表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/656

74話 事件です

「雨妹、何故港へ向かっている?」


立勇に尋ねられ、雨妹はちらりと隣を見上げる。


「立勇様こそ、あの様子だと港は危ないですよ?」


これに、立勇が「ふん」と鼻を鳴らす。


「私は武人だ、荒事くらいどうということはない。

 だがお前は店に残っている方がいい。

 様子を見てから迎えに来よう」


この意見に、しかし雨妹も反論する。


「交戦ってことは、怪我人がいるかもしれないじゃないですか」


こうして二人で立ち止まり、睨み合うことしばし。


「……仕方ない、私から離れないように」


雨妹が引き下がらないと見た立勇が折れた。

 というわけで、改めて二人して港へ向かうのだった。


港は騒然としていた。


「船はもうないのか⁉」


「海に落ちている連中がいる、引き揚げないと!」


「利民様が出られるぞ!」


様々な怒声が響く中、雨妹は背伸びして沖を見る。

 そこには大きな船が浮かんでいて、その船に中型の船が数隻たかっていた。


「あれは……海賊か?

 こんな陸の近くで?」


立勇の呟きに、雨妹は首を捻る。


「そういうのって、誰も通らないようなところでするものなんじゃあないですかね?」


こんなすぐに応援が到着できるような距離では、海賊が不利に思えるのだが。


「怪我人だ、舟で帰ってきたぞ!」


しかし聞こえて来たこの言葉で、雨妹の中からそんな疑問が吹き飛ぶ。


「はい! 私手当てが得意です!

 怪我人はどこですか!?」


雨妹が手を挙げて叫ぶと、自然と目の前の人込みが割れる。


「誰だか知らんが助かる、こっちだ!」


そう聞こえて来た声の方に駆け出す雨妹に、立勇が「仕方ない」と零しながらついてくる。

 そこは手漕ぎの舟に乗せられ血を流している男数人と、その舟を漕いできた男が、港に揚げられているところだった。


「切り傷だな、浅いようだが血が流れ過ぎているか」


怪我人を見た立勇が隣でそう告げる。

 となると、早く傷の手当てをして身体を温めなければ危険だ。


「すみませんが、煮炊きに使う水をください。

 海水ではない水!

 あと清潔な布!」


雨妹が周囲にそう叫ぶと、近くの屋台から鍋に入った水が届けられる。

 雨妹はその水に持っていた木綿の布を浸し、傷口を洗っていく。

 ちなみに木綿布を持ち歩くのは、いつでも髪を纏めて布マスクを出来るようにという、掃除係の癖である。

 やがて届けられた布を、雨妹は裂いて包帯状にすると、傷口から心臓に近い場所をギュッと縛る。


「血がとまるまでこうしていて、落ち着ける場所に静かに運んで濡れた服を着替えさせてください!」


「お、おぅ」


雨妹の勢いに、声をかけられた者は戸惑いつつも怪我人を運んでいく。

 「あの仕切っている女は誰だ?」という声は聞こえてくるものの、隣の立勇の威圧感のせいで直接言えないようだ。


 こうして次々と手当していき、怪我人を全員捌ききると。


「おいネェちゃん良い腕してるな!

 これから怪我人を運びに行くんで、付き合えや!」


港につけられた、漁に使われてるのであろう手漕ぎの舟の上からそう声をかけられた。


「はい!」


「こら、勝手に返事をするな!」


即答した雨妹に、立勇が小言を言いつつも一緒に来る。

 というわけで、二人はその舟に乗り込み海へ出ることとなった。


「助けてくれ!」


そう叫びながら必死になって泳いでいる人たちを、次々に舟へと揚げていく。

 雨妹は引き揚げられた人の状態確認、立勇は引き揚げの手伝いである。

 そうして人命救助をしている中、立勇が商船の方を見て言った。


「あれは、海賊ではないな」


「そうなんですか?」


顔を上げて自分でも商船を見る雨妹に、立勇が説明する。


「動きに統率が取れ過ぎている。

 あれはもっと訓練された連中だ」


「おっ、利民様と同じことを言うんだな、ニィちゃん」


立勇の言葉に、漁船の主がそんなことを言ってくる。


 ――へぇ、利民様と同じことをねぇ?


 だとすると、ますます怪しい。

 一体どういうことになるのかと、雨妹は首を捻る。

 そんな話をしながらも、舟がそろそろ定員になりそうなので、港へ一旦引き返そうかとなった時。


 バシャアッ!


 突然水飛沫が上がったかと思ったら、ずぶ濡れの男が舟に手をかけていた。


「女がいる、ツイてるぜ!」


そう叫びながらにやける男は、どうやら謎の海賊の連中の一味で、泳いで近付いていたようだ。


「ひえぇ、追いかけて来た!?」


ようやく助かったと考えていたであろう人たちが、怯えてなんとか逃げようと動くので、舟が大きく揺れる。


「うわわ……」


 ――落ちる、落ちるからじっとして!?


 雨妹が慌てて船の縁へしがみつくと、その縁を海からにゅっと伸びて来た手が掴む。


「うひっ!?」


どうやら海の中にまだ仲間がいたようだ。


「確かに女だ、ちいっと地味顔だが、女には違いない」


 ――地味だとぅ!?


 地味顔なのは本当のことだが、他人から面と向かって言われれば腹が立つというもの。

 ムッとした雨妹の顔の横を、なにかが通り過ぎてその男を海へ突き落す。


「気安く触れるな、下郎が」


それは立勇の足だった。

 その手には、刃渡りの短い剣が握られている。

 立勇は通常ならばもっと長い剣を持っているのだが、人の多い場所では扱い辛いと、今回こちらを身に着けていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 海賊も、それ以前に海を荒らしていたとされるヴァイキングも、どちらも陸に上がって略奪を繰り返していたので別に港にいてもおかしくはありませんよ もっとも、どちらもある程度の数と奇襲をもっての襲…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ