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影うつり

今回、初めてのホラー作品の投稿となります。


上手く書けているのか、あまり自信はありませんが、楽しんでもらえれば幸いです。


※この物語はフィクションです。



『いつの頃だっただろうか?』


僕が何やら背後に視線を感じるようになったのは…


そいつは何時の間にやら僕の背後に見えるようになっていた。


最初の頃はただのシミとしか思っていなかったはずなのに…


そいつは少しずつ、少しずつ大きくなっていき、しまいには僕と同じくらいまでの大きさとなっていた。


僕がそいつに気が付いた切っ掛けは何気ない些細な会話からだった…


僕らは当時写真に映る怪しい影を探しながら冗談を言い合っていた。所謂、『心霊写真探し』である。


そんな何気ない遊びをしている時のこと


「ねえ…この黒い影って何か人の顔ぽくないか?」


親友の1人である透が僕の背後に写っている影を指差して言った。


「そう?気のせいじゃない?」


僕は笑いながら透の言葉を否定した。


そこに写っていたものは僅か3センチばかりの黒いシミのような影だった。


そんなものが人の顔に見えるなんてどうかしているとしか思えなかった。


結局、僕らはその日、心霊写真のようなものは見つけられなかった。


まぁ、そんなに簡単に見つかれば苦労はしないだろう。


僕らは夏休みの期間中、色んな場所に行っては写真を撮りまくった。そして、夏休みが終わると何時ものように学校へと登校した。


「あれ?透のやつはどうしたんだ?」


僕は親友の透が来ていないことに気が付いた。


「何か透のやつ、体調が悪くて今日は休むらしいぞ」


「へぇ、そうなんだ…」


僕は何事もなかったように他の友達との会話を続けた。


夏休み明けの新学期になって学校に登校してこない奴がいてもさして珍しいことではなかった。


だが、透は1週間経っても学校にやって来なかった。


(どうしたんだ、透のやつ?)


さすがの僕も1週間も親友の姿を確認できなければ違和感を覚え始めていた。


「ごめんくださいっ」


僕らは一向に学校にやってこない透のことを心配して彼の家へとやって来た。そして、彼の家のインターホンを鳴らした。


「はい…どちら様…でしょうか?」


家の中から今にも消えてしまいそうな声で返事がかえってきた。声からするとその声の主は透の母親のようだった。


「あの…透の友達なんですが…透のお見舞いに来ました」


「そう…」


透の母親はそれだけ呟くとしばらくの間、沈黙していた。


(透の身に何かあったのかな?)


僕は彼女の異様な態度から言い知れぬ不安を感じていた。そして、透の身を案じた。


「あのっ…」


「うぅ…ごめん…なさい…」


僕が煮え切らない透の母親の態度に痺れを切らして話しかけようとした瞬間、彼女は呻き声を洩らした。そして、何故か謝罪の言葉を口にした。


「透は…透はっ…」


透の母親は何か言いかけると再び口を閉ざした。


「透に…透に何かあったんですかっ」


僕は声を荒げると透のことを訊ねた。しかし、彼女が僕の問いかけに答えることはなかった。


「透に…透に会わせて下さい」


僕は冷静さを取り戻すと透に会わせてくれるようにお願いした。


「ごめんなさい…今は会わせることができないの…」


透の母親はそれだけ言うとインターホンの電源を切った。


僕はその後、何度もインターホンを鳴らしたが、彼女が反応することは2度となかった。


(透の身に一体何が…)


僕は後ろ髪を引かれる思いだったが、何時までもそこにいても仕方がなかったのでその場を後にした。


その日の夜のこと、僕はおかしな夢を見た。


僕は夢の中で何故か透の家の前に立っていた。


これが夢だと気が付いたのは透の家の扉がなくなっていたからである。


昼間行った時にはあんなにも頑なに拒んでいた母親の姿さえも見られなかった。


(これは一体どういうことなんだろうか?)


僕は一旦家の外に出てくると首を傾げた。


本当であれば直ぐにでも透の部屋に行って彼の安否を確認したかったのだが、何故か本能がそれをすることを拒んでいた。


昼間の透の母親の態度がどうにも腑に落ちなかったからである。そして、彼の部屋には何かとんでもない事実が待ち受けている気がしていた。


まるで蛇の前に立たされた蛙のような気分だった。


(早く目を覚まさなければ…)


僕は必死で意識を覚醒させようと頭を上下に揺さぶった。


『これ以上ここに居てはいけない』


そんな予感がしていた。


「武志…」


僕が現実へと意識を向けていると不意にどこからか僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。


「この声は…」


僕は聞き覚えのある声にぴたりと動きを止めた。その声の主は透だった。親友の声を聞き間違えるはずがなかった。


「透っ!」


僕は大声を上げると辺りの様子を見回した。だが、透の姿はどこにも見られなかった。


「…武志」


僕が周囲の様子を確認していると再び苦しそうな透の声が響いてきた。


その声は耳からでなく頭の中に直接響いているみたいだった。


「僕のことを呼んでいるのか…」


僕は透の声に導かれるまま彼の部屋の前までやって来てしまっていた。


「透…」


僕は透の部屋の目の前で彼の名前を呟いた。僕の心臓は何時になく高鳴っていた。


まるでこれから起こる恐怖の何かを予感させているかのようだった。


(…行くぞっ)


僕は覚悟を決めると静かに透の部屋の扉を開いた。


「…透?」


僕は身を震わせながら恐る恐る部屋の中へと足を踏み入れた。


「…………っ」


僕は布団の上にあったものを見て思わず固唾を飲み込んだ。


そこには消し炭のように真っ黒に染まっている人間らしきものがあった。


それはベッドの上でモゾモゾと気持ち悪く蠢いていた。


「…透…透なのか?」


僕はやっとの思いで腹の底から声を上げるとその透らしき人物に話しかけた。


「武志…」


黒い物体はこちらに視線を向けるとゆっくりと近づいてきた。


その黒い物体の顔の部分には透の顔がはっきりと写し出されていた。


「どうして…どうして、こんなことに…」


僕にはなぜ彼がこんな目にあっているのか、訳がわからなかった。


「武志…」


透は苦しそうな声を上げると俺の顔へと手を伸ばしてきた。


「うわあああ」


僕は叫び声を上げると思わず身体を仰け反らせた。


「くっ、来るなっ」


目の前にいるのが親友の透だとわかっていても彼が身に纏っている黒い影は僕を充分に恐怖させた。


とても目の前にいる人物に同情してそれを抱き締める気にはなれなかった。


「なんで…ナンデ…」


透はとても悲しそうな表情を浮かべると黒い影の中へと呑み込まれていった。


「透っ!」


僕は影に呑まれていく透に慌てて手を伸ばそうとした。


その瞬間、僕は夢から現実へと引き戻されていた。


心臓が張り裂けんばかりの勢いで鼓動を打っていた。そして、背中や首の襟元などにびっしょりと汗が張り付いており、それがとても気持ち悪かった。


「夢か…」


僕は少しずつ破裂しそうな心臓の勢いを戻すとぼんやりとスマートフォンの画面に目をやった。


透のことが無性に気になっていた。


いくら夢を見ていたと言えども僕は親友の透のことを見捨ててしまったのである。


その罪の意識が僕に罪悪感を植え付けていた。


「あれは夢だ…あれは夢…」


僕はスマートフォンの画面を見ながら心を落ち着けていた。


『ぴりりりっ、ぴりりりっ』


僕がスマートフォンの画面を見つめていると急に電話の着信音が鳴り響いた。


折角、落ち着き始めていた心臓の鼓動が再び速度を上げた。


「こんな時間に?一体誰が…」


僕はスマートフォンに表示された人物の名前を見て表情を凍りつかせた。


その電話を掛けてきた主は…透だった。


これまで彼が休んでいた間に何度掛けても繋がらなかった透からのコールだった。


僕はしばらくの間、透からの電話を取るべきかを悩んでいた。


夢の中で見た真っ黒に染まった彼の姿が脳裏に焼き付いて離れなかったからだ。


(どっ、どうする?)


僕は心の中で激しく葛藤しながら身体を硬直させた。


僕がそうこうしていると着信音は鳴り止んだ。


「…ふぅ」


僕は安堵の溜め息を吐くと緊張の糸を解いた。


(僕は最低の人間かもしれないな…)


僕は胸を撫で下ろしながら心にゆとりを取り戻すと自責の念に捕らわれていた。


僕は1度ならず2度までも親友のことを見捨ててしまったのである。


僕が後悔をしていると再び電話の着信音が鳴り響いた。その電話の主はやはり透だった。


どうやら今度は僕が電話に出るまでこの状況は続くみたいだった。


(今度こそ…)


僕は腹を括ると通話機能をONにした。


「…もしもし?」


僕は恐る恐る唇を動かした。


しかし、電話先からの返答は戻ってこなかった。


「…透なのか?」


僕は不気味に沈黙する電話の主に必死で語りかけた。


「……ケロ」


電話の先から何やら声が聞こえてきた。


「えっ…」


僕は聞こえてきた声が小さすぎて上手く聞き取れなかった。


「…もう一度言ってくれ」


僕は電話の先の人物に再度言ってもらえるようにお願いした。


「…ミニ…ツケ…」


「みに?つけ?」


僕には何のことだか、さっぱりとわからなかった。


(聞くことに意識を集中しようっ!)


僕は耳に全神経を集中させると静かに電話の主の言葉を待った。


「シ……キヲ…ケロ」


僕は辛うじて聞き取った内容から電話の主が何を伝えようとしたのかを頭の中で整理した。


『し・み・に・き・を・つ・け・ろ』


(シミに気を付けろ?一体どういう意味だ?)


僕は何とか全文を解読したがやはり意味がわからなかった。


「シミに気を付けろって…どういう意味なんだ?」


僕がそう聞き返すと電話の通話は切れた。電話の先からは「ツーっ、ツ

ーっ」と不気味な機械音が響いていた。


「一体何を伝えたかったんだろうか?」


僕は透の意図を必死で考えてみたが、いくら考えても答えは見えてこなかった。


その日から透は家からいなくなってしまったらしい。


すっかりとやつれてしまった透の両親が懸命に彼の行方を探してビラを配り歩いていた。


(透のやつ、一体どこにいってしまったんだ?)


僕は透の両親から受け取ったビラを見ながら彼のことを考えた。


(んっ…何だろう?)


僕が透のことを考えていると突然どこからともなく視線を感じた。


僕は慌てて視線を感じた方に顔を向けたが、そこには何もなかった。


(おかしいな?気のせいかな?)


僕は不思議に感じながら首を傾げた。確かにそこには何も存在しなかったはずである。


しかし、その日から僕は何者からの視線を感じるようになった。


(誰だっ、一体誰が僕のことを見ているというんだっ)


僕は次第に人の視線に敏感になっていき、遂には部屋から出ることが怖くなってしまっていた。


(どうして…どうして僕がこんな目に…)


僕は暗い部屋の中で迫り来る恐怖に怯えながら震えていた。


そんな最中、僕は透と一緒に撮った写真のことを思い出した。そして、気分を紛らわせるため、それらの写真を机の中から取り出した。


「これは…」


僕は写真を見て言葉を失った。なぜならば、そこには写ているはずの透の姿が全て黒く塗り潰されていたからである。


「これもっ、これもっ、これもかっ」


僕は夏休み中に撮った写真を全て確認したが、透の姿がきちんと写された写真は1枚も存在しなかった。


「どうして、透の姿だけが黒く染まっているんだ?」


僕は黒く塗り潰された透の写真を見つめながら首を傾げた。


『シミに気を付けろ』


僕は唐突に夢の中での透の言葉を思い出した。


「シミといえば…」


僕は夏休みの前に透と話をしていたある写真のことが頭の中を過った。


「夏休みの前に透と話した心霊写真のようなものがあったっけ?」


その写真は透が心霊写真ではないかと言っていた写真だった。


「あの写真、どこいったっけ?」


僕は例の写真について探し始めた。


「あった…」


僕は目的の写真を探し当てると顔を凍りつかせた。なぜならば…


その写真に写し出されていたのは透が黒く染まっているだけでなく黒いシミが僕の姿も真っ黒に染めようとしていたからである。


最初は僅か3センチほどの大きさしかなかったはずの黒いシミがいつの間にか写真の3分の1まで広がっていた。


「これは…まさかっ」


僕はその写真を見て確信した。


透がいなくなったのはこの写真が原因なんだと。


「この写真さえなければ…」


僕は透を消した写真を焼却すべく引き出しからライターを取り出すとその写真に火を付けた。


写真はパチパチと音を立てながらあっという間に黒い灰になって消えていった。


「これで…もう大丈夫なはずだ…」


僕は原因が取り除かれて胸を撫で下ろしていたが、問題は全く解決されていなかった。


「うわあああ」


僕の右腕が突如炭のように黒く染まっていたのである。


それはまるで夢の中で見た透のような絶望的な色であった。


「だっ、誰かっ、助けて…」


僕は大声を上げて助けを呼ぼうとしたが、声が上手く出せなくなっていた。


そして、その黒い影のようなものはゆっくりと僕の全身へと広がっていった。


どうやら僕も透と同じ過ちを犯してしまったようであった。


僕は恐怖心に苛まれながら次第に意識を失っていった…


次に僕が意識を取り戻した時、僕は真っ暗な空間の中に1人で佇んでいた。


その闇の中で僕は身動きも取れず、声を出すことさえできなかった。


そんな暗闇の中、ただ1点だけ目ほどの大きさの光の部分が存在した。


僕がその光の部分を覗き込むとそこには僕がいるべきはずの世界が写し出されていた。


どうやら僕は影の世界へと送り込まれてしまったようであった。


僕はその暗闇の中から光輝く現実の世界をただひたすらに見続けている…




あなたの背後に映るその影の中から…















ツ・ギ・は・キ・ミ・の・バ・ン・だ・よ・・・・




何だか微妙なオチになってしまってすみません。


これが自分の限界のようでした。


最後まで読んでくれた方、どうもありがとうございました。

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