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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第五章 海の見える街

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56話 公主との対面

宿で寛ぎの一時を過ごし、一夜が明けた翌朝。

 天候は晴天、旅日和である。

 宿を出た雨妹(ユイメイ)たちは再び軒車に乗り込み、(カイ)を目指す。

 太子と他愛ないお喋りをしつつ、軒車が小高い丘に差し掛かった時。


「雨妹、外を見てごらん」


ふいに太子がそう言った。

 素直に小窓から顔を出して外を見た雨妹の視界に飛び込んできたのは、丘から見下ろす先にある、日の光を反射して光る景色だった。


「……海だ!」


異世界の海もやはり青かった。

 そして吹き抜ける風に潮風が混ざっているのを感じる。


 ――潮風って、世界が違っても同じ香りなんだなぁ。


 妙に感心してしまい、ずっと小窓から顔を出していると、「落ちたら危ないだろうが!」と立勇(リーヨン)に叱られてしまった。

 ともあれ軒車は海へ向かって走り、昼頃には佳に到着した。

 街中は都である(キョウ)に劣らず賑やかだったし、それになにやら雰囲気が違う。


 ――建物に西洋風が混じっているんだ。


 宿場町で寄った店も西洋風だったが、こちらは街並み全体が中華と西洋が混じったような雰囲気で、前世で言えば香港の街並みが近いだろう。

 雨妹がどこか懐かしい気持ちで通りの様子をじいっと眺めていると、太子が小さく笑って語る。


「街並みが少々珍しいだろう?

 佳は港がある分、海の向こうの文化が混ざっている。

 だから建物もちょっと独特なんだ」


「そうなんですねぇ」


太子の話に相槌を打ちつつ、雨妹はとある事に思いを巡らせる。

 ということは、海の向こうには西洋風の文化を持つ国があるということで。

 そちらにはひょっとして既製品のパンツが流通しているだろうか。

 だとしたら、この街で探せば、パンツが見つかるかもしれない。

 ぜひ街へ滞在中に探してみたいものだ。

 そんな事を考えている雨妹を乗せた軒車は、やがて街の中心部にある大きなお屋敷へと入っていく。

 こちらもまた、西洋風な様式が混じっている大きなお屋敷である。

 他の土地の諸侯の住まいを、辺境から出て来た時に遠目に見たことがあるが、どれも城塞のような造りであった。

 それに比べてまるっきり洋館のようなこの屋敷は、この佳の街並みには溶け込んでいるが、諸侯一族の住まいとしては異色だろう。

 そして軒車の中で太子から聞かされた情報だと、ここに住む公主の夫である男は黄利民(ホァン・リミン)というらしい。

 屋敷前では、大勢が地に額付いて軒車を迎えていた。

 そして太子が軒車から降りると、出迎えの一同の中から一人の青年が身を起こして進み出る。彼が利民だろうか。


「太子殿下、ようこそお越しくださいました」


「久しぶりだね利民」


そう言って首を垂れる青年に、太子も微笑みかける。

 やはり彼が利民らしい。


「太子殿下、どうか我々の出迎えが遅れたことをお許しください」


利民はそう言って再び額付く。

 太子を迎えるとなると本来ならば、黄一族の治める領内に入ったところで出迎えるのだろう。

 利民はそれを行わなかったことを謝罪しているのだ。


「利民、皆もどうか立ってくれ。

 こちらが知らせなかったのだから謝罪など不要だ」


太子がそう告げて利民や他の面々を立たせたところで、後ろから女が一人進み出た。


「太子殿下、(ユウ)です。お久しゅうございます」


そう話す彼女が、降嫁した公主で雨妹の姉の潘玉(パンユウ)だという。

 一体どんな人なのだろうと、道中に想像していたのだが。


 ――なんか、ずいぶん痩せているなぁ。


 というか、痩せ過ぎている。

 顎がずいぶん骨ばっており、衣服に隠れているが、身体つきも見るからにガリガリだ。


「玉、その姿は……」


太子が彼女を見て絶句している。この様子だと、かつてとはまるで違う姿なのだろう。

 だとしても、昔とどのくらい違うのかが雨妹にはわからない。


「潘公主って、以前はどんな風だったんですか?」


太子の背後に控える雨妹が隣の立勇に小声でひそっと尋ねる。


「……以前はどちらかと言えば、なんというか、ふっくらとしたお方だった」


すると立勇が表情を変えずに教えてくれたが、その言葉を探りながらの表現に悟るものがあった。


 ――ああ、潘公主ってぽっちゃり系だったのか。


 それなら痩せ過ぎだろうし、驚くのも無理はない。


「玉、痩せたとは聞いていたが、一体どうしたというんだい?」


驚きのあまりに思わずこの場で尋ねてしまった太子に、潘公主はそっと目を逸らす。


「風邪をひいて以来、どうにも食が進まないのです」


そう告げて顔を伏せた潘公主は、本来ならば今の姿を人前に晒したくなかっただろう。

 それでも太子が自身の見舞いに来るとあっては、出迎えないわけにはいかない。

 でないといらぬ疑いをかけられてしまうため、どれほど重病であってもこの場に来ようとするものだ。

 痩せ細った身体を兄に見られた羞恥故だろう、一人身体を震わせる潘公主に、利民が腕を伸ばしてそっと肩を撫でた。


「太子殿下、このような場所で長話もなんですから、ぜひ我が屋敷へお入りください」


「……そうだね、そうさせてもらうよ」


こうして雨妹達は利民の屋敷へと入っていき、庭園の見える一室へ通された。


 ――うわぁ、遠くに海が見える!


 雨妹一人であれば、即座に庭園の方へ駆け寄るところだ。

 景観が良いからこそ、この部屋に通されたのだろう。

 けれどそこをぐっと堪え、立勇と一緒に太子の後ろに立つ。

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