705話 気になる花の絵
把国で革命が起きた直後は、それを起こした民らも意気揚々としていたのだろう。けれど「国王と王太子が悪い、王宮や外街で贅沢暮らしをしている連中が悪い」と喚き、実際に彼らの存在を消して富を強奪したところで、全ての問題が解決するなんていうこと、現実には起こり得ない。
国なんていう大きなものの問題なんて、それこそ数えきれないくらい数多の要因が絡み合っているものだ。国庫を潤していたのは、国から手厚く保護されていた職能の一族たちの作品が稼ぐ外貨であっただろうに。その外貨を稼ぐ手段を潰した先に待っているのは、大国からの恵みを待つばかりの物乞い外交だ。
――どこの国も、偉い連中は埋蔵金を隠し持っているとか考えるんだろうなぁ。
その埋蔵金の夢がまさに夢物語であったと知れた民らの、絶望はいかばかりであろうか? ダジャルファードが王族としての洗脳教育で視野が狭かったのは確かだけれど、国王が一人で国の全てを運営するでもなし。把国の民が踏み止まれなかった理由を、後になってあれこれ言うのは簡単だ。けれど強いて言えば、経済がどのように巡っているのか、きちんと端々の集落にまでとはいわずとも、主要な集落くらいまでは教育できていなかったのが問題か。
――まあ、国の端に金がたどり着くまでに、どこかで中抜きされていたんだろうけれどね。
もしくは職能の一族を国の各地に分散して保護するなどしたら、富も分散できたのだろうが。それが出来ない地理的、もしくは歴史的な事情があったのかもしれない。
一方で職能の一族たちはダジャルファードが弟王子によって奴隷として売られてしまった後、ほとんどがよくわからない罪を着せられて、それぞれ別個に隔離の上で働かされているという。堂々と働かせない辺り、それで稼ぐ金は後ろ暗い懐行きとなるのであろうと想像できる。
――暴力っていう思考停止で事を為しても、碌な結果にならないってね。
まあそれはともかくとして。
そんなわけで、大偉とダジャルファードは新たな産業のために確保した人材を苑州に連れ帰り、宇たちは今ある苑州の産業を金に換えるべく奮闘しているわけである。
そして双子の傍から露が離れてしまったわけだけれど、その代わりとして双子の護衛と世話役でついているのが、大偉と佳で新たに合流した人物である。
それは小柄で無口な女だった。名は赤兎と呼ばれており、歳の頃はよくわからず、高齢に見えるが、案外若いかもしれない。武器を振るう者にも見えず、身のこなしに優れているようにも思えない。けれど大偉からの信頼が厚いようで、「この者がいれば大丈夫だ」と言いおいて帰って行ったのだ。
なにより時折、飛が赤兎に対して怯える仕草をするのが、宇としては非常に気になるところだ。
――ただ者じゃあないってことだろうけれど。
彼女がどういう人物なのか、それを解き明かすのも旅の暇つぶしになるだろうか? それに赤兎は静に悪意を向けずに淡々と作業をするので、その一点で宇は全く文句もない。
こうして宇たちは飛と赤兎に護衛されて、息抜きの街歩きをしていたのだが。
「ねぇ、あの花の絵の板をまた見るね」
ふと静がとある光景を指さした。その指の先にあるのは、店先に掛けられている両手で持つ程の大きさの看板である。その看板に白い百合が描かれているものが、確かに先程から良く見受けられた。
「そう言えば、そうだね」
宇は興味がないので全く気にしていなかったが、あの白百合の看板はどれも真新しいものであったのは覚えている。
「ははぁ、あそこもか」
これに訳知り顔で眉を上げて見せたのが飛である。
「あれはなに?」
静が問うのに、飛が少し声をひそめるようにして答えた。
「あの花の看板は、とあるお妃様のお気に入りだっていう証ですよ。白百合は叶賢妃の印だな」




