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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十三章 新たな後宮模様

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602話 いよいよ伊貴妃宮へ

そんな話をしていた間に、軒車は順調に進んでいた。


「そろそろ、貴妃宮が見えてくるわね」


秀玲シォウリンにそう言われたところで、雨妹ユイメイはあのことを聞いてみたくなる。


「秀玲さんは、燕淑妃の『秘密』を知っていますか?」


この直球の質問に、秀玲が「どういうことか」と目を丸くするので、「実は」と話す。


「これは皇帝陛下からの課題みたいなものというか。それがなんなのか、そもそも『秘密』なんてあるのかを、これから探るんです」


握りこぶしを目の前に掲げて気合を入れる雨妹に、秀玲は「ふふっ」と笑う。


「まあ、謎解きというわけね。頑張りなさいな」

「……はい!」


秀玲からの励ましに、雨妹はニカッと笑う。


 ――秀玲さんは『秘密』を否定しなかった。


 もし雨妹が見当違いのことを言ったのならば、もしくは危険に近付こうとしていたのならば、秀玲のことだから、やんわりと指摘してくれただろう。ということは、燕淑妃の謎に繋がる『秘密』はやはりあるのだ。

 こうして雨妹の中でふつふつとやる気が湧いてきたところで、軒車が伊貴妃宮に到着した。

 軒車が門を通って中に入れば、案外質素な庭園が出迎えてくれる。だがその庭園というのが、季節の花々はちらほらと咲いているものの、他の宮の自慢の庭園のような花の匂いがあちらこちらから匂うような華やかさには欠けている。かといって庭園の手入れが手抜きというわけではなく、美しく整えられていた。


「貴妃の庭園らしくないでしょう?」


戸惑う雨妹の内心を見透かすような秀玲の言葉に、雨妹はビクッと背筋を伸ばす。


「いや、なんというか、素朴ですね」


なんとか褒め言葉を捻り出そうとしたがあまり成功したとは言えない雨妹に、秀玲は「ふふっ」と笑う。


「いいのよ、素朴という表現で合っているわ。青州は花が咲き誇るような土地ではないから、伊貴妃がこういう景色の方が落ち着くのですって」

「なるほど、そういうお土地柄なのですね」


他から訪ねてくる他人のためではなく、宮で過ごす伊貴妃のために整えられた庭園なのだ。見栄えではなく宮の主の好みを大事にするというのは、雨妹には好感が持てた。


 ――お客さんは花咲き誇る景色が見たければ、余所に行けばいいんだもんね。


 庭園を過ぎて見えてきた建物の前で軒車が止まり、雨妹と秀玲が降りると、そこには既に出迎えの人々が待っていた。


「お待ちしておりました」

「早くに来てしまって、ごめんなさいね」


出迎え役の女官にそう言って微笑んだ秀玲が、軒車の御者から差し出された包みを受け取って女官に渡す。おそらく訪問の手土産だろう。


「伊貴妃、文芳ウェンファンはどちらにいらっしゃるの?」

「……ご案内いたします」


秀玲が問うと、女官は一瞬の間を挟んでそう述べた。これに雨妹は首を捻る。


 ――いやいや、客人と会うならそういう部屋でじゃないの?


 それがまず場所を尋ねる秀玲もおかしい。だが雨妹がここでそんな突っ込みをできるはずがなく、秀玲と女官に黙ってついていくしかない。

 こうして案内されるままに回廊を進んでいくが、その足が宮の中央にあるおそらく伊貴妃が暮らしているであろう建物から遠ざかっているように思えるのだが。


 ――ねえ、私たちってどこに行っているの?


 実は雨妹たちは伊貴妃宮から歓迎されていないのではないか、などと思えてきたところで、秀玲が女官に聞いた。


「もしかして、入り浸りかしら?」


これに、女官が困ったような笑顔を浮かべる。


「ええ、ここ数日は興に乗っていらっしゃるようで」

「まあ、いつまでも変わらないこと」


答えを聞いて秀玲がコロコロと笑う。雨妹にはなにかの暗号みたいなやり取りだったが、その間にも足はずんずんと進み、とうとう回廊からも逸れてしまった。


「この先は、お二人でどうぞ」


さらに案内役も途中でいなくなるなんて、そんなことがあり得るだろうか? しかし秀玲は「そうね」と軽く頷いただけで、勝手知ったるという様子で雨妹を連れてさらに進む。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 興にのっている・・・太子様の母君様の文芳様は、もしかしてオタク風味な御方だったりして? だとしたら何に夢中になっているのか判りませんが、雨妹ちゃんとは結構気が合いそうな御方かもし…
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