突然の雨に降られて……
この作品は遥彼方さまの企画で以下の流れに沿って物語を書いてみようということで書いてみました。
流れ
雨が降り出し、歩いていた主人公が傘を広げる。
↓
軒先で雨宿りしている同級生を見つける。
↓
相合傘をして二人で帰る。
この流れを一人称で書いてみよう。
主人公の性別、性格、年齢は自由。
二人の関係も自由。同級生はかつての、でもよし。
あなたのお好きな一人称、語り口で書いてみて下さい。
設定
主人公:見た目恐い系、ヤンキーではないのに不良扱いされているが、その内面はとても優しく見た目に反して可愛いものが好き
待ち人:恐いものが苦手な女の子、目を隠す前髪のせいで暗い性格に見られがちだが、素顔を見せて笑うとかなり可愛い
「ちっ……雨か……」
俺は突如降り出した雨粒に天を仰いだ。
「仕方がねえな……」
俺は鞄の中から折り畳み傘を取り出すとテキパキと組み立てた。この傘は雨の日に可愛い子猫と遭遇した時のために忍ばせていたものだった。
「準備しておいて良かったぜ……」
俺は折り畳みの傘の下で安堵の溜め息を漏らすと鞄を大事そうに抱えた。なぜならば、この鞄の中には可愛い子猫がたくさん撮されている写真集が入っているからだ。
何としても濡らすわけにはいかなかった。
俺が楽しみに家路へと着いているとその途中で1人の少女に出会った。
んっ?……あれは?
俺の目の先には服屋の軒下で微かに制服の裾を濡らしている少女が立っていた。
怖がり屋で有名な前川さんじゃないか?
俺は雨で困っている前川さんを見つけて思わず足を止めた。
どうしたものか?
男としては傘を貸してあげるのが当然の行動なのであろう。
……だがっ!俺の鞄の中には大切な子猫の写真集が入っている。絶対に濡らしたくないお宝である。愛くるしい子猫たちの顔を水滴で歪めるなんて死んでも嫌だった。
だけど……
このまま雨に降られて困っている少女を見捨てることもできなかった。
あぁ、どうしようっ!
俺は胸の中でぎゅっと鞄を抱き締めた。
悩むまでもねえじゃねぇかっ!
俺は込めていた力を弛めると静かに鞄を手放した。
さらば!子猫の写真集……
雨でボロボロになっても大切にちゃんと最後まで読むからな……
俺は完全状態の子猫の写真集と決別すると前川さんに傘を渡すことを決心した。
さて、どうやって渡そうか?
前川さんに傘を渡す決心をした俺だったが、俺には次なる問題が立ちはだかっていた。それはどう前川さんに傘を渡すかだ。彼女はクラスでも有名な怖がり屋である。
そんな彼女に見た目が超恐い俺が声を掛ければどうなるのか?
それは火を見るより明らかなことだった。間違いなく彼女は驚いて逃げ出してしまうだろう。そうなれば余計に彼女のことを雨に濡らしてしまうことになる。
どうしたものか?
俺は何か良い方法がないかと試行錯誤した。
相合い傘に誘う……
実に無謀なことだった。怖がりな彼女がこの見た目恐い系の俺とそんなことをするはずがなかった。第一折り畳み傘じゃ小さすぎて二人は納まりきらない。
傘を投げて彼女に渡す……
これもナンセンスだった。この方法だと投げられた傘に驚いて前川さんが逃げ出してしまうかもしれない。
第一傘を投げるって端から見れば虐めではなかろうか?
そんな疑問に駈られてしまった。
こっそりと彼女に近づいて彼女が驚いて硬直している隙に傘を手に握らせて走り去る……
「これだっ!」
俺は遂に前川さんに傘を渡す方法を見出だした。この方法であれば彼女が呆気に取られている間に傘が渡せる。幸いなことに彼女はまだ俺の存在には気が付いていなかった。
「よしっ!やるぞ……」
俺は大きく息を吸い込むと心を落ち着けて、そろりそろりと前川さんに近づいた。
近所で見かけた子猫に近づくように……
彼女に意識されないように傘で顔を覆い隠しながら……
一歩ずつ……
一歩ずつ……
俺は静かに脚を動かしながらゆっくりと前川さんに近づいた。
よしっ!今だっ!
俺は傘を斜めに傾けると前川さんを見つめた。
「きゃっ……」
前川さんは小さな悲鳴を漏らすと予想通りに身体を硬直させた。
いけっ!
俺は前川さんが固まっている隙に彼女の手に傘を握らせた。そして、降りしきる雨の中をひたすら走り続けた。
雨で冷たくなっていく鞄を脇に抱えながら……
大事な大事な子猫の写真集と別れを告げながら……
エピローグ
「あの……」
次の日の朝、俺が学校に登校すると誰かに後ろから声を掛けられた。
……んっ?なんだ?
俺が振り返るとそこには前川さんが立っていた。
「あの……その……」
前川さんはもじもじと身体をくねらせながら必死で何かを伝えようとしていた。
「昨日は……その……」
前川さんは口をすぼめながらあせあせと顔を真っ赤にさせていた。その姿はよちよち歩きの子猫を見ているようでとても可愛かった。
「焦らなくていいから……」
俺は前川さんが落ち着くまで静かに彼女の言葉を待った。
「……昨日は……ありがとう……」
前川さんはようやく言いたかったことを口に出した。
「よく言えたな……どう致しまして」
俺は前川さんの頭に手を乗せると子猫を撫でるように優しく撫で撫でした。前川さんは驚いた様子だったが、俺から逃げることはなかった。
「よければ……今度一緒に……帰りませんか?」
前川さんは前髪から眼を覗かせると優しく微笑んだ。
その見たことない笑顔に俺の心に虹が架かった……。
本来はS×Sとして終わらせるつもりでしたが、せっかく書いたので短編にも載せてみました。
最後の流れが微妙な感じですが……
一瞬ではありますが、彼女に傘を渡すタイミングで相合い傘が成立→その後、二人で帰る約束をしたということでご了承ください。
読んでくれた方が楽しんでくれたなら幸いです。