それは、制御不可の力。
1ヶ月間隔で連続して接続されたときもあれば、千年間も繋がらなかったこともあるゲート。
これを介して召喚されるのはただ1つ。
それは人間種に拘らない。
「ある時は謎の昆虫が召喚されたこともあったわ」
「はた迷惑な扉だ……」
ユウキはそう呟いた。
「この扉が接続されると、国内の魔力が大量に消費されてしまうの。接続は止められない。それならばせめて召喚される者を篩にかけて、
少なくとも言葉が通じる相手が召喚されるような技術を開発したの」
虫一匹に国内の魔力を消費するのは極めて無駄である。
「それで、今回の召喚がその技術実験だったのか……」
ユウキはなんとなく理解した。
「ちなみに、元の世界に帰ることはできるんですよね?」
ユウキの言葉に3人は顔を見合わせた。
カグラ王が重々しく口を開けた。
「すまんがユウキ殿、このゲートには送還能力は存在しておらぬ。目下技術開発中じゃ」
ユウキはショックを受けた。
元の世界には家族だっている。
学校生活は平凡だったが、両親や妹に会えないのは辛い。
「儂らが言えることではないが、この世界は広い。きっと帰れる手段がどこかにあるはずじゃ」
カグラ王の慰めの言葉が痛い。
「陛下。この者が落ち着くまで私が世話をしましょう。ユウキ、と言ったな。悪いが暫くは保護下に入ってくれ」
「よ、よろしくお願いします……」
能力チートを得られなかった世界で、ユウキはこの先の危険に恐れを抱いた。
「ユウキ殿、この世界は君が想像しているよりは安全なはずじゃ。ゆっくりしていかれよ」
カグラ王からのそんな言葉がユウキの耳を抜けていく。
「チートがなくてどうやって生きていけば良いんだ……」
落胆する彼の目に映ったのは、少女だった。
破顔した少女は言った。
「ようこそ、ラパナ王国へ」
せめてこのお姫様に会えたことは、ユウキにとって救いだったのかもしれない。