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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十三章 新たな後宮模様

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617話 雨妹のおらぬ間に

明賢メイシェンが太子宮に戻れば、出迎えたのは秀玲シォウリン一人であった。


「明賢様、おかえりなさいませ」

「ああ。雨妹ユイメイはもう帰ったのかな?」


軒車から降りた明賢に付き従う秀玲に尋ねれば、「しばらく前に」と頷かれる。

 雨妹が今回、イェン淑妃宮への潜入に貴妃を頼ったのだが、それからどういう話の流れになったのか、明賢は関知していない。けれど本日いよいよ燕淑妃宮へ入れるという雨妹が、あちらの宮から伊貴妃宮へ「迎えが必要である」と連絡があったのを秀玲へ伝えられ、そこからさらに要請されて急遽、立勇リーヨンを寄越したわけだ。それで心配した明賢は早めに帰ったわけだが、その立勇の姿が見当たらない。

 それについて秀玲が説明する。


「あの子は念のために、雨妹を送って行かせましたわ」


確かに雨妹は伊貴妃宮に燕淑妃宮と、大きな宮に立て続けに入り込んでいるので、良からぬ輩に目をつけられていないとも限らないため、安全には配慮するに越したことはない。だが、事情はそれだけではないようで。


「時間的に夕食にでも呼ばれたら、お付き合いなさいとも言っております」

「おやおや」


秀玲が雨妹を甘やかしにかかっているので、どうやらなにか雨妹の気持ちを配慮する事態になったようだ。あの娘をもってしても、燕淑妃宮は一筋縄ではいかなかったということか。


「では、事は上手くいったのかな?」

「ふふ、それは後程お話ししますわ」


秀玲がそう言って微笑みで誤魔化すと、明賢の着替えを手伝って夕食の席へと案内する。先日はここに雨妹の姿もあって賑やかだったのが、今はお供が秀玲だけなのがなんとも物寂しい。

 そんな明賢の気分を吹き飛ばすように、秀玲が本日の出来事を語ってくれた。


「それでは雨妹は時間いっぱい、ずっと着替えさせられていたのかい?」


想像とは斜め上の展開に、明賢は思わず食事の手を止めてしまう。まさか燕淑妃にそのような趣味があるとは、明賢も初耳であった。


文芳ウェンファンの話だと、燕淑妃はチャン美人に似ている雨妹へ興味が湧いたようですね」

「それは……少々危ういかな?」


ここで張美人の存在が持ち出されたことに、明賢は眉をひそめる。

 皇帝に寵愛されたが、曰くある最期を遂げた張美人のことを、燕淑妃も見知っている。皇太后と度々揉めていた張美人だが、その行動の余波をいつも後始末していたのは燕淑妃であるのだから、ある意味こちらでも因縁の相手と言えよう。

 けれど、そこから雨妹の身の上が広く露呈してしまうのは、雨妹本人も、志偉も望んではいないだろう。


「ですが、文芳が上手くやってくれたようですわ」


明賢の懸念を察したらしい秀玲が、クスリと笑って述べる。


「雨妹は一見すると張美人に似ていますが、同じように着飾らせると、そう似てもいないことが鮮明になるのです」


確かに雨妹の普段の言動や表情は、生母のそれとはまったく違っている。だからあの特徴的な髪さえ隠せば、よほど見知った者でもない限り、血縁だと気付かれないに違いない。雨妹に敢えて張美人を演じさせたのならば、似ていると思えるのかもしれないけれども。


「というわけで、着飾った雨妹は燕淑妃のお見立ても素晴らしく、とても愛らしかったですわ」

「おや、それはいいところを見逃してしまったな」


秀玲がその時の様子を思い出してニコリとするのに、どうやら懸念するような事態は避けられたようだと明賢もホッとする。


「意匠の差し色に赤が入っていたのですが、その色を選んだのは文芳だったとのことです。雨妹には自身を主張する色が似あうのは、父君のお血筋でしょうか?」

「あの娘は私が知る兄弟姉妹の中で、中身が最も父上に似ているからねぇ」


明賢もこれには苦笑するしかない。

 もし雨妹が男児に生まれていれば、本人が望む望まないにかかわらず、父同様に戦乱に呼び込まれてしまっていたに違いない。女児の、そして皇族と認められていない生まれであるのは、生活面での苦労はともかくとして、戦乱を望まない雨妹の性格的には幸運だったのだろう。

 それにしても、明賢には意外なことがある。


「それにしても、母上と燕淑妃とで、どのような会話になるのか想像がつかないな」


そう、あの母が燕淑妃に対して物申せる立場であることが不思議であった。


「ふふ、あれで付き合いの長いお二方ですからね」


そのように告げて微笑む秀玲の方はというと、難しい顔をする明賢に「あらあら」と内心で苦笑してしまう。

 宮に引きこもっている文芳と距離をおいて育った明賢は、母親に対して夢というか、理想を見ているところがある。明賢が文芳の行動を全く知らないということはないはずだが、お互いに「迷惑をかけたくない」という意識が働いており、それが腹を割ってより親密に接することを阻害しているのだ。


 ――文芳も、妙な所で見栄を張るものだからねぇ。


 文芳も息子には少しでも良き母に見られたい欲があるようで、明賢と会う時にはつい格好つけてしまうのだ。

 互いに愛情はあるもののぎこちない関係性である母と子であるのだが、案外今回のことで、雨妹がこの母子の壁に隙間を開けるのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 そういえば一時期『一卵性母娘』等と言って、母娘で色違いの御揃いの服や小物を身に着ける事がはやったこともありましたねぇ・・・w 従姉妹や幼馴染に、一卵性双生児の姉妹がいますが、小さ…
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