第10話
デンカはマツリの従者:ヤツハシの装備をどうしたものかと考え込む。作るだけなら20分かそこらで作れるのだが、問題はその防具のデザインだ。いっそのこと、課金アイテムの【従者の武具:見た目変更アイテム】を買ってほしいくらいなのだが、1500メダルもする。
いくらマツリのノブレスメダルが無料分:6200枚あるとはいえ、おいそれとデンカからマツリに言えたものではなかったのである。
「話の流れから察するに、デンカさんとマツリちゃんは、ダンジョン【忘れられた英雄の墓場】の相当、奥まで潜り込んだんっスねえ? それで、従者のステータスがまるで足りないから、防具から作り直しているって理解であってるッス?」
トッシェが憶測を交えながらデンカとマツリにそう聞くのである。そのトッシェからの質問にマツリが答える。
「昨夜、深夜3時までダンジョンに潜って、やっと25層までクリアしてきたわ……。でも、もう限界……。あたしの従者:ヤツハシだけじゃなくて、デンカの従者:ダイコンだって、運が悪かったらボスNPC本体の最強業で体力バーの半分以上が削られちゃう状況だもの……」
「うひゃーーー。噂に聞いていたけど、さすが高難易度のダンジョンッスねえ? デンカさんはメインキャラの【破戒僧正】じゃなくて、サブキャラの【一人前鍛冶屋】で行けば良かったんじゃないッスか?」
「ん……。トッシェ。それは浅はかな考えだよ。従者が【見習い鍛冶屋】までしか位階アップしないからと言って、そんなに弱いってわけじゃない。その最大体力の半分も1撃で削られるなら、従者の回復量だと余計に無理」
トッシェの意見にナリッサがもの申す形となる。トッシェはナリッサのツッコミに、あっそうッスね。俺っちの考えが浅かったッスと返すのであった。どちらにしろ、今から徒党の変更は出来ない。期日は今日を含めてあと3日しかないのだ。
デンカのサブキャラである【一人前鍛冶屋】は、ダンジョン【忘れられた英雄の墓場】にまったくチャレンジしていなかった。徒党メンバーを変えれば、また1階層からのチャレンジになってしまう。
従者:ダイコンのステータスに不安はあるものの、マツリとデンカはこのまま突き進むしか、方法は残されていなかったのである。
「まあ、こんな街の往来で話し合っていてもしょうがないから、とりあえず、工房に行こうか……。マツリに防具のスクリーンショットを送りながら、マツリの合格点に達する防具でも見繕うか」
「そうね。最悪、良い見た目の防具がなかったら、1500メダルを使って、課金アイテム【従者の武具:見た目変更アイテム】を購入するわ。デンカ、それで良い?」
マツリの返答はデンカの予想と違っており、デンカは驚きを隠せないでいた。
「マツリ、それで良いのか? マツリがそこにノブレスメダルを使ってくれるっていうなら、防具の選択肢はぐっと増えるけど?」
「最悪、そうするって話よ? デンカはあたしに1500メダルも従者:ヤツハシにつっこませないように鋭意努力してほしいところよ?」
マツリの言いにデンカは出来ることなら、マツリにノブレスメダルを使わせないように努力しますかと思いながら、一度、キャラクターを落とし、再度、サブキャラであるタイコー=マケールにキャラクターをチェンジするのであった。
再ログインしたタイコー=マケールを先頭に皆がぞろぞろと街の工房へと移動する。そこの作業場で、タイコー(能登・武流)は作成可能な従者の防具一覧を開き、逐一、防御力やその防具についているステータスをセットでスクリーンショットに収め、それをスカイペのチャット欄に送り、マツリに防具の見た目を確認してもらうのであった。
「んーーー、どれもイマイチねえ? 装備に付随するステータスには文句はないのだけれど、やっぱり、これは運営がノブレスメダルを消費しろっていうお達しなのかしら?」
マツリ(加賀・茉里がタイコーから送られてくるスクリーンショットを確認しているのだが、なかなかマツリ(加賀・茉里)が納得するものがなかったのである。
従者の武具は生産した時点で、ステータスが付与されている。体力、SPはもちろんのこと、攻撃力やキャラクターの重量制限に関係する『腕力』、防御力に直結する『耐久力』、回避力や命中力に影響を与える『技術力』、状態異常攻撃の成功力及び抵抗力に関連する『知力』、そして盾職のターゲット固定成功力に大きく関わる『魅力』などがある。
デンカ(能登・武流)が先ほど、従者の武器には拘らなくて良いと言ったのは、従者の武器に付与されているステータスは『腕力』か『属性値』の2種類だけだからである。
『属性値』は火、土、水、風の4種類があるのだが、この中で一番高い値が、そのまま、魔法職の魔法攻撃ダメージに上乗せされる。従者:ヤツハシは職業【薬剤師】であり、【薬剤師】は敵への状態異常攻撃と味方の能力向上が主な仕事であるため『知力』が最重要となってくる。
それゆえ、従者:ヤツハシには関係してこない『腕力』と『属性値』しかステータス値が付与されていないので、デンカ(能登・武流)は、武器は何でも良いと言ったのである。マツリはそのことをあまり理解していなかったため、とりあえず『属性値』が高ければ、もしかすると【薬剤師】の状態異常系攻撃の成功力が上がるのでは? と思い、従者:ヤツハシに『属性値』の値が高い魔法の杖を持たせていたのであった。
「ヤツハシの行動は状態異常攻撃系が主だから、SPはギリギリ限界まで、削れるだけ削っても良いと考えて……。問題は体力よね。あー、もう……。なんで、体力の付与値が高い防具は総じてダサいのかしら?」
「そりゃ、ごっつい鎧=体力も防御力も高いってのが、ゲームを嗜むニンゲンには共通の認識だしな。運営もわざわざ、そういった固定観念を捨ててまで、好きなようにはステータスはいじってくれないだろうなあ?」
タイコーの言うことはもっともであるが、マツリ(加賀・茉里)には何となく納得がいかないのである。それもそうだ。この縛りとも言って良いシステムは従者NPCの武具にだけ適用されているからである。
プレイヤーが装備するような武具には、従者の武具のような縛りは存在しない。プレイヤー用に生産された武具にはプレイヤー側が好きなようにステータス値を付加できるのである。もちろん、それを行うためには、入手難易度の高いステータス付与アイテムは必須ではあるが……。
そのステータス付与アイテムを使えば、プレイヤーが装備できる武具には好きなステータスに決めることが出来る。
例えば、高防御力を誇る黒鉄の全身鎧に、ターゲット固定成功率が高まる『魅力』を付与できるし、攻撃力アップのための『腕力』だってつけることが出来る。
ただし、『腕力』『耐久力』『技術力』『知力』『魅力』、そして『属性値』は1つの防具に対して、付与できる合計値が決まっているという縛りは存在する。
ノブレスオブリージュ・オンライン:シーズン5.1において、武具のステータス付与値の合計限界値は150までである。さらには防具1種類の限界値も120である。
防具1か所に『腕力』に120振った場合、残り30はどこか別のステータスに振らなければならないのだ。もちろん、『腕力75』『技術力75』といったステータスの振り方も有りなのだ。
「しょうがないわ。もう1500メダルは消費することを前提で話を進めましょ? 体力に250が付与さているのは当然として、防具自体の防御力が高くて、さらには『耐久』『知力』がそこそこあるものを選んでいきましょ?」
マツリがそう結論づけるのであるが、タイコー(能登・武流)としてはまた難しい注文をしてきたモノだと思わざるをえなかった。出来ることなら『耐久』か『知力』のどちらかを選んでくれたほうが、マツリの注文に叶うような防具を探す身となる自分にとっては、大変な作業になるのは火を見るよりは明らかである。




