第4話
「次のターンは、ウッドクラブ・3連撃を2回入力ッス! トドメは俺っちがもらたッス!」
「うおっ、トッシェさん、汚いんだぜっ。俺には回復をしっかりしろと言っておきながら、あんたは、盾職の仕事を放棄して、なんでトドメを取りに行っているんだぜっ!」
「ん……。トッシェは腕力鍛冶屋だからね。トドメはいつも取ろうと狙っている。ケージは油断してたね?」
ナリッサが徒党チャットに素早くメッセージを送りながら、自分は待機を2回入力する。四大天使のひとり、ラファエルのお供は全滅し、残ったラファエル本体の残り体力も2割を切っていた。ここまでくると、支援職であるナリッサには出番などない。ここは待機で問題なかった。
「むむむーーー! お兄ちゃんっ! ボスのトドメはアタッカー職である、わたしに残しておくものでしょうがー! お兄ちゃんの意地悪ーーー!」
ネーネも兄にトドメを取られないようにと、木の弓・3連射を2回入力する。しかし、無情かな。ネーネが先に行動を開始したというのに、ラファエルの体力はミリを残し、トッシェの攻撃が回ってくることになる。
トッシェのウッドクラブ・3連撃が見事にラファエルの脳天にぶち込められて、ラファエルは脳漿と眼の玉をまき散らし、地に伏せることになってしまった。
新傭兵ゾーンに用意された四大天使の幻影は、バランスが取れた4人徒党にとっては、雑魚と言っても過言ではなかった。トッシェたちは無難にボス1体目をクリアするのである。
いくら、トッシェとナリッサのキャラたちがLv25に固定されたとしても、まったく問題の無い相手だったのである。続くウリエル、ガブリエル戦でも、俺っちがトドメを取るッス! わたしに残してよーーー! と和気あいあいとして、ボス戦は続いていくのであった。
「いやいや。さすがは現行プレイヤーのトッシェさんとナリッサさんなんだぜ……。俺様の出る番がまったくないんだぜ……」
「いやいや。そんなことは無いッスよ? ケージが意外としっかり回復を回してくれているおかげで、俺っちたちも動きやすいだけッスから。ケージは何か別のMMO・RPGからの移籍なんッスか?」
トッシェ(川崎・利家)から見て、ケージの動きは明らかにゲーム慣れしている動きに思えたのである。とても、ラファエルにソロで喧嘩を売った男には見えなかったのである。
「いや? MMO・RPGをプレイするのはノブレスオブリージュ・オンラインが初めてなんだぜ。そして、オンラインゲームで徒党を組んだのも、トッシェさんたちとが初めてなんだぜ?」
「ん……。とても初めてとは思えないよ? 普通はここまで上手く、徒党のことを考えて行動なんて出来ないもの」
ナリッサにとっても、ケージの異様さは目につくのであった。アタッカー職であるネーネは、攻撃に専念しているのは当然としても、将来的に【十字軍僧正】を目指しているようなプレイヤーが、回復行動のみに専念するわけが無いことは、デンカ=マケールという悪しき例を見てきているので、ケージの動きは信じがたいのである。
ケージには悪いが、いっそ回復専門の最上級職である【司祭】を目指してみては良いのでは? とナリッサは思ってしまう。そんなナリッサはケージに質問をする。
「ねえ? 今からでも遅くは無いから、いっそのこと、ケージは【司祭】を目指してみたらどうなの? ケージはサブアタッカーよりも回復に専念できる職のほうが適正があるような気がするんだけど?」
「ん? 【司祭】かい? いや、それも最初は考えていたんだが、やっぱり【十字軍僧正】の業が気に入っているんだぜ。確か、【十字軍僧正】には【この身を捧げる】って隠し業があったはずなんだぜ。俺様はアレの説明文を読んで、『漢』ってのは、こうあるべきだと考えにいたったんだぜ……」
ケージの言いに、ナリッサは、ああ、なるほど。それは『漢』なら誰しもが憧れる隠し業だよねと思ってしまう。
「ねえ? その【この身を捧げる】って、どんな隠し業なのー? 確か、隠し業ってのは、上級職が修得できる固有の業だよねー?」
ネーネが良くわからないという感じで、皆に聞く。それゆえ、一旦、トッシェたちは四大天使攻略を中断し、ネーネに隠し業について解説を始めることになる。
隠し業――上級職に位階アップすると、通常業と比べて、遥かに高いダメージを叩きだしたり、徒党全員に特別な恩恵を与える業が揃っている。
破戒僧正なら、非常に強力なダメージを1体に与えつつ、徒党全体を回復できる【信仰への回帰】。
魔女なら、通常攻撃業の6倍以上のダメージを1体に叩き出せる【土くれの紅き竜】。
盾職の一人前鍛冶屋なら、敵全員のターゲットを4ターン必ず、自分に固定できる【全員・罵倒】。
「んで、【十字軍僧正】の隠し業である【この身を捧げる】ってのは、確か味方1体を自分の身を盾にして守り続けながら、反撃を行い続ける隠し業だったはずッスよね?」
「ん……。あと、守る対象の体力が減っていたら、自分の体力を減らして、対象の体力を回復させることも可能だね。まさに『漢』のために運営が準備している隠し業だね」
「そうそう。まさに『漢』ってのは、こうあるべきだというのを体現している隠し業なんだぜ……。エイコウは憎らしいんだぜ。まさに俺様が参考すべき生き様そのものなんだぜ……」
ケージが所作『あーははっ!』を繰り出す。しかし、ネーネは、うんざりとした顔つきでケージに反論する。
「あのね? 今時、男が女を守ってやるっていう考え自体が古いよー? 今じゃ、専業主夫ってのは当たり前の時代になっちゃってるのよー? 女が稼いで、男が家を守るのも普通になっているわけー。ケージは時代遅れなんだよー? そこのところ、ちゃんと自覚しておいたほうが良いよー?」
「あーははっ! こりゃ、手厳しいお言葉なんだぜ……。しかしだ、お嬢さん。漢ってのは、大切な誰かを守るためにその命を使うべき生き物なんだぜ。ネーネさんは、もし、この身に変えても守ってほしいと言われたら、嬉しくならないか?」
ケージの反論に、むむむーと唸ってしまうネーネ(川崎・寧々)である。確かに女性としては、その身を粉にしてでも守ってくれる男性の存在はありがたいモノだ。しかし、その考え自体が古いと自分は言い切ってしまっている。ケージの言いに納得する部分は多々あるモノの、またしても啖呵をきってしまったネーネとしてはいかんとしがたいモノであった。
そんなネーネの心情を察してか、ケージは取り繕う言葉をネーネに送る。
「まあ、こんな大層なことを言っても、俺様はリアルでは守るべき女性が居ないんだがな?」
「ちょっとー。今までのちょっと良い話っぽい流れが無駄になっちゃったじゃないのー! わたし、ちょっとだけ、ケージがカッコいいかもって思っちゃったのにー!」
ネーネの抗議の色をにじませたメッセージに、ケージが所作『あーははっ!』で受ける。
「しょうがないんだぜ。俺様は現実世界じゃ、しがないタコ焼き屋の店長でしかないんだぜ。こんな不安定な職に就いている男の彼女になりたがる女性なんて、いるわけがないんだぜっ、あーははっ!」




