701話 掃除係、張り切る
このようにして始まった皇后宮の掃除であるが、それに加えて酒宴部屋としての用途が続く一室の整え方を、なんと掃除係に任されたのだ。呉曰く、「あらゆる屋敷に出入りしている掃除係の審美眼を頼りたい」とのことである。
――やっぱり、皇后陛下も内装がアレだとは思っていたんだな。
けれど本人がそもそも酒を嫌々飲んでいたわけだから、酒宴部屋を品良く整えようという気にならなかったのかもしれない。
呉としては菊祭りまでには使い物にしたいらしくて、掃除係の人海戦術で頑張っているところだ。皇后宮としては部屋を整える人手が足りないので外部に頼ったのかもしれないが、それでもこうも言われて奮い立たない掃除係などいないのである。
そんなこんなで張り切って作業する雨妹たちは現在、片付けの作業で酒宴部屋から大量に出た内装の飾りを、班長の指示で広い場所に全て集めて、飾りの色別に仕分けしているところであった。その色分けした物を見た班長がこうした内装が好きな宮女と話し合い、酒宴部屋を仕上げるのにどの色合いで統一するかを考えている。
「よし、黒にしよう」
そうやって色を決めたところで、そこからどれを使うかをまた仕分ける。黒と言っても真っ黒から茶色に近い黒まで色合いに幅があるので、その幅を持たせればあまり重たくはならない。
「皇后宮の建物は赤色が多いんで、黒色を使うと雰囲気が締まりますね」
雨妹は椅子を運びながら、同じく椅子を運ぶ同僚と話す。この国で赤色とは繁栄と幸福を象徴する特別な色であり、公共施設に使われることが多い。そして皇后宮は公共施設に近い建物なのだ。
「逆に紫は駄目ね、使い方を間違えると下品になるわ」
「確かに~!」
その同僚がそう返すに、雨妹は大いに頷く。紫はやはり、お洒落上級者の色なのだ。
こうして掃除係が再使用する物以外は、皇后宮の方でも必要かどうかを選別して、必要ないと判断された物は後日に掃除係が引き取ることになる。これらの品は以前に雨妹がそうしたように、市場で売って他の宮で日の目を見るのはもちろん、数が多いと内城や外城にも流れていくそうだ。皇后宮で使われていた品となれば、きっとそれだけで客を呼ぶことが出来るだろう。
そうやって雨妹たちが運び込んだ物を、早速部屋に設置していく。
「その吊り灯りは大き過ぎない?」
「一回り小さいのがあったはずよ」
「ちょっと、棚はあちらに置くの!」
「なんか、この辺雑に見えない?」
あちらこちらで声が上がり、多少の言い合いに発展することもあるが、掃除係の皆はこの滅多にない種類の仕事を、大変ではあるが楽しそうに作業していた。
この掃除係の仕事を、皇后宮の面々もチラチラと眺めに来ている。それも以前のような冷やかしではなく、一体どんな部屋に仕上げているのかという好奇心によるものであるようだ。その中の一人に、新入りの洗濯係の宮女がいた。
「はぁ~、違う部屋みてぇだ」
雨妹は呆けた声が近くから聞こえて振り返れば、洗濯物が入った籠を抱えた野猫が窓の外に立っているではないか。
「野猫、今からそれを洗濯?」
「おう、薄いのなら日が沈むまでに乾くからな!」
その姿に雨妹が声をかけると、野猫がにぱっとして答える。
掃除と同じように洗濯も天気に左右される仕事なので、洗濯が出来る時に無理をしてでも洗って干すのが通常らしい。乾き難いものから順に洗っていく手順も必要で、その辺りの時間調整はなかなか気を使う仕事なのだ。そのやり繰りが上手い人が出世していくのだろう。野生が強そうな野猫が、果たしてその洗濯係としてのやり繰り上手になれるのか、そこは雨妹にもわからないけれども、応援はしたい。




