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603話 出会った人は……

このようにして、雨妹ユイメイはどこに向かっているのかわからないまま、ひたすら秀玲シォウリンの後を付いていく。やがてたどり着いたのは、庭園の奥まった場所であった。

 そこで雨妹はあるものを発見する。


「あれ、小屋がある」

建物が木や茂みで隠されて見えないようになっていた。だが東屋ではなく、休憩処とかいうお洒落なものでもなく、物置か作業小屋みたいな建物だ。しかもその小屋の横手には、石や岩がわんさかと積まれているではないか。


 ――え、まさか、ここが目的地だったりするの?


 自分たちは伊貴妃に用事があるのではなかったのか? と雨妹が一人首を傾げていると、秀玲はその小屋の入口に立ち、すうっと息を吸う。


「出て来なさい、いるんでしょう!?」

「ひぇっ!?」


そして響いた秀玲の大声に、雨妹はビクッとなる。


 ガタガタッ!


 けれどその直後に小屋の中で物音がしたかと思ったら、戸が開く。そして中から現れたのは、農民のような作業着姿の女性だった。

 髪は邪魔にならないように頭の上で括っているし、ぱっと見では身綺麗と言い難い。長い時間、それこそ数日くらいこの小屋に籠っていたのではないだろうか?


「秀玲!?」


その女性は秀玲の姿を見て、目を輝かせながら名を呼んだ。


「久しぶりじゃない、最近ちっとも訪ねてきてくれないんですもの!」

「待った」


そう言いながら抱き着こうとする女性を、しかし秀玲が腕を伸ばしてぐっと遠ざける。まあ女性は見るからに汚れているし体臭が気になるので、秀玲が抱き着かれるのを嫌がるのはわからなくもない。


「貴方のその格好、どのくらいここにいるの?」


呆れた様子の秀玲に、女性はウキウキで話し出す。


「それがね、実家から珍しい石が採れたって届いたの! 赤と青が混じっているのよ、すごいのよ!」


全く秀玲の質問の答えになっていないのだが、とにかくこの人は基本的な生活ができていなさそうだというのは、雨妹にもわかる。


「わかったから、落ち着きなさい!」

「それでね~?」


秀玲が懸命に宥めるものの、話を続けながら遠ざけられたのをなおも近付こうとしてもがく女性とで、しばし攻防している。これは秀玲に加勢した方がいいのだろうか? と雨妹が無駄に両手をワサワサと動かしていると。


「あら?」


ふと女性が雨妹の存在に気付いた。


「まあ、まあまあまあ!」

「ひゃっ!?」


今度は女性が雨妹の方に突進してきたのだが、その勢いが若干怖い。雨妹が咄嗟に避けようとしたのと、秀玲が女性の襟首を掴んで止めてくれたのは同時であった。

 しかし彼女の勢いは止まらない。


「青い目の宮女、あなたが張雨妹ね? 噂に聞く、その頭巾の下の髪はどんな風かしら? ああ、明るいところで合う石を確かめたい!」

「わわわ……」


早口でまくしたてながら手を伸ばしてくる女性に、雨妹は顔を引きつらせる。なんだろう、このやたらにグイグイ来る人は? 雨妹はどうにか逃れようと、秀玲の背後に隠れさせてもらう。


 ――けど、なんか見たことがある気がする。


 いや、雨妹はこの女性とは全くの初対面なのは確かなのだけれども、彼女の顔がどこかで見たことがある気にさせられるのだ。


「だから落ち着きなさい、文芳ウェンファン!」


秀玲が本気で叱りつけたことで、やっと女性の勢いが止まった。しかし雨妹の思考も止まる。


「……文芳?」


文芳という名は、貴妃の名ではなかっただろうか?


 ――まさか!?


 目を見開いて女性を凝視する雨妹を見て、秀玲がため息を吐く。


「そう、彼女が伊文芳。伊貴妃当人よ、これでね」

「ええぇ~!?」


雨妹の絶叫が辺りに響き渡った。この驚きは、ひょっとして後宮に来てから一番の衝撃かもしれない。

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― 新着の感想 ―
それなりの大きさ(石や岩が積み重なってるという記述より)で赤と青の混じってる石って事は、チャートかな。 磨けば綺麗な飾り石になるけど、チャート自体はそこら辺に転がってる石だし、安上がりで良い趣味だね。…
伊貴妃、大偉皇子並みにヤバそうな人だった件。 太子も大変だな〜(トオイメ)
なんとなく予想はしてたけど芸術家(コレクター)系かあ。多分磨いたり加工したりもしてそうだなあ。合う石を確かめたいということはアクセサリー加工もしてる?皇子を産めそうな健康な若い女性で、好きな事さえさせ…
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