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579話 誰か来た

 確かに、雨妹ユイメイはこうして気軽に医局の中へ入ってしまえるが、慣れない人だと戸を叩くのにも勇気がいるだろう。とはいえ、こんなに声を聞き取るのも手間がかかるくらいに遠慮深すぎるのは、一体どこの宮女なのか?

 その上、今のこの部屋は生姜まみれ状態である。


「しまった、片付けないと人を入れられん」

「私、まず表を見てきます!」


そんなわけで、大急ぎで生姜を片付け出したチェンに代わって、雨妹は医局の入口まで様子を見に行く。


「はいは~い、こちら医局ですよ~!」


無関係の雨妹が表に出ると混乱させるかもしれないと思い、そう呼び掛けながら戸を開けたのだが。


「……あれ?」


すると、入り口前に人影はなかった。


 ――おかしいな、小さいけれど、確かに入口から聞こえた声だったのに。


 それとも、ひょっとして悪戯だったのだろうか? そう思い始めたところだけれど。


「……ん?」


雨妹は視界の端で、少し離れた木の影に隠れるようにして、誰かがひっそり立っている様子を捉えた。ひょっとして、あちらが声の主だろうか?


「あのぉ、先程声をかけていたのは、あなたですか~!?」


雨妹が呼びかけると、その木陰にいる人はビクッとしてから、恐る恐る姿を半分だけ現す。


 ――う~ん、怪しいな。


 半分だけ見えたその姿は、顔までを目深に覆う外套を羽織っていた。いかにも「こっそり行動しています!」と無言の主張をしていて、これを怪しいと言わずになんと表現すればいいのか? しかし、雨妹は敢えてそれを気にしないことにして、その人影の方へ近付いていく。


「医局にご用事ですか?」


雨妹が目の前まで行くと、外套の奥からその人の視線を感じた。


「……!」


ところが、そこでなぜか相手が固まってしまい、全く動かなくなってしまう。


「あの~? 湿布薬がいるとか?」


それでも雨妹がなんとか会話を促すのに、今度はガタガタと震えだしてきたではないか。


 ――なに、私がなにかしたかな!?


 雨妹まで一緒になって震えそうになっていると、しかし相手がほんの少しだけ気を持ち直したようだ。


「あの……用事が、ございます……」


そんなか細い女性の声がやっと聞こえてきた。よかった、やはりこの人が声の主だったのだ。けれどその声は震えていても、まさに「鈴を転がすような」という表現が似合う耳よい声である。


「えっと、とりあえず中に入ります?」


雨妹の提案にその人がコクリと頷いたので、ようやく陳の待つ部屋へと誘導した。


「陳先生、お待たせしました!」

「なにか揉めていたのか?」


呼んでくるだけの作業にえらく時間をかけていたからだろう、なんとか生姜の籠を全て隅に寄せた陳が心配そうな顔をしていた。


「いえ、揉めてはいないのですが……」


雨妹は困ったように眉を寄せつつ、後ろからしずしずとゆっくり着いてきた人を振り返る。


「え~っと、かなり人見知りをする方のようでして。医局に用事ではあるみたいなのですが、具体的な話はなにも聞けていません」


雨妹がありのままの現状を語ると、陳が「なるほど」と苦笑する。


「私がここの医官の陳です。先程から震えていますが、具合が悪いのですか?」


陳が尋ねると、その人は雨妹を震える手で指し示した。


「……その、そちらの方がこわ……恐れ多くて」


「怖い」と言いかけたのを言い直された。なんと、雨妹の存在が怯えさせていたらしい。


 ――私が怖かったの!?

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― 新着の感想 ―
髪の毛と目の色だな
ちょっと皇族の血を引く目をしてて複数の皇子と親交があって大公を手紙で呼び出せるくらいの一般官女なのに、何を恐れているのだろう……?
さては雨妹、知ってる人のところだからって頭巾被るの怠ってるな?
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