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我が儘な猫

家で寛いでいた時のひとコマを書いてみました…

そいつは何食わぬ顔をして部屋の中に入ってくる…


そして、鈴の音のように澄んだ声を響かせながら円らな瞳で訴えてくる


『飯をよこせ』と


私は徐に手を挙げる


その猫の頭を撫でようと静かに近づける


猫はその手を易々かわすと私から距離を取る


そう彼は野良猫なのだ


私にはモフモフとした柔らかい毛並みを触らせてくれない…


それなのに飯をねだる時だけはちゃっかりと部屋の中までやってくる


何ともあつかましい奴である


私はそんな可愛い気のない猫に缶詰をちらつかせる


猫はその缶詰を嬉しそうな顔で見つめる


妙に腹が立つ…


『私はあんたの飯係か』と


私はそんな猫に意地悪をしてみる


猫の餌を私の足元に置いて猫が近づいてくるのをジッと待ってみた


猫は綺麗な瞳で物干しそうに私の顔を見つめている


だが、彼は決して私に近づいて来ようとしない


一定の距離を保ちながら私と猫の攻防が続く


『触りたい気持ち』と『食べたい気持ち』…


相容れない気持ちが平行線を辿る


触れたいのに触れられない切ない気持ち…


まるで恋をしているようだった


こんなにも近くにいるというのに


彼は決して触らせてくれない


そう彼にとって私は都合の良い女…


何だかとても悲しくなってくる


根負けした私は猫に飯を差し出す


それを猫は嬉しそうに頬張る


全てを平らげると猫は満足そうな顔を浮かべる


そして、私にお尻を見せながら綺麗な弧を描く


S字に背筋を伸ばしながらまるで自分の家で寛ぐかのように…


私は無防備な猫の後ろ姿を見ながらふと気づく


『今ならば彼に触れられるのではないか』と


私は彼に気づかれないように


一切の音を断ちながらゆっくりとゆっくりと身を動かす…


あと少し…あと少し…


焦る気持ちを抑えながら


彼の尻尾の付け根に手が軽く触れる


その刹那、彼は驚いたように腹を地に穿つ


そして、弾き出された銃弾のように飛び出すと一目散に外へと逃げ出した


余程驚いたのだろう


彼の走った跡には土煙のように埃が舞っていた


私は彼に触れられて少しだけ満足した


そして、時間と共に少しずつ悲しさが込み上げてくる


『もう彼はここには姿を見せないかもしれない』と


それっきりの付き合い…


私が触れなければ何時までも彼との微妙な関係を続けられたのかもしれない


だが、それでも私は彼に触れてしまったのだ


自分に湧き上がる欲求に抗うことができずに…


いくら後悔しても戻らない瞬間…


そんな私を嘲笑うかのように次の日も彼は姿を現す


『飯をよこせ』と


…本当に我が儘な猫である

最後まで読んでくれた人に感謝を…

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