表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
586/624

582話 こちらも、また会った

なんと切ないことを言うのだろうと、雨妹ユイメイまで悲しくなってくる。


 ――自分が嫌い、かぁ……。


 卑屈とも思える発言だが、妃になるような人物とは、こういうところが両極端なのかもしれないとも、雨妹は思う。

 なにしろ妃というのは、それが妃嬪であれ四夫人であれ皇后であれ、自ら立候補してなれるものではない。宮城からの要請を受けてそれぞれの一族が「これぞ」という女性を選び出すのだ。そういう時に選びやすいのは、自分のことが大好きで「私が一番!」という自信に満ち溢れていて、崇め奉られることが快感である人か。もしくはそれとは逆に、一族の主に粛々と従っており、自己を消すことで生き抜いている人だろう。

 一族にとって扱いやすいのは、後者の女性であることは言うまでもないが。


 ――なんだかなぁ。


 雨妹がチェンとなんとなく顔を見合わせていると。


 コンコン!


 部屋の入口を叩く音がしたので、雨妹はハッとしてそちらを振り向く。誰か来たのに、話に集中していて全く気付かなかったとは、迂闊である。

 入口の壁を叩いたのは、そこに立っている人だった。というか、雨妹には微かに見覚えのある姿だ。そう、イェン淑妃宮を訪ねた際に門番をしていた女性ではないか。


「失礼、声をかけても返事がなかったもので、勝手に上がらせてもらった」


その門番の人は、そう言って軽く目礼したのだが、雨妹を見て目を丸くした。


「おやお前、あの時の掃除係の宮女ではないか」


あちらも雨妹のことを覚えていたようで、すぐに納得したような顔になる。


「そうか、お前はこちらによく世話になると言っていたな。ちょうど居合わせたのか」

「……あ」


そう話す門番の人を見て、彼女はすっと表情から感情が消えてツンと澄ました顔になった。


 ――うわぁ、即変わった!


 その仮面を被るかのように表情を変える瞬間に、雨妹は「人形のようだ」という許の話を思い出す。あれは、この人が重度の人見知りだという以外にも、なにか理由があるのかもしれない。


「主、それで『お願い』はできましたか?」

「……途中です」


門番の人が彼女にそう尋ねたら、小声でかろうじてそう答えた彼女に、門番の人が微かに眉を上げる。「時間がかかり過ぎでは?」と言いたいのかもしれない。時間がかかっている主な要因は雨妹の存在である気がしてならないので、そこは責めないでほしいところだ。

 門番の人は、年頃はヤンよりも多少年上だろうか? 主と呼ばれている彼女の、親ほどではないが、ひと世代上なのは間違いない。彼女はツンとした顔をしているものの、門番の人に対して緊張している様子ではなかった。案外気安い相手なのだろうか? それに門番の人は宮女の格好をしているが、このようないかにもお忍びでの行動について来るのだから、主やその周辺から信頼を得ているのは間違いないだろう。


 ―― 一人で行動しているように見せて、つかず離れずの距離にこの人がずっといたってことか。


 なにはともあれ、雨妹がまた燕淑妃宮へ知らせに走る必要はないようで、そこにホッとする。

 そしてなんとも気まずい沈黙がこの場に降りたのだが。


「いいですかな?」


そこへ、陳が彼女の方を見ながら手を上げて発言を求めた。


「……なにかしら?」


これまでとは違って感情の乗らない小声で発言を促した彼女に、陳は告げる。


「私は患者が求めれば診察もしますし、薬も出しましょう。けれど、やはり一度姐姐(ジェジェ)様ご本人の話を聞きたいのです。なにが苦しくて、なにが不自由なのか、それを確かめることが治療の第一歩ですから」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 まぁ、雨妹ちゃんのお母さんや王美人の様に、皇帝に見初められて下級の妃嬪になる方もいるでしょうが、上級妃になる方は其々の一族から選ばれた方ですからねw 色々あるのでしょうが、なんと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ