724話 みんな野猫が気になる
だが、それはともかくとして。
卓敏の件と「皇后陛下のお味方」云々とは一体どういう絡みなのかと、一瞬考えた雨妹だったが。
「あ! ひょっとして皇后陛下と叶賢妃の因縁対決のことですか!?」
多少の時間差を経て雨妹の脳が答えを導き出した。今の時期に味方がどうのと言われれば、やはり聞き立てホヤホヤの情報に行き当たるのは当然の流れであろう。
「やはりこのことも知っていたわね」
「はい、これも燕女史から教えていただきました」
秀玲に意味あり気に視線を向けられて、雨妹は情報元を素直に話す。むしろすぐにピンとこなかったのは、先程の「本当に怖い兵士の真実」のせいで、脳みそまで縮みこんでいたからかもしれない。
「けれど、私が皇后陛下のお味方をするというのは、少々話が飛びすぎです。ただの成り行きで行動しているだけですし、皇后宮には仕事で入っていただけです」
雨妹はこの点を誤解されないようにと、己の行動に他意がないことをきっぱりと断定する。
「あらそうなの? 皇后宮の呉殿から気に入られている様子ですのに」
ちょっと驚いたように言われて、一体自分は秀玲からどう見られているのかと頭痛がする。秀玲にそのように見えるということは、他にもそういう見方をしている人が大勢いるであろうからだ。
おそらく雨妹がちょっと前に皇后のために動き、皇帝まで巻き込んだことでそう思われたのだろうが、それで決して味方になる云々という話にはつながらない。皇后宮とは、あくまで仕事上の関係でしかないのだ。
「呉様は、私の仕事を気に入ってくださっているとは思いますが、込み入った話にはなりませんから。単に皇后宮が人手不足であるので、私という伝手が有難かっただけでしょう」
「あらあら」
雨妹がそう最近の自分の行動について説明するのに、秀玲はどこか面白そうに相槌を打つ。
――なにその、「わかっていますよ」的な微笑みは!?
雨妹も秀玲に負けまいと、笑顔で対抗する。
こうして雨妹と秀玲が見えないなにかで戦っていると、立彬が口を挟む。
「雨妹よ、だからと言って、叶賢妃の味方をするわけでもあるまい?」
「もちろんです。そもそもそちらは縁のない人ですから、味方をする理由がないですね」
雨妹はこれにもまた素直にそう話す。
皇后と叶賢妃とを比べれば、雨妹にとって皇后の方が一応は顔とざっくりとした為人を知る相手ではある。だがそれで積極的に応援をしに行くかというと、それもなんだか違うように感じるのだ。皇后が本当はどのような人物であっても、雨妹と拗れた経緯があるのは事実である。それに、皇后はそういう「がんばれ、がんばれ!」という雰囲気を嫌いそうだ、というのが雨妹の個人的な見解だ。
もっとはっきり言えば、雨妹にとって皇后とは「野猫がなんだか妙に懐いている人」という説明が一番しっくりくるかもしれない。
「そうですね、応援するならば皇后陛下を味方するであろう野猫をする、というところでしょうか?」
野猫が「助けてぇ~!」と言ってきたら、自身の気持ちが複雑でもなんだかんだで手を貸してしまうだろう、という妙な確信を自分でも持っている雨妹であった。
「ふむ、あの娘はどうにも憎めぬところがあるので、気持ちはわかるな」
立彬も野猫に対して似たような思いなのだろう、感じ入ったように息を吐く。
――野猫って、ご主人様に向かってまっしぐらな猫みたいだもんね。
こうして雨妹と立彬の二人で頷き合っていると。
「あらあら、二人だけで話が通じているなんて。わたくしもその野猫っていうお人のことが気になるわね、どんな方なの」
秀玲も興味が出たらしくそう聞いてくるのだが、野猫がどういう人物かを言葉で説明するのは難しい。
「皇后宮の洗濯係をしている新入りで、とにかくとても元気な娘です」
このようなありきたりな表現になってしまうのだが、真実はいつか秀玲自身の目で確かめてもらうしかないだろう。




