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61話 活動開始

利民(リミン)の屋敷に一晩滞在した太子は、翌日の昼前に(カイ)で待機していた立勇(リーヨン)以外の近衛達と合流した。


 ――おお、こんなに近衛っていたんだね。


 それも結構な人数で、ここまでの道中でも彼らが潜んでいたことに、雨妹(ユイメイ)は驚く。

 だがそれでも、太子の護衛としては少ない方だろう。

 むしろ御者を含めて四人で移動というのがおかしいのである。

 他にも黄家からも大勢兵士が出ており、万が一にも黄家の領内で事件が起こらないように、最大の気配りがなされていた。


「いい土産話が聞けることを、期待して待っているよ」


太子が雨妹と立勇にそう言ってひらりと手を振ると、軒車に乗り込む。


「出立!」


そして近衛の号令で軒車が動き始め、やがて見えなくなった。

 こうして(キョウ)へと戻って行く太子を見送れば、雨妹のここでの仕事の開始だ。


 ――さぁて、どうやって進めていくかな。


 雨妹とて長期間、(パン)公主にずっとべったり貼りついているわけにはいかない。

 なにより立勇を早く太子に返さなければならないのだから。

 よって、潘公主への減量教育のために見積もっている期間は、おおよそ一月ほど。

 その間にできるだけのことをしておきたい。

 そのためにまずするべきことは、潘公主の体調を元に戻すことだ。

 なので彼女のこれまでの食事や日常生活について、改めて聞くことにした。

 こうして立勇と共に向かった話し合いの場にと用意された部屋の中には、自分たちの他は潘公主とその付き人の娘がいるのみである。

 この付き人の娘は、昨日潘公主と話す際に椅子や卓を用意してくれた人物だ。

 雨妹よりも年上のようだが、お団子頭の可愛いらしい人で。

 今もお茶の準備のためにちょこまかと動き回る様子が、なにやら小動物めいている。


「ありがとう、下がってくれていいわ」


「かしこまりました、いつでもお呼びください」


準備を整えた娘に潘公主がそう告げると、彼女は一礼して壁際に下がる。

 潘公主の付き人の娘と会話する際の表情が幾分か柔らかく見えた。

 仲が良さそうだし、二人の間に阿吽の呼吸というものが感じられるので、彼女は嫁入りの際に連れて来たのかもしれない。


 ――でも確か潘公主って後宮育ちか。


 成人するまで後宮で育つ皇子と違い、公主は後宮から出されて母の実家で育てられる場合もある。

 まあ公主を迎え入れて、恥ずかしくない教育ができる財力がある実家に限られるのだろうが。

 そんな中でも潘公主の母は有力者の娘だったらしいが、娘と離れたくないという理由で実家にやらなかったらしい。

 そのおかげで、潘公主は太子とそれなりに交友があったのだが。

 けどそうなるとこの付き人の娘は、嫁入りの際に皇帝の許可を得て下賜された人員ということになり。

 そこまでしたのであれば、相当に信頼している相手なのだろう。

 まあそんな内情は置いておいて、お仕事の話だ。

 立勇には事前に説明をしており、この場ではただ黙って話を聞いているだけということになった。

 潘公主も男に減量をしている話を聞かれたくないだろうとは思う。

 だが立勇がまとめて警護することで屋敷の者を人払い出来た側面もあるため、ここは堪えてもらう。


「では潘公主、普段のお食事についてお聞きします」


場が整ったところで、雨妹が聞き取りを開始する。


「朝はいつもどうなさっていますか?」


「そうね……」


雨妹は詰問にならないように、他愛ないお喋りの口調で尋ねていく。

 すると潘公主は寝起きの時間が不規則で、基本朝食は食べずに夕食のみなのだということが判明した。

 これは後宮で暮らしていた頃からの習慣らしいことが、付き人の娘からの証言でもわかる。

 やはりこの娘は後宮から一緒に来たらしい。


 ――まあ、後宮ではありがちな生活ではあるんだけど……


 潘公主のように遅く起きて肉体労働のない身であれば、一食でも足りるのだろう。

 しかしよく話をすれば、痩せる前の潘公主は一食抜いた分、空腹なため夕食の量が増えていた。

 つまり朝食抜きでも、摂取する食事量は二食分と同等になっていたのだ。

 さらに日の出と共に起きて日の入りと共に寝る生活な庶民と違い、潘公主は夜も明かりの元で遅くまで起きていることも多い。

 なので夜更かしをして、その間に夜食をつまむのが常だったという。


「潘公主、寝る前のお食事は身体に悪いです」


「……そうなの?」


雨妹が忠告すると、潘公主は初耳だと言うように頬に手を当てる。

 今まで誰からも指摘されたことがなかったらしい。

 どうやらこの国では、内臓の働きについては一般に知られていない知識のようである。

 このあたりの常識を、医官の子良(ジリャン)に確認できないのが少々不安だ。

 けれどここは潘公主のために、「変な娘」だと思われようが突き進むことにする。


「潘公主は、寝起きから疲れていたりしませんか?」


雨妹の質問に、潘公主がため息交じりに答える。


「……確かに朝は体が重くて、だから起きるのが苦手なの」


 ――これは、体内リズムが狂っているな。


 そう察した雨妹は、食事と睡眠の関係について説明する。

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