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575話 喧嘩の行方は混迷す

 ――どうなる、どうなるの!?


 ドキドキする雨妹ユイメイと同様に、この場に居合わせたために足を止めて頭を下げていた者たちがかすかに顔を上げて、皇后宮の一団を注視しているのがわかる。

 しかし皇后宮の思惑に従ってやる義理など、イェン淑妃宮側にはない。あちらは守られるように囲まれていた中から例の女官が、呆れた表情を隠しもせず先頭に出てきた。


「皇后陛下の使いっ走り共よ、このわたくしになんぞ用事か?」


しかも開口一番の言葉が強い。あの女官は皇后宮の一団をパシリ扱いした上に、「ふん」と鼻で笑った顔で言うのが、なんとも嫌味ったらしい。あんな態度をとれるということは、皇后宮側の面子にあの女官と同等に偉い人はいないのだろう。

 この燕淑妃側からの先制攻撃に、皇后宮側ではあからさまにカッとなっている。


「頭を下げよ、皇后陛下へ不敬ではないか!」


皇后宮側の先頭に立つ者がそう叫ぶが、燕淑妃側は聞こえぬ風を装っているし、誰も女官をたしなめたり取り成したりはしない。


「無礼が許されると思うな!」


しかし相手があまりに引き下がらずに騒ぐものだから、女官が煩わしそうにため息を吐く。


「お前は皇后陛下ではないであろう? それなのに、何故お前が偉そうに頭を下げろと言うのか? それこそが不敬」


ぴしゃりと断じられて、皇后宮側は一瞬黙ってしまった。


「それにわざわざこちらへ足の向きを変えてきたそちらが、なにか頼みがあると見た。ならば下手にでるべきはそちらであるのが道理よ」

「なにを、屁理屈を……!?」

「屁理屈とな。ではなんの目的で方向を変えたのだ?」


皇后宮側もここで「嫌がらせのためです」と素直に言えるわけもなく、地団太を踏みたそうに顔を真っ赤にする。

 完全に勢い負けしている皇后宮側だが、あの女官の言い分に「配下への不敬はすなわち皇后陛下への不敬だ!」と言い返すこともできただろうし、実際に仕える下っ端宮女までを守るのが宮の主の名前である。これは皇后宮側があの女官の言い分に共感を覚えてしまったというよりも、あの女官が皇后宮の論理を真似てきたという方が正しいのかもしれない。


 ――う~ん、言葉遊びは燕淑妃側に勝負ありか。


 そこへ、あの女官はさらに追い打ちをかける。


「それに、わたくしも皇后陛下へ敬意を表しはしよう。だからそなたらともこうして言葉を交わして差し上げている。だがわたくしが頭を下げるのは我が主と、皇帝陛下のみ。そう心得ておきなさい」


女官がどこまでも上から目線の姿勢を崩さぬのは、いっそ天晴れである。

 それにしてもあの女官だが、雨妹と会話をしたあの時はそんな高飛車な会話をしておらず、それに立ち振る舞いに武骨な印象を持ったものだが、今はまた違った顔を見せているのはなんとも不思議な人だ。

 なにはともあれ、両者の勝負はついたし、あとはどうやってこの場を去るかというところだったのだが。


「なにを騒いでいるのですか」


ふいに離れた所から静かな声が割って入った。なんと勇気のある御仁だろうかと思って視線を移せば、女官が一人ゆったりとした足取りで皇后宮と燕淑妃の集団の方へやってきていた。


 ――あの格好、皇后宮の女官だな。


 歳は楊よりも年上であろう。しかも身分が高そうで、燕淑妃側は警戒するように沈黙する。


「わたくしの配下が、なにか粗相をいたしましたので?」


新たに現れた女官は皇后宮の一団の先頭まで来ると、燕淑妃側に朗らかな口調で話しかけた。


「……いいえ、挨拶を交わしていただけにございます」


それに、燕淑妃側の女官はそう話を逸らしたものの、皇后宮側に初めて丁寧な態度を見せた。ということは、彼女が皇后宮の筆頭女官なのか。

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この皇后宮の女官が件の「女狐の手先」なのか、それとも女狐本体なのか。
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