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578話 生姜まみれでおやつの時間

そんなことがあってから、数日後。

 本日お休みである雨妹ユイメイは、息抜きに医局のチェンのところへおやつ持参で訪ねることにした。


「陳先生~!」


雨妹はいつもの調子で勝手知ったる医局へ上がれば、陳は部屋で作業中である。


「陳先生、おやつ持ってきました、麻花を食べましょ~!」

「おう、ちょうど休憩したかったところだ」


雨妹が掲げる美娜メイナ特製麻花を見て、陳は嬉しそうにしているが、それにしても足の踏み場に迷う程に籠がたくさん置いてある。その籠の中身は全て生姜であった。どうやら陳は保存するために乾燥させる作業中らしい。中にはまだ葉生姜なのもあって、それらを分けるのも大変そうだ。


「生姜が届いたんですか?」

「おうよ、早くしねぇと傷むからな」


雨妹が生姜の香りがプンプンする中で、うっかり生姜を踏まないように慎重に進むのに、陳はとりあえず近場の場所を開けてくれる。


「そうだ。湯を沸かしたらほら、この葛と生姜を入れてくれ」

「わぁ、いいですね生姜湯!」


陳から棚から取り出した葛の粉末と、近くに転がっている生姜のかけらを渡され、雨妹は喜んで湯を沸かしに行く。

 竈に置いてあった鍋で沸かした湯に葛と生姜、それに甘さを加えるのに水あめを入れて、しばらく火にかけたまま混ぜれば、葛と生姜の匂いが相まったいい匂いがとたんに広がる。透明になってとろみがついたところで完成であり、それを器に掬ってからお盆に載せて、陳のところへ戻る。


「どうぞ!」

「おう、いい匂いだ」


陳は雨妹が差し出したお盆から器を一つ手に取ると、ふぅふぅと息を吹きかけて一口飲む。


「生姜が届いたら、まずコレを飲まなきゃあな」


陳が嬉しそうにするのに、雨妹もウンウンと頷く。


「この時期の生姜は、香りがいいですねぇ」


生姜は生と乾燥したもので風味が変わる。乾燥した生姜のちょっと甘さの感じられる香りもいいが、雨妹はどちらかというと生の生姜の爽やかな香りの方が好きだ。


「それに、麻花と合うな」


陳はそう言って、生姜湯と麻花を交互に口にした。

 こうして美味しいおやつで和んでいたところで、雨妹はふと例のことを思い出す。


「陳先生、あの時の女官様はその後来ましたか?」

「あん?」


雨妹に問われ、陳は少し考えてから思い至ったようだ。


「ああ、あのイェン淑妃のところの女官か。いいや、見ねぇなぁ」


そしてあっさりと首を横に振った陳に、雨妹は「やっぱりね」と苦笑する。


「あの後、あのお人と偶然またお会いしたんです。その際に、ちゃんとお医者様に診てもらった方がいいと、お節介ながらお伝えしたんですけれど。『これは行かないだろうな』っていう答え方だったんですよねぇ」

「はは、本当にお節介をしたなぁ」


ため息交じりに話す雨妹に、陳が笑ってから麻花を齧る。


「偉い女官様には色々あるんだろうけれどな。ありゃあ仕事人間な感じだったな」

「そうなんですよ。何事も身体が資本なのになぁ」


雨妹はそう愚痴ってから生姜湯をズズッとすする。


「まぁ、来たらちゃんと薬を出すさ」

「来るといいんですけど」


雨妹と陳がそんな風に語っていた時。


「……」


風に乗ってなにかの音が聞こえた気がしたので、雨妹は集中してよくよく耳を澄ませた。


「どうした?」


急に真剣な顔になった雨妹に、陳が怪訝そうにする。


「しっ、なにか聞こえません?」


雨妹がそう言うと、陳も同じように耳を澄ませてから、しばらくして。


「……し」


やはり音がした。というか、人の声だ。


「もし、もぅし……」

「陳先生、誰か来てます!」

「本当だ!?」


三度目でようやく内容を聞き取れて、雨妹たちは慌ててしまう。ひょっとして雨妹たちが話に夢中になっている間、かなり待たせてしまっているのではないだろうか?

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― 新着の感想 ―
これは~燕淑妃のお姉サマではなく、呉様では? いや、雨妹。本当に運が良いのか悪いのか、『宮荒らし』と遭遇ですよ?! いやいや。もしかしてもしかしたら、お姉サマのことを心配した、燕淑妃のお使いやも? で…
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