704話 こちらも仕事中につき
ところで、どうして双子が小奇麗な格好をしておっさんを見飽きているのかというと、仕事だからである。
長い間の東国被害で困窮している苑州は、当然のように領地の資金は空っぽに近い。大偉へ宮城から支払われる皇族手当やら、それ以外での個人的な蓄えやらはあるらしいが、大偉個人の金を当てにして領地運営をするのは不健全である。そのため苑州の生産品を基に支援を取り付けようと、都の大店から小売商までを手当たり次第に巡ろうというわけだ。
この手の話し合いには大偉よりも宇の方が向いているだろうと、他でもない大偉から頼まれたのである。
――正直面倒だけれど、このくらいはしてあげてもいいかな。
宇としては、時間を奪われるばかりで興味もなく面倒であった大公業を大偉が代わってくれたわけだから、多少の苦労くらいやってあげても罰は当たるまいと思ったまでだ。むしろ苦労はついでで、静との都散策が主目的であるのだから。会合相手のおっさんたちを蹴散らして、静から褒められれば苦労も消し飛ぶというものである。
おっさんに会いに行くのに、静は留守番している方がいいのではないか? という飛からの意見もあったが、静の勉強のためと、現在は毛露がいないので、安心できる保護者なしに静を一人にしたくないという面もあって却下となった。
露が双子と離れて大偉に同行することになったのは、移動のためである。
大偉が苑州に戻る際に難題となったのが、ダジャルファードが把国の同胞を連れている分、行きと違って帰りの人数が増えている点だ。大人数で街道の整備すらされていない道を行くには時間がかかるし、そうなれば当然、水や食料を余計に持ち歩かなければならず、相当な出費となるのだ。それになにより、苑州大公である大偉が領地を空けっ放しなのは良くない。
それを解決するのが、苑州の山中に張り巡らされている隠し通路である。けれどあれは何家忠臣の毛一族である露がいないと使えない道だという。露としても双子と離れることをかなり迷ったものの、宇からも説得されて頷くことになった。
なにしろ、ダジャルファードが保護できた同胞の中に、確保しておくべき職能の一族がいたのだ。
彼らは把国で起きた暴動の中から運よく逃げ出すことに成功し、逃亡の協力者と共に海に出て、佳にたどり着いた。己の技能を東国に奪われるわけにはいかないという使命感で、海をさ迷いながら逃げ切ったのだ。
それというのも、彼らの職能は貨幣造りだからである。この技術が敵国に渡れば、偽造貨幣が作り放題であるため、国から最も手厚く保護されていた一族なのであろう。実際ダジャルファードも、彼らが逃亡者となっていることに非常に驚いていた。
――苑州と相性が良くていいんじゃないの?
隣の青州では石を使った細工が盛んであるのだが、苑州は細工ではなく、もっと大きな工作が売りであった。苑州で主に作られているのは、石像である。そもそも青州と苑州では、産出される石の種類も違ってくる。しかし金属加工に適している石が採れないわけではなくて、むしろ使う技術を持っていないから持て余し、安く売られている代物であった。そちら系の職人が居つくには環境が過酷過ぎて、どうしても楽に暮らせる都近くの里へと流れてしまうのだ。
そこに現れた貨幣造りの職能持ちとは、金属加工の腕があるということでもある。今の苑州には喉から手が出る程欲しい人材であり、苑州の復興の役に立ってくれるに違いない。
――それに故郷に帰らず、このまま居ついてくれそうだしね。
彼らから話を聞けば、やはりというか、把国の民は東国の奴隷となり果てたようだ。たとえ貧しくとも自らの能力を生かして生活できるのであれば、苑州に骨を埋める覚悟だという。どうやら逃げ出すまでに、余程の光景を見てきたらしい。




