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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十四章

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652話 違和感の理由

 それにしても、マーは次席女官に選ばれるのだから、いくら人手不足とはいえそれなりの実績があってのことだろうに。それなのに彼女の礼儀が感じられないあの振舞はなんなのか? そう考えて、ふと思い至る。


 ――そうか、大麻香のせいかも。


 馬が皇后の身辺に誰も寄せ付けず自身が侍るということは、馬自身も大麻香の影響を受けるということである。馬は大麻香がどのようなものなのか、ろくな知識もなく使っていたのかもしれない。皇后のように長時間使用されるのではなくても、あの香が立ち込める寝所に頻繁に出入りすれば、馬だって被害に遭うのは当たり前だ。

 雨妹ユイメイはそう思い至りながらも、彼女に構わず言葉を続ける。ここからが肝心の話なのだ。


「皇后陛下がお休みになるにはふさわしからぬ環境であったので、少々片付けを行わせていただき、その際、皇后陛下を苦しめているであろう問題の香を発見しました。それがこちらでございます」


雨妹は懐から大麻香を包んだ手巾を取り出し、叩頭したまま頭上に掲げ持った。


「受け取れ」


父からの指示で傍に侍っていた宦官が寄ってきて、手巾を受け取り父の元へと戻っていく。そして父は受け取った手巾に包まれた香を嗅いで、眉をひそめた。


「独特な匂いであるが、ちと臭いか。この香が、害ある物であると言うのだな?」


いよいよ核心を父に促され、雨妹は真っ直ぐにその目を射抜くように見る。


「はい、チェン先生も確認しました。それは大麻香、人の心を惑わせる作用があり、専門知識を持つ者しか取り扱ってはいけない代物です」


雨妹がはっきりと告げると、馬は怒りと混乱が突き抜けたのか、一瞬表情が抜け落ちた後、懸命に絞り出すように声を上げた。


「でたらめです! 皇帝陛下、耳を傾けてはなりません!」


けれどその言葉に重みは全く感じられず、雨妹はさらに畳みかける。


「先だって教坊が発端となっての騒ぎとなった物と、似た結果をもたらす品でございます。ですが、医師などの専門職が使えば人を救う薬です。必要とする者が正しく使用できなくなる前に、どうか皇帝陛下のお力をいただきたく思います」


しかし、馬もまだ足掻くように必死の形相で訴える。


「皇帝陛下、どうかわたくしを信じてくださいませ! その者は悪意を吹き込もうとしております!」


そこへ、父はようやく馬をジロリと見た。


「悪意かどうか、決めるのはお前ではない、朕である」

「ひっ!」


父の視線に威圧を感じたのだろう、馬が慌てて床に伏せて微かに身を震わせる。


「これを調べさせよ」


父がそう言って手巾を再び宦官に手渡すと、宦官はその手巾を持って下がり、他の者がもっていた小箱に仕舞わせる。大事な証拠を隠滅させないためであろうが、さすが用意がいい。これで馬は証拠を有耶無耶にできなくなった。


 ――けど私の手巾ごと仕舞われちゃったや。


 仕方ないとはいえ、そう言えばあの手巾は汚れていなかっただろうかと、今更気になったがもう遅い。汚れていても、調べる人が気にしないでいてくれることを願いたい。


「何故だ、何故こうなったのだ……!」


一方で、馬が床をかきむしるようにして嘆いている。


「次席女官には詳しく話を聞かねばならぬ。連れて行け」


続いてされた父の指示で、馬は両腕を掴まれて立ち上がらされ、ずるずると引きずるように連れていかれてしまう。その後姿を見ても、雨妹は全く同情を感じない。


『もしくは、そろそろ不必要になる予定であるかだ』


この立彬の言葉が、雨妹の頭から離れない。

 いくら皇后を大麻香で心神喪失させて身体を弱らせているとはいえ、死亡するかは皇后の体力次第、つまり馬にとっては運次第だ。体力が費えるのをここまで仕出かした馬がじっくりと待つとは思えず、きっと近いうちに手っ取り早く死を与えようと手を下したであろう。

 雨妹とイェン女史が大麻香の香に気付かなかったら、皇后が心神喪失の末に病んで死に至ったと馬が申告しても、誰もその死因を怪しまなかったに違いない。ここのところの後宮の大騒動も、その嘘を真実であるかのように押し上げてしまう。


 ――真面目に勤めて女官として信頼を得て、堂々と活躍するのでは駄目だったの?


 馬が皇后宮の筆頭女官として立派に仕事をしていれば、ウーも派遣されて来なかったかもしれないのに。皇后という身分は、それ程に魅力的だろうか? 雨妹には全く理解できない気持ちである。

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― 新着の感想 ―
>馬は大麻香がどのようなものなのか、ろくな知識もなく使っていたのかもしれない。 と書かれているが、それはおかし過ぎる。 心神耗弱させるために大麻香を焚いたという事は、 ・大麻香の効果を知っている ・使…
物凄い煙だったみたいですし(もはやボヤでは?)そりゃ他の人にも影響は出ますよね。 毒物ではなく毒ガスみたいなものですから防ぎようがないですし。 これはもう皇后宮は総入れ替えにしないと駄目なのでは? 皇…
更新お疲れ様です。 あー、副流煙ですか・・・ 確かにその可能性はありますね Σ(・ω・ノ)ノ! 馬次席の他、馬次席が手伝わせていた取り巻きにも影響が出ている可能性がありますねぇw だから自分の都合の…
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