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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十四章

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639話 行動開始

雨妹ユイメイはまず皇帝の御渡り一行の出発地点である、宮城へ続く門前にやってきたのだが、発見後すぐ立彬リビンから捕獲された。


「今更だと思うが、口には気を付けた方が良いぞ」


立彬が雨妹の頭をがっちり掴んで、最高に渋い顔で見下ろしてくる。彼はこの皇后宮での騒ぎの発端を、先日雨妹が自室で好きに語ったおしゃべりではないかと怪しんでいるのだろう。確かに偶然の一致と片付けるには苦しい流れである。けれど雨妹は負けじと言い返す。


「いえ、私は無罪を主張します!」


雨妹が今ここにいるのは、なにか大きな力に巻き込まれたのである。その巻き込む渦に自ら近付いたことは認めざるを得ないが、少なくとも渦に飛び込むまではしていないはずだ。そこは大きな違いだと思っているがどうだろうか? ささやかな足掻きだろうが、大事な点である。


「ところで、どうして立彬様はここにいるんですか?」


立彬は皇帝付きの宦官に紛れているようだが、何故に太子付きの宦官が駆り出されたのか? この疑問に立彬が答えるには。


「私は、お前の暴走担当だ」


なんとも心外な申告をされてしまった。雨妹が暴走することが計画に組み込まれているなんて、誠に遺憾である。

 こうして顔を見るなり口論を始めた立彬の一方で、雨妹よりも先にこの場に来ていて、ずっと具合が悪そうな人がいる。


「胃が痛い」


しきりに胃を押さえるチェンであった。これから大物を診察する医者には見えず、むしろこちらの方が病人っぽい。


 ――まあねぇ、これから会うのは後宮で最高位の女性だものねぇ。


 本来、医官が診ることなどあるはずのない身分の患者である。陳のことだから、いざ診察となればいつも通りに戻るのだろうが、それまでの待機時間が地獄のようだ。こうなればもうさっと行ってぱっと終わらせるしか、陳を楽にする道はない。


「大丈夫ですって陳先生、患者が誰であろうと、芋か牛蒡だとでも思えばいいんですよ!」

「いや、思い込みで解決するには無理があるだろう。いっそ気絶してもらって身体を運ぶ方が楽か?」


雨妹のそうやって励ますのに、しかし立彬から突っ込みが入った上に、提案する手段が乱暴である。


「雨妹の胆力を、私も分けてもらいたいよ」


立彬とやり合っている雨妹に、陳がそう言って力なく笑った。

 ところで、医官の陳が一般の宦官の格好をしているのは、医者と勘づかれないためらしい。皇帝が医者を連れているとわかると、真の目的を察知されて妨害されるかもしれないのだ。さらに言うと、この行列に参加するほとんどの人々は、皇后宮へ向かうこと以外、これがなんのための行列なのかよくわかっていないようであるのがわかる。


「この行列の目的を知るのは少数のようだな」


周囲を見渡した立彬がそうひそりと告げた。


 ――敵がどこまでの規模なのか、わかっていないもんね。


 そんなわけで、陳が重圧でものすごく緊張している中、皇帝一行がようやく動き出す。念には念を入れて、雨妹と陳は目立たないように、皇帝の行列の最後尾辺りについての移動である。

 先頭が進み出してからしばらくして、雨妹たちも最後尾を歩いていく。皇后宮は宮城に近い位置にあるので、ゆったりと歩いてもすぐに到着した。本当に規模を見せつけるだけの行列であるし、皇后宮へなにも先ぶれを与えない突撃訪問でもある。


 ――これが皇帝じゃなかったら、「無礼だ!」って門前払いされちゃうよね。


 皇帝の威で門を通させた皇帝一行は、雨妹たちが到着した時には皇后宮の外まで溢れており、一部の者がさり気なく皇后宮の出入りを塞ぐように動いている。それを横目に見ながら、雨妹と陳は立彬を盾にするように人混みをかき分け、皇后宮に入っていく。

 当然ながら、中でも大騒動であった。


「皇帝陛下、陛下のおなりです!」

「聞いておりません!」

「誰か、誰か呼んで来なさい!」


皇后宮側は皇帝の面前とは思えないくらいの騒々しさで、出迎えの整列すらできない有り様であった。

 皇后宮も皇帝が大行列を作っているという情報は得ていただろうが、まさかそれが自分たちの宮へ来るとは予想しなかったのだろう。なにせ、皇帝と皇后の不仲は有名だからだ。目的地が皇后宮であるとようやく知れてから準備しても、到底間に合う距離ではない。


「情けない、落ち着きがなさすぎであろう」


その様子を見て立彬が呆れたため息を吐く。


「こういう時に発言力を持つ人手が、あの騒動で排除されたのかもしれませんね」


雨妹もあまりに浮足立っている雰囲気に、眉をひそめる。場を締めて統率できる人員がいないのがまるわかりである。

 というよりも皇后宮はそもそも、上位の者を出迎えることに慣れていないのかもしれない。かつて不仲の皇帝はこちらを滅多に訪れず、そうなると皇后よりも上位の存在は皇太后しかいなかった。そして皇太后は子分の元へ自ら足を運ぶよりも、自身の宮へ呼びつける方を好みそうではある。だからそうした訓練をあまりしていない可能性はあるだろう。

 それでもなんとか場を整えたところで、ようやくウーが現れた。


「これは皇帝陛下、お帰りなさいませ」


呉がそう言ってにこやかに微笑んで叩頭をするが、その後からあの次席女官のマーは現れる様子はない。


 ――あの人は今、狭間の宮にいるはずだものね。


 皇后宮への重要な客人が訪れており、その応対を必ず馬自身がすると踏んでのことだ。もちろん、これも仕組んだのだが。

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