表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
628/628

624話 生き抜け……なかった!

そもそも皇后と皇帝との仲が拗れた原因は、あの皇太后の存在が主だろう。だがそれ以外にも、若い父にそもそも後宮管理に関する知識が乏しかったこともあると、雨妹ユイメイは思うのだ。父もその配下もやっと戦いを終わらせたと思ったら、後宮というこちらもある意味戦いが待っていたわけである。戦場での情報収集とは勝手が違うので、さぞかし苦戦したに違いない。

 当時の父が考えて実行できたことは、おそらく「太子を決まり通りの家から誕生させる」という一点だけ。太子以外にも、戦乱で失われた皇族の数を増やすことが求められたわけだが、どの家となら子をなしてもよくて、どの家と子ができるのが拙いのか、そのあたりの情報は少なかっただろう。

 父自身が太子選定のゴタゴタのせいで苦労したのだから、せめて次代は盤石にしてあげたい。それで強引に連れて来させたのが伊貴妃で、邪魔になるからと遠ざけたのが皇后だ。

 だがその皇后も、考えてみれば可哀想な立場ではある。皇太后から「何故まだ子ができないのか」と責められ、皇帝からは皇太后の手下だと忌避された。「子どもさえいれば、誰も自分を責めない」と思い込んだ末に産んだのが、あの大偉ダウェイなのだろう。

 それにその大偉の父親が皇帝ではないという噂についてだって、当時の後宮が戦乱期のなごりを引きずっていたから、その作戦がまかり通ると考えられたのかもしれない。

 先代皇帝が色事に大変強かったらしく、その頃の後宮は今とは比べ物にならないくらいに大勢の女が溢れていた。そうなれば後宮管理が行き届かずに、外から男を連れ込むことが常態化していたのかもしれない。「英雄色を好む」という話もなくはないことから、あの父のことを皇太后と皇后は「似たようなものだろう」と高を括った可能性がある。


 ――きっと今の父なら、もっと上手い具合に後宮管理をできるんだろうけれど。


 戦乱の最中から直後で、若く未熟な英雄を食い物にしようと各家が牙をむいていた当時の情勢を思えば、誰も責められないように思う。

 そんなことを、雨妹が一人考えては頷いていると。


「あなたのそのまっさらな見方、わたくしは好きよ」


ウーがそう言って微笑んできた。


「あ、ありがとうございます!」


途中から完全に自分の中での考察に耽っていた雨妹は、そういえば呉からの質問の答えであったのだということを思い出す。けれど今の呉の言葉をその通りに受け取るのは危険だろうが、この場で罰せられる事態は避けられそうだ。


「あなた一度、宮に掃除にいらっしゃいな。ちょうど余分な部屋を処理しようと思っていたところよ」


さらには、呉が機嫌よくそのように言ってきた。


「……上司の指示があれば、伺いたいと思います」


社交辞令かもしれないし、雨妹はひとまずそう答えて逃げる。


「ふふ、ではね」


呉はこれ以上雨妹になにかを追及することなく、身を翻して去っていく。その先には質素な軒車が待っていて、呉の今の立場としては宮の中にも外にも敵が多そうな人なので、身辺に気を付けているのだろうか。

 雨妹がその軒車が去って見えなくなるのを見送っていると、気が付けば皇后の軒車行列もいなくなっている。つまり、危機は去ったというわけだ。口先で誤魔化すのは得意とはいえ、過去三本の指に入るくらいにドキドキした気がする。


「私、生き抜けた!」


なんて一人雄叫びを上げて、安心していた雨妹だったのだけれども――

 その翌朝のこと。


「皇后宮からご指名だよ、部屋の片付けをさせたいんだとさ」


ヤンから呼ばれたかと思えば、そう言われてしまった。


「ああぁ~」

「お前さん、なにをしたんだい?」


なんともいえないうめき声を上げる雨妹を、楊が憐れむように見つめてくる。

 これは確実に呉から来た話なのだろうが、まさか本当に声がかかるなんて、あれは社交辞令ではなくて本気だったようだ。しかも行動が早いったらない。


「なんにせよ、断れるわけがないから行ってきな」

「……ふあい」


というわけで、雨妹は気持ちをしょげさせながらもしっかり朝食をモリモリ食べたら、皇后宮へと向かうことになった。

 裏門に行けば雨妹のことは通達されていたようで、門番から通って良いと言われたものの、余所者を警戒するようにジロジロと嫌な感じに見られる。

 裏門を潜れば、その先に呉が待っていた。


「ふふ、昨日ぶりね」

「どうも」


機嫌の良さそうな笑みを浮かべる呉を見て、雨妹は逆に警戒心が高まる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ