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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第五章 海の見える街

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78話 海賊と黄家

雨妹が太子から聞いた説明によると、佳は黄家にとって経済の重要拠点という話だった。

 そこの船の入港が減ると、当然入るお金が減るわけで。

 黄家にとっては大打撃もいいところだろう。


「あの海賊はどこから来ているのですか?

 当然調査はされているのでしょう?」


この立勇の疑問に、利民がしかめっ面をする。


「……こうなったらいずれ分かっちまうことだしな。

 実はあれは、黄家の仕業だ」


「はい?

 黄家が自分のところの港を襲うんですか?」


「正確には、黄家の別の一族の連中だな。

 俺の事が気に食わないのさ」


そして利民は、黄家の内情について語り始めた。


「黄家の跡目は、今のところ俺の親父が有力だが、決定じゃあない」


黄家は皇帝も一目置く一族だ。

 その統率者である大公となれば、狙うものも当然多い。

 そんな中でも現黄大公を上手く補佐し、跡取りと目されているのが利民の父親だという。

 しかしその座を狙い、尚且つ利民の父親に次いで有力なのが、利民の父親の義兄だという。


「親父の姉の婿って奴なんだが、この親父の姉――伯母さんていう女が、まぁ欲深でな」


その伯母は皇帝の妃嬪(ヒヒン)候補だったが、黄家内の他の候補との争いに敗れたというのは、潘公主からも聞いた情報である。

 そしてその伯母は、血縁から婿をとって一族に居残っているのだという。


「これがまぁ、化粧臭いオバサンでな。

 俺はアイツが嫌いだね。

 そんで自分が出来なかったことを娘にさせようってんで、太子殿下の妃嬪として送り込もうとしたんだが、それも叶わずってね」


そう話す利民が肩を竦める。


 ――決定的な欠点みたいなのが、その母娘にあったのかも。


 次期黄大公に名乗りを上げられる身分であるのだから、それなりに地位が高いはず。

 それなのにその地位でごり押しできなかったということは、そういうことなのだろう。

 黄家としても、おかしな女を送り込んで一族の評判を下げたくないだろう。

 とにかくそんな事情があり、利民としては宮城からやってくる公主というのがどんな人物か、結構警戒していたそうだ。

 伯母母娘みたいな女だったらどうしよう、というわけだ。


「そうしたら全く違った感じの女が来たんで、ホッとしたってぇのが正直なとこだな」


「なるほど。もしや利民様はそのホッとした勢いで、(パン)公主を港へ連れて行って海を見せたとか?」


雨妹の指摘に利民は一瞬ぐっと詰まると、「そんなこともあったか」と漏らす。


「今にして思えば、公主サマをいきなり港を連れ回すこたぁなかったと思っているさ。

 色々ごちゃごちゃして汚ぇしな。

 体調不良っていうのにそのせいもあるのかと、こっちだって反省してるんだよ」


利民がそう言って項垂れる様子に、雨妹は目を丸くする。

 どうやら彼は見当違いな方に悩んでいるようだ。


「いえ? 潘公主は海が楽しかったようですよ?

 利民様が連れて行ってくださったと、嬉しそうでした。

 私たちにも港見物を勧めてくださいましたし」


「……そうなのか?」


雨妹が教えてやると、利民は顔を上げる。


 ――本当にすれ違っている夫婦だなぁ。


 雨妹がいっそ呆れるような気分でいると、立勇が利民に告げる。


「私から見ても、潘公主というお方は後宮に住まう方々の中でも、少々変わったところがあると思います。

 だからこそ、黄家への降嫁となったのでしょう。

 ですから、利民様も潘公主への先入観を持たずに、接していただきたい」


「……わかった、善処するさ」


立勇からの助言に、利民が神妙な顔で頷いた。

 これで、夫婦のすれ違いがなくなればいいのだが。

 また利民の恋愛相談になってしまったが、話を戻そう。

 件の強欲な伯母という人は、未だ黄大公の座を諦めていないらしい。


「佳は代々、黄大公の跡目とされていた奴が任されている場所でな。

 そこを親父に続いて俺が任され、尚且つ公主サマなんていう嫁を貰い受けたもんだから。

 このままだと太刀打ちできなくなるってんで、焦っているのさ」


そう話す利民に、立勇がお茶を一口飲んでから尋ねる。


「利民様から見て、その伯母とその夫という方は、どのようなお人柄なので?」


「一言で表せば、ごうつくばりだな。

 どっちも金と権威欲が人一倍強い」


利民はそう答えて肩を竦めた。

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