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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十四章

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672話 再びやって来ました

雨妹ユイメイチェンイェン女史と共に軒車に乗り、郭比グォ・ビが御者席に着く。皇后宮であんなことがあったばかりなので、外の警戒のためにも立彬は軒車の横を徒歩で行くことになった。

 そんな中、移動中の軒車内はどうなっているかというと。


「「「……」」」


乗客の三人ともが無言であった。

 雨妹と陳は、下手なことを話して燕女史に途中で逃げられるのではないかと考えていた。燕女史の診察避け癖が「なんとなく面倒で」という軽いものではなく、本人なりの信念があった場合を想定してのことである。それにここで素直に「わかった、診察してもらおう」と考える人ならば、そもそも最初の時点できちんと診て薬なりを出せているのだから。

 一方燕女史はというと、雨妹たちに妙なことを言って、燕淑妃宮の不利な情報を流すわけにはいかないと思ってのことであろう。

 つまり、軒車の中は三人ともに息のつまる空間であったわけだ。


 ――私も立彬様と一緒に外を歩けばよかった!


 いや、最初雨妹もそのつもりだったのだが、安全のために中に入るように言われてしまったのだ。

 けれど幸いにして軒車内の雰囲気以外は何事もなく、雨妹たちは燕淑妃宮の表門に到着した。


「門を開けよ」


相変わらず閉ざされている門を、郭比が門番に声をかけて開けさせると、雨妹たちはすんなりと中に入っていく。そしてようやく止まった軒車を降りた雨妹たち三人が同時に深呼吸してしまったのは、まあご愛敬だろう。

 軒車が着けられたのは燕淑妃宮の離れのようで、目の前には出迎えの表情の硬い宮女たちがずらりと並んでいた。


 ――出迎えっていうか、威圧の壁みたいなんだけど。


 雨妹が貴妃の仮の姿のお供としてお邪魔した時と雰囲気が違うので、多少戸惑いがある。案内されるのが母家ではないのは、やはり余所者を警戒してのことかもしれない。

 今は特に太子の側近である立彬がいることも大きいのか、警戒する視線がそちらに多く刺さるような雰囲気を感じる。余所者を嫌うのであれば、むしろ立彬が門で止められる可能性もあったのだが、よく一緒に通されたものだ。燕淑妃と仲の良い伊貴妃の幼馴染の息子、という近いようなそうでもないような繋がりが効いたのだろうか?

 なんにせよ、こちらが燕淑妃宮の表の顔ということなのだろう。前に雨妹がこの宮で見たのは、内々の客人へ向ける顔だったわけだ。

 雨妹がそんなことを考えている間に、郭比は出迎えの者の一人と小声でやり取りをしてから、こちらを振り向く。


「さあ、主が待ちかねているようなので、参りましょう」


そして固い空気の中で一人朗らかな郭比が、雨妹たちを急き立てるようにして案内していく。やがて到着した部屋の前で、雨妹たちは改めて身なりを気にして整えるのだが。そういえば頭巾を着けっぱなしだったことに、雨妹は今更気付いた。


 ――出迎えの人たちの態度がアレなの、ひょっとして私も原因かな!?


 さすがに布マスクは外していたが、自分たちの宮の筆頭女官が乗る軒車から頭巾をかぶった宮女が出てくれば、「なんだこの娘は?」となるかもしれない。雨妹は招かれた身としてはこれを取った方がいいのだろうかと考えるものの、そうなると自分の青い目がよく見えてしまう。


 ――青い目恐怖症な燕淑妃には駄目かも。


 前回会った際にこれを克服したかもしれないし、時間が経って元通りかもしれない。なので雨妹は結局このままでいることにして、むしろ頭巾を目深に調節する。

 雨妹たちの準備が整ったと見て取った郭比が、部屋の扉を叩く。


「客人を連れて参りました」


郭比がそう告げてから少しして、部屋の扉が内側から開かれる。

 すると扉の正面にある大きな窓から庭園の池が望めるその部屋の奥で、燕淑妃がツンと澄ました余所行き顔で椅子に座っていた。


「よく来られました」


雨妹たちをじっくりと眺めた燕淑妃が、短い言葉ながらも、鈴を転がすようなという表現がよく似合う声でそう言ってきた。これに後宮の上位にいる女たちを見慣れているであろう立彬ですら、息を飲んだのがわかる。やはりここまでの美人とは、慣れでどうにかなるものではないようだ。

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― 新着の感想 ―
素朴な疑問なのだが、公的(?)には秀玲の息子は立彬と思われているのか、立勇と思われているのか、どっちなのだろう。 少なくとも後宮内では立彬が息子だと知られてるって感じ?
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