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68話 利民という男

 さらに立勇が話を続ける。


「宮女であっても宦官であっても武人であっても、人は数人寄れば下世話な話をしたがるもの。

 だがそれを客人の前では禁じて上手く取り繕わせるのは、宮の主、すなわち太子殿下がすべきこと。

 太子殿下の意向があり、次に夫人方の手腕が問われるのだ」


今の内容を、雨妹は脳内で整理する。


「つまり、使用人たちが潘公主や私たちを軽んじるのは、利民様が軽んじているからだということですか?」


「もしくは、こうした皇族批判が日常であるため、大した問題と考えていないのかもな」


 ――ああ、そういうことってあるかも。


 自分の常識を他人にも常識だと考えてしまう人というのは、世の中には一定数いる。

 皇族への悪口を些細なお喋り程度にしか考えていなかったら、咎めるという発想すらないだろう。


「それにおそらく利民殿は、屋敷の中のゴタゴタに興味がないのだ」


立勇の口から出た言葉に、雨妹は眉を上げる。


「興味がないって、自分のお屋敷でしょう?

 揉め事が起こらない方が快適でしょうに」


しかしこれに、あっさりと立勇が返す。


「黄家の男はほとんどが船乗りだ。

 だから屋敷ではなく、船の方に生活の重点を置くらしい。

 屋敷でのことが面倒になれば船に乗ってしまって、しばらくして事が納まった頃に帰ればいい、ということだろうな」


実際、今日だって利民は既に屋敷にいない。

 船に乗って数日戻らないと言っていたとか。

 太子が残した客人が滞在しているにも関わらずだ。

 雨妹は今朝、利民の所在を使用人に尋ねた際に、「いつ戻られるかわかりかねます」と当然の顔をして言われた時は、なにを言われたのか理解できなかったものだが。


「仮にも公主を娶った人なのに、それでいいんですか?」


「よくはないだろうな。

 だから太子殿下も心配して、様子を見にこられた。

 病気見舞いというのは表向きの理由で、黄家の跡取り息子を見極めるつもりだったのだろう」


なるほど、そんな事情もあったとは。

 そして利民の問題点はまだある。


「その上、潘公主が黄県主にいいように言われているにもかかわらず、なにも言葉を補えていないことも、懸念されるべき点だろうな」


「ああ、それもありましたね」


黄県主という黄家のお偉方が来たのなら、誰もその場に立ち会っていないはずがない。

 潘公主に厳しく接している様子くらい、たとえ潘公主本人が黙っていても耳に入っているだろうに。

 利民がそこで潘公主を励まして「一緒に頑張ろう」と言えていたら、彼女はあんな風になっていなかったのではなかろうか。

 雨妹はどうにもここまでの話の中の利民から、駄目男な空気を感じる。


「利民様ってもしかして、女の扱いに疎い方なんですかね?」


雨妹の疑問に、立勇が微妙な顔をした。


「先程も言ったが、黄家の男は海の男だ。

 船の上での統率力は発揮できているから、この港を任されているのだろうが。

 当然ながら船上にいる者は、全て男だな」


 ――ああ、野郎だけで群れて今まで来ちゃったタイプか。


 それはさぞかし女に疎そうだ。

 心配を口にしつつも、あんなになるまで潘公主を放っておいた利民である。

 それもこれも黄家の女との確執による心労なのだが、果たして利民がどれだけ理解できているのか。


「うーん、だとするとそもそもの問題は利民様ってことに……」


首を捻る雨妹に、立勇も軽く息を吐く。


「利民殿が女の扱いにある程度長けていたなら、おそらく黄家内の娘を娶っていただろうな」


皇帝と対立するお土地柄の黄家である。

 もし利民が黄家の娘を娶っていれば、一族は皇帝の横やりを受けることもなく、丸く収まっただろう。

 それなのに嫁を黄家ではなく他所から連れて来た件を鑑みるに、利民は一族の女性を御する能力がいまいちだと、黄大公に判断されたのではないだろうかと推測される。

 となれば潘公主が痩せただけでは、問題解決とはならないだろう。


 ――父よ、もっとお姉様の結婚環境に興味を持ってあげて欲しかった!


 皇帝も公主なのだから、屋敷の使用人を全てこちらで整えるくらいしてあげればよかったのに。

 黄家との衝突を考え、変に遠慮してしまったのかもしれない。

 家財道具などをたくさん贈っても、人間関係で躓けばどうしようもないだろうに。

 これは、潘公主が痩せたらお仕事完了、というわけにはいかなくなってきた雰囲気である。

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