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66話 料理人たち

 厨房に入ると、作業中の他の料理人たちの視線が刺さる。

 けれど雨妹はそんなことが気にならなくなるくらいに視線を釘付けにされるモノが、台の上に置かれていた。

 それは、新鮮ぷりっぷりの魚である。


 ――さすが港町、お魚が綺麗で美味しそう!


 この辺りでは魚を刺身で食べたりするのだろうか?

  漬け丼なんて前世で大好物だったので興味を惹かれるものの、そこをぐっとこらえてお仕事だ。

 雨妹は魚から頑張って視線を引き離すと、料理長に向き直る。


「料理長、(パン)公主のこれからのお食事についてですが」


「ああ、昨夜のお食事は召し上がられているようだし、このまま続けるのか?」


雨妹が話を切り出すと、料理長がそんなことを言う。

 実は先だっての宴の際に、雨妹は潘公主の夕食の相談に来ていたのだ。


 ――あの時も揉めたなぁ。


 雨妹は昨日の出来事を思い出す。

 料理長も最初は当然、外部からの口出しを嫌った。

 「素人が口を挟むんじゃねぇ」という事だろう。

 しかし粘って交渉する雨妹の話が間違った内容ではないと認めると、聞く耳を持つようになる。


「潘公主に、栄養があって美味しい粥をお願いします」


「粥か、どうするかな」


最後には雨妹の注文に、料理長が早速粥をどう作るかを思案し始める。

 けれどこの時、厨房の敵はまだ他にもいた。


「粥なんてものは、見習いに作らせるものでしょう。

 そんなことのために料理長の時間をとらないでいただきたい」


作業中の料理人たちの中から年嵩の男がそう告げると、隅で作業する見習いの料理人を顎で指し示したのだ。

 この話はあちらに持っていけと言いたいらしい。

 この意見もわからなくもない。

 料理人であれば腕が上がるほど、難しい料理を担当するもの。それが黄家の大公候補のお屋敷の料理人ともなれば、宴の料理でこそ真価を発揮するのだろう。

 一方で粥のようなものは、見習いの仕事なのだ。

 しかし、粥を食べるのは潘公主なのだ。

 それを「見習いでいいだろう」と言ってしまうのもどうなのか。

 そしてこれに、料理長は頷かなかった。


「公主様のお食事は、俺の仕事だ。

 宴の料理は大方仕込み終えているから、盛りつけは任せる」


ぴしゃりとそう言われた男は、不満そうな顔をしていたものだ。

 そして現在、彼は納得していなさそうな様子でこちらを見ている。

 気にならないわけがないが、ここは外野を意識しないことにして、料理長と話をする。


「潘公主は体調を崩される前の食事は夕食のみで、しかも結構重めの料理だったと聞きました。

 それを夕食を軽めに、そして朝食をきちんと召し上がっていただけるようにしたいのです」


雨妹の話に、料理長が難しい顔をした。


「朝食ねぇ、今まで出したことがないんだが。

 当初から『必要ない』とおっしゃられていたからな」


「はい、潘公主は朝が苦手な体質だというのは確認しています。

 けれど湯菜(タンツァイ)であれば召し上がるとのことでしたので。

 体調を戻すためにも、少しでも栄養のあるものを朝から食べていただきたいのです」


そう告げた雨妹は、朝食で野菜の湯菜と、夕食で胃に優しい食事を用意してもらえるように頼んだ。


「夕食ではできるだけこってりした料理ではなく、蒸し料理などがいいかと思います。

 特に牡蠣料理をお勧めしたいので、内陸の人にも受け入れられるような料理にできますか?」


「牡蠣なぁ。あれは癖があるが、なんか考えてみるか」


こうしてとんとん拍子に進む料理長との話だが、気に入らない様子なのが他の料理人たちだ。


「料理長は、なんで素人の言うことを聞いているんだ?」


「都から来た奴はこれだから……」


そんな微妙に聞こえる大きさのヒソヒソ声が聞こえてくる。

 ちなみにこの「都から来た」というのは、雨妹と立勇だけではない。

 実は料理長も、潘公主の結婚のために都から引き抜かれた人なのだ。

 「今まで食べ慣れた味の方がいいだろう」という、利民の心遣いらしい。

 ならばそれまでいた料理長はどうしたかというと、副料理長に納まっている。

 そして副料理長というのが、粥の件で口出しをしてきたあの年嵩の男だった。

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