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88話 企む立勇

「それよりもこの屋敷内外に張り付いている、敵の存在の方が問題だろう。

 潘公主により近しい危険だからな」


立勇はそう言って、屋敷に視線を向ける。

 これに、雨妹は首を傾げる。


「内側はまあ、分かりますけど。

 外にもいるんですか?」


「いるな、恐らく太子の遣いの目の前で事を起こして、利民殿の決定的な失態にしたいのだろう。

 例えば潘公主、もしくは太子の遣いのどちらかが屋敷内で殺害されたなら、責任問題となり確実に首が飛ぶだろうな」


えげつないことを言われた。

 この例えの場合、多分殺害される太子の遣いは雨妹の方だ。

 そんな状況で武官である立勇が屋敷を留守にすればどうなるか。

 屋敷に敵にとっておあつらえ向きな二人が残ることになるのだ。


「うへぇ……」


雨妹はうめき声をあげて、嫌そうな顔になる。

 要するにこの男は、雨妹を餌にして敵を炙り出そうというのだ。


「なんかその計画、私に酷くないですか?」


渋面の雨妹の両肩に、立勇が手を置いた。


「雨妹よ、私もな、いい加減に帰りたいのだ」


一言一言区切りながら告げられた。

 確かに雨妹としても、この出張はちょっと長引いているなとは思う。

 食事と運動指導だけで事足りればいいが、使用人がアレだと、雨妹たちが去った時に同じ環境が続くのか不安が残るためだ。

 雨妹たちがいなくなって再び体調が悪化して、最悪身罷ったともなれば目も当てられない。

 けれどそんな状況とはいえ、立勇は色々と立場があるので、心中複雑だろう。

 なにせ――本人にはっきりと断定されたわけではないが―― 一人二役してまで太子に張り付いているのだ。

 太子の生命線的存在と言っても過言ではないだろう。

 だから、立勇の言いたいことは理解できるのだが。


「でもですね、そうなった場合、残される私の安全はどうなるんですかね?」


雨妹の最も心配な点に、立勇は「もちろん、ちゃんと考えてあるとも」と頷いた。


「この地に配置された人員が、私たち二人だけなはずあるまい?」


立勇の言葉に、雨妹は「やっぱり」と思う。

 きっと表立って姿を見せない、密偵のような存在がいるのだろう。


「そりゃそうですよね、立勇様は大事な側近ですもの」


雨妹がうんうんと頷くと、立勇はなにか言いたげにしたが、結局なにも言わなかった。



そして時は戻り現在。

 そんなこと思い出しつつ、雨妹は潘公主に答えた。


「いえ、あの人は私が心配するような方ではありませんから」


太子が自らの安全を預けるような男だ。

 相当に腕がたつのだろうということは想像に難くない。

 でないと本人から海賊退治に同行なんて作戦を言い出さないはずだ。


 ――でもこれで海賊退治で大怪我して帰ってきたら、看病くらいはしてやるかな。


 そして情けない姿をさらすという珍しい立勇に、一人ニマニマしていようか。

 そんな風に雨妹が考えていると。


「そうまでして信頼し合えるなんて、あなた方の絆は強いのね。

 わたくしも利民様を信頼しなくてはね」


潘公主がそう言って、「ほぅ」と息を吐いた。

 なんだか誤解されているようだが。

 ここで敢えて訂正を入れるようなことでもあるまいと、曖昧な笑みを浮かべる雨妹なのであった。

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