695話 双子が来た
「お祭りって楽しいね!」
「祭りは前段階がむしろ楽しいんだよねぇ、僕って」
静がニコニコして言うのに応じる宇も、機嫌よく笑っている。確かに祭りの前準備も楽しいもので、人によっては祭り本番はやることがごちゃごちゃして楽しめないという場合もあるだろう。
それから雨妹と宇は露店の月餅にかぶりついている静から少し離れ、会話が聞かれ難いように通りに背を向けて座り、内緒話の準備をする。
「それで? 大変な目に遭ったって?」
「そうなんだってば」
早速宇がそう切り出してきたのに、雨妹はため息を吐く。
雨妹たちの会話に立勇と飛が耳を澄ませているが、そちらは気にしないことにして、雨妹は揚州からもどってからの騒動についてかいつまんで説明する。今回の騒動で抱えたモヤモヤを解消できるのは、やはり宇しかいない。だから彼が都に寄ってくれたのは好機なのである。
「……ってことで、もう陳先生が忙しいのなんのって」
「ははぁ、東国の置き土産はしぶといねぇ。皇后陛下は災難だったことだ」
まずは皇后宮の騒動の顛末に、宇がクッと口の端を上げて笑う。
「クスリっていうのは一旦流入すれば、撲滅なんて不可能だ。一番簡単な方法は使わないこと、入れないことだよ」
前世で裏稼業組織を率いていた宇が言うのだから、言葉に重みがある。そして宇の言う通りならば、これからも後宮内で麻薬騒動が起きるかもしれないということで、雨妹としてもげんなりしてしまう内容だった。
そうそう、聞こえてきた話によると、刑部に捕まっている馬はあれからさらに周辺の調査が進み、大麻香の仕入れ先も特定されたが、既に逃げられた後だったという。刑部はその仕入先を、東国の息がかかった商人であったと見ているようだ。
加えて馬と同じく刑部に捕らえられた側近たちからの聞き取りも進んでおり、それによると自分たちが大麻香に汚染される危険性の認識が大変甘かったそうだ。馬が大麻香を手に入れたきっかけである従妹が残した情報に、その辺りの事がなかったのだろう。
皇后殺しを企てるにはあまりにお粗末な馬であったが、大麻を始めとした薬物は人から思考能力を奪う。馬は大麻香との相性が、ある意味良すぎたのだ。
なんにせよ、問題の根本は未だ残っているというわけで。
「これからの刑部の働きに期待かなぁ?」
「さすがに三度目の騒動は避けたいんじゃない? 宮城側もさ」
がっくりと肩を落とす雨妹を、宇がそう慰めてくる。
そしてさらに、燕淑妃宮についての話に移るのだが。
「燕家ってホント謎! 宇くんは燕家のことをなにか知っている?」
「古い家柄ってことくらいは聞いたことがあるけど、取っ付きにくそうではあるよね」
宇はそう言ってからしばし考えるように沈黙したかと思ったら、雨妹に悪戯っぽい目を向けてきた。
「ねえ、話によると燕家は確かに内乱でやり過ぎて、下手を打ったとは思うけど。本気で内乱後に皇太后陛下をどうにもできなかったと思う?」
「……というと?」
宇がなにを言わんとするのか本気でわからず、眉間に皺を寄せてしまう。その背後では、立勇と飛がピリッとした顔で周囲を気にし始めたことに、雨妹は気付いていない。そして気付かれても気にしない顔の宇が、ズバリと切り込む。
「そもそも、燕家は御家の道士たちの力を使い諸侯たちを癒し、戦を止める方向へ導くことも可能だったはず。先代皇帝の御世でその血筋を終わらせ、自らが新たな主家の血筋となり国を興すことも夢ではなかった――なんでそれをしなかったんだろうね?」
そんな謎かけをされても、雨妹の脳ミソは降参の旗を振っている。
「私の得意分野は後宮のドロドロであって、国の興亡のドロドロは専門外なんだって!」
「なんの得意分野だ、それは」
雨妹の愚痴について、立勇の突っ込みが聞こえてくるが、国の興亡のドロドロが専門な中華オタクである宇がそれを無視して話を続ける。




