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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十三章 新たな後宮模様

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610話 急に張り切られても

「あ……」


イェン淑妃は医局で会った時同様、雨妹ユイメイの青い目に怯えて一瞬ビクッとする。この後宮で青い目持ち恐怖症とは、燕淑妃が暮らすのは大変そうだ。


 ――いや、ある意味後宮にいる方がいいのかも?


 なにしろ後宮内での青い目持ちは、公式な存在だと皇帝と太子、あとは友仁などの後宮内での養育を許されている子どもだけ。そうした青い目持ちと会う時は事前に知らされるだろうし、偶然会うなんてことはない。外部から皇族があつまる花の宴さえどうにかすれば、偶然要素は雨妹みたいな変則的青い目持ちくらいしかないのだ。そう思えば、実家で暮らすよりも後宮はいい環境と言えなくもない。


 ――というかこの人には花の宴って、地獄の宴なんじゃないの?


 その上今年の花の宴には東国の者が乱入して騒ぎを起こすという、物理的にも地獄の宴であったのだから、燕淑妃には踏んだり蹴ったりだ。

 そんな雨妹の同情する気持ちはともかくとして。

 燕淑妃はすぐに青い目の主が雨妹だとわかって力を抜くと、気を取り直して話しかけてきた。


「あなた、医局でお話しした方よね?」

「どうも」


文芳ウェンファンから離れた燕淑妃に、雨妹は頭を下げて礼の姿勢を取る。


「ふぅん……」


すると燕淑妃は小首を傾げて雨妹を眺め、何故か雨妹の周りをぐるぐると歩き始めてしまう。


「え、え、え?」


何故このようにされるのか、理由がさっぱりわからない雨妹は戸惑うが、燕淑妃が唐突に手を伸ばして頭巾をスポンと取った。


「あ!?」


頭巾を取られるとは考えていなかった雨妹がぎょっとすると、燕淑妃は髪の手触りを確かめるようにしてから、顔を覗き込み、腕を取り上げて持ち上げたり降ろしたりと忙しない。


 ――私って一体、なにをされているんだろう?


 しばらく雨妹がされるがままな状態であった後、燕淑妃が文芳を見やる。


「文の手伝いなら、この娘はしばらく時間があるのよね?」

「そうね」

「え、あの」


雨妹が返事をする前に、文が頷いている。


「なら、わたくしに付き合えるわよね?」

「そうね」

「え?」


燕淑妃の問いかけに、またもや文芳に勝手に返事をされた。


 ――いやいや、私は宮の中の偵察をしに行きたいんですけれど!?


 しかしこれを正直に声に出すわけにはいかず、必死に文芳を見て目で訴えるが、あちらがそれを汲み取ってくれる様子はなく、ニコリと微笑まれただけである。


「あの、私は淑妃様とご一緒できるような身分では……!?」

「野暮を言わないの」


それでも雨妹は足掻こうとするが、文芳にたしなめられてしまう。そうではないんだと雨妹は訴えたいのに通じない。


「あの……!」


ならば燕淑妃のお付きの方を頼るかと、雨妹はそちらを必死に見やる。雨妹としては「そのような素性の知れない者と触れあってはいけません!」という流れになってほしいのだけれど、なぜか皆が全てを悟ったかのような微笑みを浮かべている。


 ――なに、その「あ~、始まったね」という雰囲気は!?


 なんだか、「お前も早く諦めろ」と訴えかけられているかのようだ。どうやらこの場に雨妹の味方は誰もいないらしい。というか、燕淑妃は仲良しの文芳がいるので心強いのかは知らないが、人が変ったように張り切っている。いや、張り切りすぎではないだろうか?

 こうして結局雨妹は燕淑妃に連行されてしまい、連れて行かれた先は衣装部屋である。


「わぁ……!」


色とりどりの衣装がずらりと並べられている景色は壮観で、雨妹は思わずポカンと口を開けてしまう。


「さあさあさあ!」


そんな呆け中の雨妹を、妙に興奮している燕淑妃が部屋の真ん中に立たせて、お付きの女たちに告げた。


「お着替えの時間よ!」

「はい?」


雨妹はちょっと、今なにを言われたのかわからない。

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― 新着の感想 ―
(許さんからは)人形みたいと言われてる燕淑妃がこれからお人形さん遊びをする訳ですな。
今代の上級妃は変わり種しかおらんのか。類友現象なのか、それとも皇帝の即位の経緯もあってある意味胆力がある女性が選ばれたのか。一族も皇帝との相性はかなり吟味するところだろうし。皇帝が犯罪系統の趣味じゃな…
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