第4話
「うーーーむ。拙者には『乱数』というものは、よくわからないのでゴザルが、こんなに【究極の肉】が取れないのはおかしいということはわかるのでゴザル」
文系コース出身のゴーマにとっても、確率・統計の話はわからなくても、この異常な【高級な肉】に偏った出方は、訝しむには十分な結果であった。
この結果からゴーマはあるひとつの推論を導き出す。
「これは【寄合】と攻略ブログが嘘の情報を流していると言っても良いと思うのでゴザル……」
「ん……? ゴーマさん? 【寄合】や攻略ブログはアフリエイトで稼ぐためにやっている守銭奴なんだよ? そんな、自分が不利益を被るような真似をするとは思えないんだけど?」
ナリッサの言はもっともであった。どのゲームでも攻略ブログと言うモノは、ゲームの攻略に有益な情報を載せる代わりに、そこら中にとある販売サイトへのリンクやポップアップ広告を踏ませる工夫がなされている。
【寄合】と呼ばれるサイトでは、目立ったポップアップ広告はパソコンの画面に表示されることはないが、やはり、外部サイトへの誘導リンクは存在する。
そんなアフリエイトによる広告収入を目当てに攻略サイトを運営・管理しているニンゲンが、わざわざ自分の不利益になるような真似をするとは、ナリッサには考えられないのであった。
「もちろん、自分の不利益になることをとことん嫌うような攻略ブログを運営・管理しているニンゲンがあえてそんなことをするはずがないでゴザルな。しかしでゴザル。もし、不利益を超える利益を出せるのであれば、話は別になるはずでゴザル」
「あ……。そうか。不利益を超える利益って考えがすっかり抜け落ちていた。これは【商人】としては失格な考えだった。反省しないと……。今回の『秋の収穫祭』での報酬を考えれば、十分、元を取れそうだものね」
「ん? そんなに今回の『秋の収穫祭』は金になるんッスか? 俺っち、どうせ参加賞しかもらえないだろうから、あまり報酬のことは気にしてなかったッスけど?」
トッシェの言いにナリッサ、ゴーマ、さらにはシャライまで所作『ずっこける』をしだす。そして、間髪入れずに皆がトッシェにツッコミを入れまくるのであった。
「今回の『秋の収穫祭』の1位の報酬は最高級の+75ステータス付与アイテムなのでゴザルよ? 使いようによっては、楽々、武器にステータス付与限界値まで付加することが出来るのでゴザルよ? 皆、それを狙っているからこそ、こんな面倒くさいイベントに参加しているのでゴザルよ?」
「武器に付与できる1カ所のステータス付与値は+150までなのは当然、知っているのですわよね? 今回のイベントで2項目でトップの評価点を叩き出せれば、武器に付与できる限界値であるその+150を楽々、達成できるのですわよ?」
ゴーマとシャライがあきれ顔になりながらも、ノブオンの武器に関するステータス付与関連について、モノを知らない子供にでもわかるように説明をしだすのであった。
ノブレスオブリージュ・オンライン:シーズン5.1において、防具のステータス付与値の合計限界値は150までである。さらには1種類の限界値も120である。
しかし、武器の場合は少々、違ってくる。ステータス付与値の合計限界値は150までであるのは変わらないのだが、武器の場合は1種類の限界値が150なのである。
従って、防具の場合は付与値を『腕力+120』『魅力+30』と振り分けなければならないところ、武器の場合は『腕力+150』が作成可能なのだ。それをゲーム内マネーでなんとかしようものなら、武器1本で3000万シリ以上かかると言われている。
しかし、この『秋の収穫祭』では、果物、魚、山菜、野菜、肉の5項目において、いずれかのトップの高評価を叩き出せれば、その+75ステータス付与アイテムが1個プレゼントされるのである。
トッシェやナリッサ、さらにはデンカやマツリはそもそもとして、どの項目でもトップを取ろうなど思っていなかったのだ。そこそこの評価点数をクリアして、より良い参加賞を狙っているだけであった。
「なるほどッス。やっと合点がいったッス。アフリエイトで広告収入ウハウハの連中が、偽の情報を流してまで、その+75ステータス付与アイテムを狙っているわけッスね!」
「ん……。そういうこと。RMTで流せば、そのアイテムひとつで15万円ほどになるみたいだね。実際、アフリエイトによる広告収入はそれほど儲からないと言われているし。それなら、確実にリアルマネーに換金できることに手を染めるはずだよ?」
ナリッサの言いを所作『うんうん』をして、頭を上下に振りながらトッシェが相槌を打つ。
「なら、俺っちたちがやるべきことは決まったッスね!」
「ん……。そうだね。僕たちが愛すべきノブレスオブリージュ・オンラインをRMTの魔の手から救わないといけない」
トッシェとナリッサが所作『握手』からの所作『抱き合う』で友情の熱さを確認しあう。だが、そんな盛り上がっている2人に水を差すようにシャライが一言
「あなたたち、傍目からみたら、BLに見えますわよ? それに攻略ブログのアフリエイト管理者を出し抜こうにも、あちらのほうが情報は密なはずですわ?」
「ん……。それは確かにそうかもしれないね? でも、忘れた? 僕の所属している傭兵団は【4シリの御使い】で、貴女の傭兵団は【イングランドの綺羅星】だよ?」
ナリッサの言いにシャライは、はっ! となる。言われてみればそうだ。フランス陣営最大の傭兵団とイングランド3大傭兵団のひとつである自分の傭兵団が協力しあえば、総勢180名近くのプレイヤーたちがこの『秋の収穫祭』に力を注ぎ込める。
そして、自分が頭を下げれば、他のイングランド陣営に所属する傭兵団も同調してくれるはずだ。
「ゴーマ。事態は把握したわよね? さっそく、イングランド陣営の3大傭兵団との会合をとりつけるのですわっ!」
「へいへい。わかったのでゴザルよ。そこは、自分が先頭を切って、他の傭兵団と連絡をすると言ってほしいところでゴザルが、シャライ殿は日ごろの行いが禍して、絶交登録されているのでゴザルからなあ?」
「そ、それは、お義兄さんが出会い厨だから、いけないのですわ! わたくしに落ち度はありませんわっ!」
シャライが顔を真っ赤にしながら、ゴーマに抗議をする。ゴーマは所作『まあまあ』をして、シャライを落ち着かせようとする。それでも、シャライはからかわれているのかと勘違いしたのか、今や耳まで真っ赤になってしまっていた。
シャライのころころ変わる表情を見て、ナリッサは思わず、プッと噴き出してしまう。
「な、何がおかしいのですわ! わたくしを侮辱するというのであれば、ここで決闘を申し込んでも良いのですわよっ!」
「いや、ごめんごめん。ちょっと、シャライさんが可愛いって思っちゃっただけだから。協力ありがとうね? シャライさん。本当なら、僕たちの顔を見るのも嫌なはずなのに……」
「そ、そんなことはありませんわよっ!? ノブオン広しと言えども、わたくしたちの徒党と互角以上に闘えるのは、チート業持ちのマツリさんを含むナリッサさんの徒党と、他は数徒党のみなんですからっ。わたくしは、中級職でありながら、わたくしたちとまともにやりあえるだけでもあなたたちのことを尊敬しているのですわっ!」




