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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第五章 海の見える街

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71話 海鮮食べ歩き

 というわけで本日、雨妹はありがたくお休みを貰って港へ繰り出している――何故か、立勇も一緒に。

 まあ、雨妹が休みで立勇に休みではないというのは、不公平だというのはわかる。

 けれど、今一緒にいるのは何故だろうか。


「私、一人でも大丈夫なんですけど?」


隣を歩く立勇を見上げた雨妹がそう言うと、ジトリとした視線が返ってきた。


「今のお前は太子殿下の使者という立場なのだ。

 後宮内と同じ気分でいると、要らぬ騒動を呼ぶ」


そしてこんな言葉が返される。


 ――まぁ、確かに。


 雨妹を攫って太子に言うことを聞かせようとする輩は、いるかもしれない。

 それは自分でも十分にわかっているのだが。

 これから海鮮料理を食べ歩きしようというのに、立勇が隣にいると気になってしまう。


「見張り付きみたいで、楽しめないんですけど」


そんな愚痴を言いつつ立勇を連れて港に向かって歩くと、やがて雨妹の鼻を、魚介の香りがくすぐる。


 ――ああ、なに食べようかなぁ……


 雨妹はとたんに浮き立つ気持ちを抑えきれず、「くふふ」と声を漏らす。

 どんな海鮮料理だって嬉しいが、やはり目指すはイカ焼きだ。


「イカがあったらいいなぁ、イッカイカ~♪」


自作の歌を奏でながら歩く雨妹を、立勇が隣から見下ろす。


「……楽しそうではないか」


立勇のそんな呟きが聞こえたが、雨妹を待っているであろう海鮮料理の前には、些細な問題である。

 こんなやり取りがあったものの。

 やがて到着した港という場所は、異世界でも雰囲気はかわらないものらしい。

 逞しい海の男たちに、彼らをうまくあしらうもっと逞しい女たち。

 そして港に並ぶ漁船に、そこから水揚げされる魚介類。

 そして、それらを調理している屋台!


 ――楽園だ、楽園がそこにある!


 目を輝かせて屋台に突撃しようとする雨妹を、しかし立勇が止める。


「むやみに人込みに突っ込もうとするな。

 いかにも余所者で、掏りの格好の的だ」


「むぅ……」


立勇の正論に雨妹は動きを止めるものの、気分はさながら「待て」を言われた犬である。

 しかし現在の雨妹の持ち物は、全て太子から与えられたものであるからして、それを掏られるのは確かに嫌だ。

 もし弁償なんてことになったら、掃除係程度の給金では絶対に払えない。


「一緒に行くので、私から離れないと約束しろ。

 どこの店が気になるのだ」


どうやら引率してくれるらしい立勇に、そう尋ねられ。


「とりあえず、端の店から攻めていきます」


雨妹はそう答える。

 どうせ一緒に歩くのなら、第二の胃袋として活用させてもらおうではないか。

 量が多い料理だったら、立勇と分け合えばいいのである。

 というわけで、宣言通り屋台が並ぶ通りの端から、海鮮料理を買っていくことにした。

 屋台で売られているものも、串焼き・網焼き・(タン)と種類が豊富である。

 特に人気なのは大ぶりの貝の串焼きだ。

 ピリッとした味付けで、周囲ではこの串焼きを片手にお酒を飲んでいる海の男たちがいる。

 もし雨妹が大人だったら、同じようにお酒を飲みたくなるだろう。

 他にも魚の一夜干しの網焼きも身がフワフワだったし、エビが丸ごと入った湯も絶品だ。

 珍味系ではサザエやウニなどもあった。

 そして雨妹が現在手にしているのは、サザエのつぼ焼きである。


「うーん、美味しーい!」


雨妹はホクホク顔で、サザエのつぼ焼きをモグモグしているのだが。


「……お前、よくそれを食べられるな」


そんな雨妹を、立勇が不気味なものを見る目で見る。

 恐らく彼は、あまり海に馴染みがないのだろう。


 ――確かに、この見た目が受け付けない人っているもんね。


 味も独特の苦みがあって、慣れない人には手を伸ばしにくい料理かもしれない。

 けど、慣れたら癖になるのだ。

 こんな風に雨妹はアレコレ食べつつ、もう食べられないと思ったら立勇へと横流しする。

 一応雨妹が直接齧った後のものは渡していないので、よしとしてもらいたい。

 そうして食べ歩きしつつ屋台通りを結構進んだところに、それはあった。

 店先に洗濯物みたいに吊るされ、干してあるモノ。


 ――あれは……イカだ!?


 その干してあるイカの横で、香ばしいタレをつけて焼かれているのは、まさしくイカ焼き。


「あれ、アレを食べたいです!」


「また、不気味なものを……」


キラキラした目になる雨妹の横で、立勇がしかめ面をする。


「不気味なんて、失礼な事を言わないでください!

 すっごく美味しいんですから!」


そう言い置いてズンズンと進む雨妹に、立勇も仕方なくついてくる。


「くださいな!」


「へい、まいど!」


そして屋台で無事に油紙に包まれたイカ焼きを手に入れた。

 イカ初心者の立勇のために、一口大に切り分けてもらっており、比較的小さな部分を立勇へ渡す。


 ――いただきます!


 雨妹は早速、イカ焼きにかぶりつく。


「ああ、幸せ……」


 口に広がる焼かれたイカの香ばしさと、絶妙なタレの絡み具合に、雨妹はうっとりとした顔になる。

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― 新着の感想 ―
[一言] サザエの壺焼き……(*´﹃`*) アレ、匂いが反則級にヤバいですよねぇ。網焼きして醤油を垂らしたり酒と醤油の合わせタレを垂らしたりして、煮立った匂いがあまりに漂い……( º﹃º` )じゅる…
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